(CNN) 高級品の価格高騰が話題になっているが、ファッションアイテムが最も目を見張るような金額で取引されている場はオークションだ。
2022年にはジョーン・ディディオンさんが所有していたセリーヌのサングラスが2万7000ドル(現在のレートで約420万円)で落札され、23年にはニルヴァーナのフロントマン、カート・コバーンさんがかつて着用していたリーバイスに41万2750ドルの値が付いた。3月に取引された、エルトン・ジョンさんが所有していたダイヤがちりばめられたヒョウ柄のロレックスは17万6400ドルだった。しかし、昨年114万ドルで落札された黒い羊が施された、ダイアナ元妃のセーターに比べれば、これらの金額は微々たるものだ。
テレビや映画、さらにはコマーシャルのセットに登場したファッションアイテムが高値で取引されることもある。今年だけでも「メディア王〜華麗なる一族~」に登場した、いわゆる「滑稽なほど大容量」のバーバリーのバッグが1万8750ドルで落札され、ニコール・キッドマンさんがAMCシアターズのバイラル広告で着ていたスーツは9525ドルで落札された。「ザ・クラウン」の衣装や小道具のオークションでは総額210万ドルの値が付いた。
サザビーズ、ボナムズ、クリスティーズといった一流オークションハウスにとって、ファッションは過去10年間でより優先順位の高いものとなり、オンラインで入札できる新世代の顧客を引き付ける戦略において重要な役割を果たしている。
サザビーズのハンドバッグとファッションの専門家であるルーシー・ビショップ氏は「今や、お金を持っている必要があるが、お金さえあれば、誰でも参加できるようになった」と語る。
黒い羊が施された、ダイアナ元妃のセーター=2023年7月、英ロンドン/Frank Augstein/AP
販売価格は広く公表されているが、オークションハウスは入札者の身元に関して、弁護士と依頼人との間の秘匿特権のようなものを維持している。
買い手は通常、いくつかのカテゴリーに分類される。美術館や博物館などの施設、個人収集家、ビンテージ品の販売業者、熱狂的なファンなどだ。投資に対する大きなリターンを期待して購入する人もいれば、その可能性をおまけ程度に考える人もいる。ほとんどの人のアイテムを所有したいという欲求は長年の情熱によるものであって、アイテムの希少性は魅力の一部に過ぎない。
重要な意味を持つアイテムであればあるほど、潜在的な買い手は少なくなる。ビショップ氏は「この世界は知る人ぞ知る高級クラブなのだ」と話す。
特定のデザイナーやファッション史に刻まれる出来事と関係があったり、オードリー・ヘプバーンさんやダイアナ元妃のような人物が着用したものであったりする、歴史的に特に重要なものは一般的に英ロンドンのビクトリア・アンド・アルバート博物館や米ニューヨークのメトロポリタン美術館のような施設が買い取る。個人収集家が購入した場合でも、美術館の展示品として貸し出される可能性がある。
セレブリティー自身が購入することも多い。例えば、レディー・ガガさんやキム・カーダシアンさんはマイケル・ジャクソンさんの服を購入している。購入したアイテムの宣伝に一役買うこともある。女優のラバーン・コックスさんは、自身が入手したミュグレーのコレクションをレッドカーペットで着用することで知られている。実際、今日スターたちが身に着けているアーカイブファッションの多くはオークションを通じて入手されている。
ミュグレーのコレクションを披露するラバーン・コックスさん/Jordan Strauss/Invision/AP
ビショップ氏は「ファッションのオークションは、数十年にわたりハリウッドのスタイリストたちが守ってきた秘密だったが、その秘密は今、確実に漏れている」と言う。
セレブリティーが所有するものであろうとなかろうと、象徴的なアイテムを追い求める人々は情熱に突き動かされている。
ビンテージファッションの販売業者でぜいたくなアーカイブの多くをオークションによって入手しているシャノン・ホイ氏は「必要なのは、特定のデザイナーに対するある種の愛着だけだ」と言う。ホイ氏は、デザイナーと協力してコレクションの参考資料を作成したり、スタイリストと協力してレッドカーペットや記事、映画にアイテムを登場させたりしている。
