ロレックスからサメの歯まで、紛失手荷物専門店が扱う驚きの品々 米

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米国の紛失手荷物の中身はアラバマ州スコッツボロにある店舗で商品として売られている/Austin Steele/CNN via CNN Newsource

米国の紛失手荷物の中身はアラバマ州スコッツボロにある店舗で商品として売られている/Austin Steele/CNN via CNN Newsource

アラバマ州スコッツボロ(CNN) 米国唯一の紛失手荷物の専門店を自称する、アラバマ州北東部にある「アンクレイムド・バゲージ(持ち主不明の荷物)」には、毎年、衣類や宝石類、電子機器など、数百万点の品が集まる。

広さ約4650平方メートルの店内には、紛失したスーツケースから回収した衣類、靴、本、電子機器などの商品がずらりと並んでいる。この日は、左利き用のキッチンばさみや、ディズニー映画「ピーターパン」に登場するティンカー・ベルの天井飾りといった珍しい品も売っていた。

航空会社は通常、3~4カ月かけて紛失したスーツケースの持ち主を探すが、見つからない場合はそれらのスーツケースをアンクレイムド・バゲージに売却する。

店主のブライアン・オーウェンズ氏によると、同店は航空会社から買い取った品を、販売するもの、廃棄するもの、慈善団体に寄付するもの、の3種類に分別するという。そして、掘り出し物目当ての客たちが店の商品を割引価格で購入していく。

かつらにサメの歯、生きたヘビも

米国唯一の紛失手荷物の専門店を自称する「アンクレイムド・バゲージ(持ち主不明の荷物)」には、毎年膨大な数の品が集まる/Austin Steele/CNN via CNN Newsource
米国唯一の紛失手荷物の専門店を自称する「アンクレイムド・バゲージ(持ち主不明の荷物)」には、毎年膨大な数の品が集まる/Austin Steele/CNN via CNN Newsource

アンクレイムド・バゲージは1970年に創業した。創業のきっかけは、オーウェンズ氏の父ドイル・オーウェンズ氏が、バス会社に勤務する友人から、持ち主不明の荷物が山ほどあり、どうしたものかと相談を受けたことだった。小売業の経験があったドイル氏は、これは商売になると考えたという。

ドイル氏は300ドルとピックアップトラックを借り、ワシントンDCまでスーツケースを引き取りに行った。そして地元スコッツボロの新聞に、持ち主不明の手荷物から集めた品を販売するという広告を掲載したところ、店に多くの人々が押し寄せ、商品はほぼ毎回完売した。

事業が軌道に乗ると、ドイル氏は保険業界での仕事を辞め、この新しい事業に専念した。

ブライアン・オーウェンズ氏は、95年に両親から同店を買い取った。その20年後に父ドイル氏は亡くなったが、亡くなる前に同店が商圏を人口1万6000人のスコッツボロ市の外にまで広げる姿を見届けることができた。

創業から54年が経過した今、アンクレイムド・バゲージは事業をグローバルに展開しており、海外の顧客向けにオンライン販売も行っている。また同店は、その地域の主要な観光名所の一つとなっており、毎年100万人以上が来店しているという。

店の商品の大半は、飛行機での旅行中に紛失した荷物から回収したものだが、列車やバスの乗客が置き忘れた荷物も引き受けている。また同店の広報担当者ソンニ・フッド氏によると、飛行機の座席のポケットや頭上の荷物棚、機内持込手荷物に入っていた品も販売しているという。

一昨年、手荷物の中から発見された品の中には、棺(ひつぎ)の鍵や、かつらが詰め込まれたスーツケース、サメの歯が入った瓶、さらにダッフルバッグに入った2匹の生きたネズミヘビなど、非常に変わった品もあった。ネズミヘビは毒を持っていないため、外に放したという。

また過去数十年間に手荷物の中から見つかったさらに珍しいアイテムの一部が、店内の小さな博物館に展示されている。その中には、鎧(よろい)一式、バグパイプ、エジプトの歴史的遺物が入ったグッチのバッグ、1986年公開のファンタジー映画「ラビリンス/魔王の迷宮」で使用された小人ホグルの人形などが含まれている。

1986年公開のファンタジー映画「ラビリンス/魔王の迷宮」で使用された小人ホグルの人形。珍しいアイテムの一部として、店内の小さな博物館に展示されている/Austin Steele/CNN
1986年公開のファンタジー映画「ラビリンス/魔王の迷宮」で使用された小人ホグルの人形。珍しいアイテムの一部として、店内の小さな博物館に展示されている/Austin Steele/CNN

ある紛失手荷物の中に、スペースシャトル用に特別に設計されたニコンのカメラが入っていた。その荷物は、米航空宇宙局(NASA)の関係者が紛失したものだと分かり、NASAに返却したという。

