ロシアがウクライナに発射した極超音速ミサイルについて知っておくべきこと
(CNN) 米国のバイデン大統領は21日、ロシアがウクライナ侵攻で極超音速ミサイルを使用したことを認めた。
「お気づきだろうが、(ロシアは)極超音速ミサイルを発射した。絶対的な確信をもって到達できる唯一の手段だからだ」とバイデン大統領は述べた。「重大な結果を招く兵器だ……阻止することはほぼ不可能だ。彼らは何らかの理由があって使用している」
だが英国の諜報(ちょうほう)機関はもちろん、バイデン政権の国防長官ですら、ロシアによる空中発射型ミサイル「キンジャル」の使用を重要視していない。
「これで流れが変わるとは思わない」と、オースティン米国防長官はCBSの番組『フェイス・ザ・ネイション』で語った。
英国防相も、キンジャルはロシアがウクライナ侵攻で度々使用している短距離弾道ミサイル(SRBM)「イスカンダル」の空中発射型に過ぎない、と述べた。
極超音速ミサイルに戦々恐々する理由は?
まずは用語を理解しておくことが重要だ。
基本的にすべてのミサイルは極超音速だ――すなわち、少なくとも音速の5倍の速さで移動する。ロケット型ミサイルから大気圏に発射された弾頭はほぼすべてこのスピードに達し、目標物に向かう。真新しい技術でもなんでもない。
軍事大国――ロシア、中国、米国、北朝鮮など――は現在、極超音速滑空体(HGV)に力を入れている。HGVは操作性の高い弾頭で、理論上は経路や高度を調節しながら極超音速で進み、レーダーに探知されることなくミサイル防衛システムをかわして飛行することができる。
HGVは阻止することがほぼ不可能な兵器だ。ロシアはHGVシステム「アバンガルド」を保有していると考えられており、プーチン大統領も2018年に、西側の対空防衛システムに対して「実質的に無敵」だと述べた。
だが、SRBMイスカンダルから派生したキンジャルはHGVではない。戦略国際問題研究所が昨年発表した報告書によると、イスカンダルと同じく操作性は限られているものの、ミグ31戦闘機からの発射が可能なため、より遠くまで、多方向から攻撃することが可能になるというのが主な利点だ。
「ミグ31Kは予測不可能な方向から攻撃することができ、迎撃の試みを完全にかわすことが可能となる。またこの航空輸送機は、地上移動型のイスカンダルよりも攻撃に耐えうる可能性が高い」と報告書にはある。
さらにこの報告書は地上発射型イスカンダルについて、2020年のナゴルノ・カラバフ地域をめぐる紛争でミサイル防衛システムに対する脆弱性が証明されたとも指摘している。この紛争では、アゼルバイジャン軍がアルメニア軍の発射したイスカンダルミサイルを迎撃した。
「このことから、キンジャルがミサイル防衛システムに無敵であるという主張もいささか誇張された可能性があると思われる」と、報告書はまとめている。
ウクライナ軍はミサイル防衛システムを所有しているのか?
米国とNATO同盟国はウクライナの防衛支援という形で、すでに複数の地対空ミサイル防衛システムを現地へ送っている。
米政府高官によれば、これら追加投入した防衛システムの中にはソビエト時代の移動型防空システム「SA-8」「SA-10」「SA-12」「SA-14」もあるという。
また情報筋がCNNに語ったところでは、NATO加盟国のスロバキアはNATO同盟国から適切な代替手段が確保され次第、さらに高性能のミサイル防衛システム「S-300」を供与することに同意している。
なぜプーチン氏はキンジャルを使用したのか?
ロシア軍によるキンジャル・システムの実戦使用は、ウクライナでの使用が初めてだ。
「3月18日、極超音速航空弾道ミサイルを搭載したキンジャル航空機型ミサイルシステムは、イバノフランコフスク地方のデリアティンという村で、ミサイルと航空用弾薬を格納したウクライナ軍の大規模地下倉庫を破壊した」と、ロシア国防省は述べた。
CNNではこの主張を独自に確認することはできなかった。
のちに米政府関係者は、ロシアがウクライナに対して極超音速ミサイルを発射したことをCNNに認めた。米国はリアルタイムで発射を追跡していたという。
ミサイル発射は兵器実験を兼ねて、西側諸国にロシアの軍事力を誇示するメッセージだったのではないか、と複数の情報筋がCNNに語っている。
ウクライナでの地上戦が行き詰まり、ロシア軍が宣伝材料となる勝利を模索しているとも考えられる。
英国防省も、おそらくロシアは「地上での戦闘に進展が見られないことから世間の目をそらすために」キンジャルを配備したのだろうと述べた。
オースティン米国防長官もCBSとのインタビューで同様の発言をし、プーチン氏がウクライナ侵攻で「なんとか勢いを取り戻そうとしている」と述べた。
オースティン長官は、ロシア軍に精密誘導兵器が不足しているのか、あるいは「部隊が勢いを取り戻せる」という確信がプーチン氏にないのか、と首をかしげた。
「彼がなぜこのようなことをするのか、やや疑問が生じる」と長官は述べた。