(CNN) 今年9月、ウクライナ・ファッションウィークが首都キーウで開催される。2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来初となる。
約50のブランドが、伝統的なランウェーショーからインスタレーション、プレゼンテーション、パフォーマンスに至るまで、さまざまな媒体を通じてショーを行う予定だ。プレスリリースによると、イベントの大半はウクライナの国立芸術文化博物館複合施設、ミステツキー・アーセナルで開催され、デザイナーやモデルらが「団結の象徴的なデモンストレーション」として市内でパレードを行う。
ロシアのプーチン大統領が隣国ウクライナへの侵攻を命じてからおよそ3年が経過し、3万人以上のウクライナ兵が命を落とした。ロシア軍がさらに多くの損失を被る中(英国防省は7月、5月と6月だけで7万人以上のロシア兵が死亡もしくは負傷した可能性があると発表)、モスクワ市当局は兵士を募集しようと、軍との契約時に約2万2000ドル(約330万円)という記録的な一時金を新兵に提供している。
「国中ではまだ戦争が続いており、国全体で戦争を感じている」とウクライナ・ファッションウィークの国際広報責任者であるリサ・ウシュチェカ氏はCNNとのビデオ通話で話した。「ミサイル攻撃、停電、電力不足のせいだ。非常に激しい砲撃を受けている地域、苦しんでいる地域がある。我々はそれに慣れ、この戦争の現実の中で生きていかなければならない。これが我々の新しい現実だ」
ファッションウィークではあらゆる事態を想定した防護措置が取られる。例えば、ほとんどのショーが行われるミステツキー・アーセナルには防空壕(ごう)が設置されている。「空襲警報が鳴ったら、すべてのゲストは防空壕へ避難するよう求められる」とウシュチェカ氏は説明する。
ロンドンで行われたウクライナ・ファッションウィークの舞台裏。左からクセニア・シュナイダー、イワン・フロロフ、ジュリー・パスカルの各氏/Jeff Spicer/BFC/Getty Images/File
こうした状況にもかかわらず、イベントを担当する広報チームの担当者は「地元メディア、業界のタレント、インフルエンサー」が参加予定だと述べた。だが、ウクライナ国外にいるファッション業界人が参加するのは厳しい状況かもしれない。英外務・英連邦・開発省は依然としてキーウを含むウクライナの大半の地域への渡航を控えるよう勧告している。米国務省はウクライナへの渡航警戒レベルを最も高い「レベル4」に指定し、民間人が紛争地を訪問しないよう警告している。
主催者らはこの半年間、キーウ開催の可能性について議論してきたという。「戦争が激化し、予期せぬことが起きた場合、状況は日々変わるため、もちろん最悪のシナリオではキャンセルもあり得る」とウシュチェカ氏はCNNに語った。ショーケースに出展予定でキーウ生まれのファッションデザイナー、イワン・フロロフ氏は、ウクライナ人の精神は逆境に対してこれまで以上に適応力を増していると付け加えた。「戦争が始まって以来、我々にはプランBだけでなく、プランC、G、さらにはZまである」
「しかし、人生は止まらない」(ウシュチェカ氏)
ウクライナのデザイナーが自国でコレクションを発表するのは、戦争が始まって以来初となる。過去3シーズンは、ベルリン、ロンドン、コペンハーゲンで開催されたファッションウィークで、国外に逃れたウクライナ人デザイナーのためにランウェーが提供された。23年2月、フロロフ氏はロンドンで、クセニア・シュナイダー、パスカルの2ブランドと共に参加したグループショーで23年秋冬コレクションを発表した。「その可能性にとても感謝した」とフロロフ氏はズームで語った。「我々にとって、あのショーはただ手を差し伸べて『助けが必要だ』と訴えるためのものではなかった。『我々はとても強く、才能があり、あなた方と同じだ。我々はここにいるのだ』と言うためのものだった」
参加ブランドはそれぞれ、市内に新設される緩和ケア病棟の支援に寄付を行うことに同意している。寄付金は重度で治癒不能な怪我(けが)を負った患者を助けるための特定の医療機器を購入するために使用されるという。ゲストもイベント中に寄付することができる。「このイベントが全世界にインスピレーションを与えることを願っている」とウシュチェカ氏。「なぜならこれは歴史的なイベントだから。戦争が続いている国で開催されるファッションウィークだから」
フロロフ氏にとって、キーウで再びショーを行うことは感慨深い。「私のサングラスが黒くて幸せだ」と黒いサングラスをかけたフロロフ氏は言う。「なぜなら、今、私の眼はうるんでいるからだ。私はキーウが大好きだ。キーウで生まれたし、キーウは私のすべて。文化相と経済相による支援のおかげで、海外に行くことはできるが、1カ月以上国を離れることはできない。キーウなしでは気分が悪くなるからだ。キーウがなければ空虚な気分になる。キーウは私の母なる地であり、私の魂だ」
「今年9月、キーウを世界のファッションの中心都市の一つに返り咲かせたい」(フロロフ氏)