懸命な持ち主探しの末、売却

航空会社は2023年に、乗客1000人あたり平均6.9個の荷物を紛失した。紛失したスーツケースの99.5%以上は持ち主のもとに戻るが、ごくわずかな紛失手荷物が積み上がって大きな数になる、とフッド氏は言う。米連邦政府の統計によると、米国の航空会社が取り扱いを誤った荷物の数は、24年8月だけで26万個以上に達した。

航空会社は、通常3~4カ月かけて紛失手荷物の持ち主探しを行った後、それらをアンクレイムド・バゲージに売却する。中には持ち主につながる情報が一切ないために誰にも引き取られない手荷物も存在する。

1980年代に紛失扱いとなったスーツケースから出てきた衣装/Austin Steele/CNN
1980年代に紛失扱いとなったスーツケースから出てきた衣装/Austin Steele/CNN

フッド氏によると、紛失した手荷物が同店にたどり着く頃には、航空会社はすでに、連邦規則に従い、国内便で紛失した荷物について乗客1人あたり最大3800ドルの補償を行っているという。

同店は、手荷物の中身を取り出さず、そのままの状態で買い取る。買い取った手荷物は倉庫に運び、そこで荷物の中身の分別と洗浄を行う。

使用済みの下着は販売せず、値札の付いた新品のみ販売するという。また電子機器は、ハイテクの専門家たちが持ち主の個人情報を消去し、動作確認も行っている。

フッド氏によると、同店には毎日約7000点の品が届くという。

CNNは、米国の航空会社数社に対し、持ち主不明の手荷物の取り扱いについて尋ねた。その結果、ユナイテッド航空とサウスウエスト航空の2社が、あらゆる手段を講じてもなお、持ち主の発見に至らなかった場合に紛失手荷物をアンクレイムド・バゲージに送っていることを認めた。

ユナイテッド航空は持ち主探しを開始してから90日後、サウスウエスト航空は120日後に同店にスーツケースを送っているという。米国の他の航空会社からは回答は得られなかった。

変わりゆく文化を反映

デンバー国際空港内にあるサウスウエスト航空の荷物保管エリア。持ち主の手を離れた大量のスーツケースが並んでいる/Michael Ciaglo/Getty Images
デンバー国際空港内にあるサウスウエスト航空の荷物保管エリア。持ち主の手を離れた大量のスーツケースが並んでいる/Michael Ciaglo/Getty Images

長い年月の間、紛失したスーツケースから集められた品々は、各時代の文化的傾向を反映している。店が創業して間もない頃、旅行者がよく飛行機に忘れたのは、ウォークマン(ポータブル音楽プレーヤー)だった。中にはジョニ・ミッチェルなど、70年代のアーティストのカセットが入っていた。

時は流れて現在の旅行者が忘れるのは、ワイヤレスイヤホンの「エアポッズ」に、スマートフォンやタブレット、さらにテイラー・スウィフトのコンサートツアーのTシャツやグッズなどだ。

紛失したスーツケースの中から特によく見つかるのは、スニーカー、ブラウス、ジーンズなどだという。

また広報担当のフッド氏によると、同店がこれまで扱った中で最も高額な商品はプラチナ製のロレックスの時計で、定価は6万4000ドル(約1000万円)だが、同店ではその半額で販売したという。現在、同店で最も高価な品は、ダイヤモンドのソリテールリングで、価格は1万9491ドル(約300万円)だ。

紛失したスーツケースや機内持ち込み荷物、機内座席のポケットに置き忘れられた腕時計も店の陳列棚に並ぶ/Austin Steele/CNN via CNN Newsource
紛失したスーツケースや機内持ち込み荷物、機内座席のポケットに置き忘れられた腕時計も店の陳列棚に並ぶ/Austin Steele/CNN via CNN Newsource

店内の商品は、小売価格の20~80%オフで販売されているが、決して安物のガラクタを売っているわけではないとフッド氏は主張する。

「我々はリサイクルショップではない。リサイクルショップは不要になった品を扱っているが、当店は人々が旅行に持って行きたくなるほど愛用していた品がそろっている。よって、当店の商品はたいてい高品質だ」(フッド氏)

自分のスキー靴と再会を果たした女性

同店の客が、かつて紛失した品と再会することはめったにないが、オーウェンズ、フッド両氏は、数年前に一度だけ、再会を果たした人がいたことを思い出した。

アトランタから来たある男性客が、同店が毎年11月に開催するスキーセールで、ガールフレンドのためにスキーブーツを購入した。

男性が帰宅すると、男性とガールフレンドの二人は、そのブーツに彼女の名前が刻まれているのを発見し、そのブーツが、かつて彼女が旅行中に紛失したブーツだと気付いた。航空会社はすでに、紛失した荷物について彼女に補償を行っていた。

しかしフッド氏は、「我々は持ち主と紛失物を再会させるビジネスをしているわけではない」とし、「我々はこれらの品々に第二の人生を与えるビジネスをしている」と付け加えた。

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