ANALYSIS

トランプ氏の1期目、実際には強制送還が減っていた理由

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移民税関捜査局(ICE)の航空機で本国に強制送還されたグアテマラの移民=2017年2月9日/John Moore/Getty Images/File

移民税関捜査局(ICE)の航空機で本国に強制送還されたグアテマラの移民=2017年2月9日/John Moore/Getty Images/File

(CNN) 不法移民を悪者扱いする言説と、米大統領に復帰後は大規模な強制送還を実施するとの本人の公約を考慮すれば、トランプ前大統領1期目に強制送還が実のところ減少していたというのはある種の衝撃だ。

またバイデン政権が前政権からのペースを維持し、トランプ氏と同様の人数を強制送還しているというのも驚くべきことだ。

これらの数字は多くの背景を欠いている。トランプ氏は任期中、移民問題に極めて注力。南部の国境に壁を建設しようとし、イスラム教徒が大半を占める国々からの渡米を制限した。他にも米国民と世界に対し、米国がそこまで外国人にとって居心地のいい国ではないと合図を送っていた。

同氏はまた、職場での移民の摘発も承認した。第1次政権で移民税関捜査局(ICE)局長代理を務め、次期政権でも国境管理の包括的責任者に任命されたトム・ホーマン氏は11日、FOXニュースとのインタビューで今後はそうした摘発や強制送還が増加するとの見通しを示している。

「政権自体は1期目と同様になるだろうが、それら(強制送還)は格段に増える。バイデン政権下で、1000万人が不法入国しているからだ」(ホーマン氏)

オバマ氏がトランプ氏より多くの人々を強制送還した理由

1期目のトランプ氏は大規模な強制送還も公約に掲げ、実際に150万人以上を任期中に送還した。米シンクタンク、移民政策研究所の政策アナリスト、キャスリーン・ブッシュジョセフ氏が明らかにした。

しかしこの数字はオバマ政権1期目に送還された290万人の約半分であり、2期目の190万人も下回る。ブッシュジョセフ氏と筆者が共有する更新後の計算によれば、バイデン政権の149万人と同等ということになる。これらの数字には新型コロナの時期に国境で追い返された数百万人は含まれていない。移民を追い返す措置はトランプ政権下で発効し、バイデン政権下の大部分で採用されていた。

そうした数字には多くの背景説明が必要になる。ブッシュジョセフ氏によるとバイデン氏の強制送還は国境地域に焦点を当てていたが、トランプ氏とオバマ氏の数字には、米国内からの強制送還が多く含まれている。

オバマ氏による強制送還はメキシコから単身で入国した男性に集中していると、ブッシュジョセフ氏は指摘。現在の不法移民はさらに遠くの国から家族単位で米国にやってくる公算が大きい。この点が移民を引き返させる手続きを複雑にしている。物流上の問題だけでなく、多くの国は本国への送還を受け入れないからだ。メキシコはバイデン政権との合意の一環として、異なる国々からの人々の受け入れを開始した。

「どの政権にとっても強制送還を扱う上で重要な背景は、米国の移民システムが極度に時代遅れで対応不能、資源も足りていないということだ」とブッシュジョセフ氏。同氏によれば、米国内には現在、国外退去通知を受け取りながらも送還されていない移民が130万人いる。

強制送還の数が減少したもう一つの要因は、現地の法執行機関の多くが連邦政府の移民当局への協力を停止したことだ。この転換はオバマ政権で始まり、トランプ政権で拍車がかかったと、リバタリアン系シンクタンクのケイトー研究所で移民研究を統括するデービッド・ビアー氏は指摘する。

意図せぬ結果

ビアー氏の研究から、トランプ氏による1期目の強硬な手法はいくつかの意図せぬ結果をもたらしたことが分かった。

たとえば犯罪歴のある人々の退去を優先する方針はとられなくなった。トランプ氏は摘発の網を広げ、公共の安全の脅威と見なす人々を重点的に取り締まるというよりは、違法に入国した人々全員に対する摘発を優先した。これが同氏によって物議を醸した家族を引き離す措置につながった。

ビアー氏の主張によれば、犯罪歴があると見られる人々の拘束に注力するのではなく、亡命申請者で収容施設を一杯にしたため、トランプ政権は結局のところ犯罪歴を持つより多くの人間の入国を許すことになったという。

別の研究で、ビアー氏はトランプ氏の任期中に国境を違法に越えた人々の拘束が増えた点にも注目。その一方で強制送還の数は実質的に伸びなかったことを明らかにした。

フル稼働

トランプ氏が一定の種類の摘発を承認するのは間違いない。公告が出され、摘発の中身には家族が米国にいる人の強制送還も含まれるだろう。ただ現状のシステム自体が非常に逼迫(ひっぱく)しているため、トランプ氏の行動が強制送還の激増にはつながらない可能性がある。

トランプ氏が強制送還を求める1100万人の一部を収容するシステムを作り上げるだけでも、現在連邦ならびに州の刑務所に収容されている受刑者の総数を格段に上回る規模の施設が必要になる。言うまでもなく、それだけの人数を裁判日程の間拘束するのにも相当なコストがかかる。

「数百万人の強制送還を実行するインフラがすぐさま構築できるという考えは、全くの幻想に過ぎない」(ビアー氏)

「家族の問題になる」

オバマ政権でICE局長代理を務めたジョン・サンドウェグ氏は先週CNNの取材に答え、ICEが現在収容センターに所有するベッドの数は約4万1000床だとした。同氏の主な懸念は、トランプ氏が逼迫した司法システムの迂回(うかい)を図り、人々を裁判無しで強制送還しようとすることだという。

サンドウェグ氏の主張するところによれば、大多数の不法移民は米国内で罪を犯したことがなく、その大部分は夫婦のどちらかもしくは子どもが米国籍所持者だという。同氏はそうした不法移民が460万人いると推計する。

「問題を単なる数字のゲームのようなものに置き換えて、『年間100万人強制送還する』と宣言する場合、その対象は犯罪者だけではなくなる」「犯罪者は100万人もいない。家族たちの問題になってくる。そこにこそ本当の懸念がある」(サンドウェグ氏)

本稿はCNNのザカリー・B・ウルフ記者の分析記事です。

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