著名な公人や文化財とのつながりを求める人もいる。「ザ・クラウン」でダイアナ元妃を演じたエリザベス・デビッキさんが持っていた19年のレディディオールのハンドバッグは、一般小売価格の4000ドルではなく1万2000ドル以上の値が付いた。
テキサス州ダラス在住でヴァレンティノ、サンローラン、シャネルを購入しているレイ・アン・クラークさんは昨年クリスティーズで、長年「ヴォーグ」の編集に従事したアンドレ・レオン・タリーさんのバーキンを手に入れた。
クラークさんは「このバーキンは、おそらく私が雑誌の中で見た写真の撮影のためにすてきな場所に向かう飛行機の中でアナ・ウィンターさんの隣に置かれていたのだろう」と話す。「(タリーさんの)一部を理解したような気がするし、彼がもし私を知っていたら、私の一部を理解してくれたかもしれない」
クラークさんは、このバーキンを日常的に使うのではなく、クローゼットに飾るつもりだ。
アンドレ・レオン・タリーさんのコレクションの一つであるゴールドの金具をあしらったバーキン=2023年2月、米フロリダ州パームビーチ/Meghan McCarthy/USA Today Network
一方、カリフォルニア州在住の教師、レニー・プラントさんは、ダイアナ元妃のアイテムを89点手に入れた。その中には、米ファッション雑誌「ハーパーズバザー」の1997年11月の表紙を飾ったヴェルサーチェのドレスも含まれている。これはパリで亡くなったダイアナ元妃に敬意を表して掲載されたもので、ブラントさんは2015年に20万ドルで手に入れた。プラントさんは幼少期の1983年にダイアナ元妃がオーストラリアを訪問した際、握手したときからダイアナ元妃への愛着を持ち続けている。
プラントさんは現在、自身の収集物を紹介するウェブサイトを運営しているが、大規模な展示会の開催も視野に入れている。今のところ、収集した服はカリフォルニア州の空調管理された倉庫に保管している。
プラントさんは「彼女の人生にはとても意味がある。彼女の物語を伝えたい」と言う。「彼女の優しさと、彼女の手に触れただけで何年も前から彼女のことを知っていたかのような気持ちにさせる能力について」
大きなリターンの可能性は、オークションに新しい種類のファッションバイヤーを引き付けた。そのような人たちは投資としてオークションに目を向けている。報道陣の注目を集め、幅広いバイヤーを引き付け、しばしば高い評価を受ける、セレブリティーに関連したアイテムに特に興味を示す。人気を博した映画に関連したアイテムは通常、売れやすくなる。例えば、ホイ氏は映画「セックス・アンド・ザ・シティ」でキャリー・ブラッドショーが結婚式に出席するつもりで身に着けていたフェザー付きのヘッドピースを出品。2023年にサザビーズで2万5400ドルで売却した。
投資対象としてのアイテムの関心は、「セックス・アンド・ザ・シティ」の衣装にもおよぶかもしれない/Craig Blankenhorn/HBO
高値が付く次なるアイテムは、ステージ上や舞台裏で常に作り出されている。セレブリティーが所有するアイテムや記念品を扱うジュリアンズ・オークションズのエグゼクティブディレクター、マーティン・ノーラン氏は、映画「バービー」のファッションアイテムを手に入れるのは誰かといううわさがすでに渦巻いていると言う。
次の大きな入札は、すでに高額で取引されたアイテムになる可能性もある。新しい状況や単なる時間の経過によって価値が加わる可能性があるためだ。キム・カーダシアンさんが22年に「メットガラ」でマリリン・モンローさんのドレスを着用したことで、ドレスの完全性が危うくなったと言う人もいれば、1999年に127万ドルで売却され、2016年には480万ドルとすでに価値が3倍以上になっているこのドレスに新たな重みが加わったと主張する人もいた。このドレスはモンローさんが1962年、ジョン・F・ケネディ大統領の誕生日に「ハッピーバースデー」を歌うために着用したものだった。
ノーラン氏は「あのドレスは、セレブリティーの二重の不幸なつながりによって今では1000万ドルで売れるだろう」と語った。