蘇州にあるアーチ型の高層建築、テトリスのようなブロックで構成された広州の博物館、一日中絶え間なく動き続ける銅のファサードを備えた上海の劇場――。これらは過去10年の間に注目を集め、一部では眉をひそめさせてきた中国建築のほんの一例だ。
しかしベルギー人の写真家、クリス・プロボースト氏の手に掛かると、中国の特異な現代建築も現実離れした新たな美を帯びる。デジタル処理で周囲の都市景観を排し、代わりに明るい青色の背景を据えることで、被写体をより公正な光の下で描こうとする。
勤務地の上海から電話インタビューに応じたプロボースト氏は「実際には、これらの建物は私の写真ほどきれいには見えないだろう。中国の現在の状況が原因だ」と話す。
「中国は今も猛烈な勢いで発展しているため、汚染や工事が絶えない。私が撮った建物も醜悪なビルに取り囲まれているのが実情だ。だが、私はこうした『オブジェ』だけに集中して作品を作ろうと心がけている」
「もし撮影で青空が欲しいと思えば、永遠に待つことになるだろう」
美化された中国
プロボースト氏は中国の建物を周囲の都市景観とは切り離して提示することで、見る人にその建物が持つパターンや幾何学模様、微細なディテールといった面に着目させようとする。写真が特異なアングルや接写の構成を取ることで、既にその建物を知っている人にも新たな視点を提供する。
Hongqiao Flower Building(上海) MVRDV設計=クリス・プロボースト氏提供
中国建築をめぐっては、「奇抜な」形状や話題集めのデザインを前面に押し出しているとして嘲笑の声が上がることも多い。プロボースト氏はこうした建築を理想化した形で見せていることを認めつつも(実際、彼の写真集のタイトルは「Beautified China(仮訳:美化された中国)I&Ⅱ」だ)、その作品は中国の現代建築を称える内容だと考えている。環境に溶け込むことがデザイナーにとって常に最優先事項ではないとの思いだ。
「外国人建築家の中には、中国のある都市で提案をした建物を、1年後も建てられていなければ別の都市でも提案する者がいる」「建築家は建物とはコンテキストなのだと強調する。だが、この種のアイコンとなる建物の場合、目立つのが目的でそれを作っている」
3Cubes(上海) GMP Architekten設計=クリス・プロボースト氏提供
プロボースト氏の最初の写真集では北京の中国中央テレビ(CCTV)本社ビルや広州オペラハウスなど、最も認知度の高い建物を扱った。しかし続編では、南寧やハルビン、寧波といったより知名度の低い都市で目立つ建築に焦点を当てている。
プロボースト氏は「他の都市に少しスポットライトを当てれば、人々がそこで起きていることを垣間見れるだろう」と説明。中国建築は誤解を受けていることが多く、「人々は建物が不釣り合いだと考えるかもしれないが、それは中国に来ていない人が言う話だろう。町の通りを歩けば、尺度が全く異なっているということがわかるだろう」と語る。
新しい美学
2つの写真集で取り上げられた建物の大半は、2008年北京五輪の前後に完成している。建設ブームに沸いたこの時期、中国では全国の都市がランドマークの建立を依頼した。その多くは外国人建築家が設計したものだ。
Chongqing Guotai Arts Center(重慶) China Architecture Design & Research Group設計=クリス・プロボースト氏提供
しかし2016年に政府が「奇妙な」形をした建物の建設をやめるよう指示して以降、実験的なデザインへの意欲は減少したようにみえる。プロボースト氏の写真は、もうすぐ終わりを迎えるかもしれない瞬間を捉えるのに間に合ったと言える。
プロボースト氏は「あの10年は派手な時期だったが、今では跡形もなくなりつつある」と指摘。北京や上海といった「一流の都市」では、遺産を尊重することの必要性が強く意識されるようになってきたといい、「古い建物を一掃するのではなく、修復する方針になっている」と語る。
National Aquatics Center(北京) PTW Architects設計=クリス・プロボースト氏提供
これは「美化された中国」シリーズの続編を撮影するには悪いニュースだろう。しかし中国で8年間にわたり働いてきた建築家として、プロボースト氏はこうした方針転換を歓迎している。
「素晴らしいことだと思う」「私は過去の遺産が全てという欧州の都市から来た。その考え方は何も手を付けることができないという極端な状況にも進みうる。しかし上海では新しいものと古いものが混ざり合っていて、すてきな空間が生まれている」