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古木が息づくガラスの「コロニー」、日本人植栽家の哲学に迫る

Credit: Aki Murase

京都在住の植栽家、村瀬貴昭氏(37)が打ち込んでいるのはテラリウム作りだ。透明なガラスの球体の中には、非常に小さな「生態圏」が入っている。

村瀬氏は自身の作品を米国の物理学者ジェラード・K・オニールが描いた宇宙植民地化構想にちなんで「スペースコロニー(宇宙植民地)」と呼ぶ。

村瀬氏の自宅のアトリエには、20個ほどの大小さまざまなテラリウムが天井からぶら下がっており、各テラリウムの中にはよく手入れされた小さな風景が存在する。

単独で生えている小型の木を使用していることから、盆栽と関連があるのは間違いないが、このテラリウム作りを独学で習得した村瀬氏は、盆栽の伝統にとらわれない作品作りを目指している。

リサイクルとリプラント(植え替え)は、村瀬氏の作品作りの中心であり、村瀬氏のアトリエ「Re:Planter」の名前の由来でもある。実際、村瀬氏のアトリエに入ると、コケに織り込まれたり、小さなもみじの木の枝に巻き付けられた回路基板やテレビ用ケーブルを目にするだろう。

屋内庭園からテラリウムへ

村瀬氏の祖父が盆栽の愛好家だったことから、村瀬氏の情熱の種は幼少期にまかれていた。

村瀬氏がいわゆる「アクアテラリウム」を初めて作ったのは中学時代で、当時、子どもたちの間でアクアテラリウム作りが流行っていたという。ガラスの容器の中でLED照明を使って水生植物を育て、当時飼っていた小さな亀をその中で泳がせるのが好きだった、と村瀬氏は語る。

アートコレクターのアレックス・ケール氏は、「村瀬氏の作品は現代の『坪庭』だ」と評する/Aki Murase
アートコレクターのアレックス・ケール氏は、「村瀬氏の作品は現代の『坪庭』だ」と評する/Aki Murase

しかし、村瀬氏が専業でテラリウムの庭作りを始めるまでには紆余(うよ)曲折があった。村瀬氏はオーストラリアで1年間暮らした後、京都に移り住んだ。しばしば日本文化のゆりかごや守り手とみなされるこの街で村瀬氏は、家具職人に弟子入りし、大工を目指した。

しかし、村瀬氏は数年後に方向転換する。市内にカフェ「Ruins」をオープンし、そこで「植物いじり」を再開した。Ruins(廃墟)という名の通り、村瀬氏は植物が廃棄されたテレビの中を貫通するように生えているオブジェなど、自ら制作した作品を店に展示した。古い缶も植木鉢として再利用した。

村瀬氏は通常では発想しないようなものからインスピレーションを得る。テレビの画面部分から植物が伸びる様子も/Aki Murase
村瀬氏は通常では発想しないようなものからインスピレーションを得る。テレビの画面部分から植物が伸びる様子も/Aki Murase

顧客や友人も村瀬氏に屋内庭園作りを続けるよう励まし、ついにテラリウムにたどり着いた。しかし、村瀬氏は大きな壁にぶつかる。当初のデザインでは、植物に十分な日光が当たらないのだ。

京都の伝統的な家は非常に長く、狭いため、日がほとんど差し込まず、必ずしも植物の栽培に適した環境とは言えない。そこで村瀬氏は、思春期にアクアテラリウム作りで使ったLED照明に目を付けた。

リサイクルとリプラント

村瀬氏は、6年前から専業でテラリウム作りをしている。リプラントとリサイクルという村瀬氏の哲学を反映し、村瀬氏の植物の入手先は多岐に及ぶ。友人が寄付してくれたり、自身のアトリエ近くの山林を探索したり、さらに植物などありそうもない場所、例えばホームセンターなどに植物を探しに行くこともある。

回路基板から成長するシダ植物/Aki Murase
回路基板から成長するシダ植物/Aki Murase

われわれの滞在中、村瀬氏は種苗店から無償で譲り受けた盆栽用の木を取り出した。その木は枯れているように見えたが、村瀬氏はその木を再生し、テラリウム庭園の「主役」に据えられると確信していた。

村瀬氏が目指しているのは完璧な盆栽や風景ではなく、老いた木や植物を自分の作品の中で生き返らせることだという。

村瀬氏のテラリウムは、庭園にしては手がかからない方だ。しかし、定期的に天井から外して、水をやり、掃除をする必要がある。価格は小さなサイズが5万円、大きなサイズが10万円で、各テラリウムには園芸用具一式と手入れの仕方が書かれた詳細な説明書が付いている。

村瀬氏の自宅のアトリエ「Re:Planter」には、20個ほどの大小さまざまなテラリウムが天井からぶら下がっている/Aki Murase
村瀬氏の自宅のアトリエ「Re:Planter」には、20個ほどの大小さまざまなテラリウムが天井からぶら下がっている/Aki Murase

村瀬氏のテラリウムは、土地代が非常に高く、屋外の庭が贅沢品である日本の都市部に住んでいる人々の間で特に人気が高いという。また村瀬氏の作品は、日本中のカフェやレストラン、学校でも見ることができる。

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