トルコのVFX(視覚効果)アーティスト、アイドゥン・ブユクタシ氏は、自分の夢に出てきたイメージを写真で再現している。都市の景観を上空から撮影し、その写真をデジタル処理で空に向かって折り曲げる。そうして、映画「インセプション」を思わせる写真ができあがる。
こうした写真を集めた写真集「フラットランズ」には、デジタル加工された非現実的な風景が数多く掲載されており、見る人は時間や空間の感覚がゆがめられたように感じる、とブユクタシ氏は語る。
ブユクタシ氏は、「これらの写真は、人々が普段暮らしている現実世界を非現実的な物のように見せてくれる」と述べ、「(写真を通じて)人々に多次元の感覚を体験してもらいたい」と付け加えた。
ブユクタシ氏がこの変わった写真を撮るようになったきっかけはSFだという。ブユクタシ氏は幼少期にアイザック・アシモフやH.G.ウェルズらの本を読み漁り、ワームホールやパラレルワールド、重力、時空間の歪曲という概念などに魅了されていった。
また、ゆがんだドローン写真を撮る上で特に影響を受けたのは神学者エドウィン・アボットだという。写真集のタイトル「フラットランズ」は、アボットの二次元の平面世界を舞台とした風刺小説「フラットランド 多次元の冒険」から名付けた。
「フラットランズ」では時間や空間の感覚が捻じ曲げられたように感じられる
2002年からトルコ・イスタンブールを拠点に活動しているブユクタシ氏は、グランドバザールやガラタ橋といったイスタンブールを象徴する名所の多くを写真に収めてきた。しかし、上空から見た平らな風景のみが写っている従来のドローン写真とは異なり、ブユクタシ氏の写真は1枚の写真にさまざまな視点から見た風景が盛り込まれている。
ブユクタシ氏は、この変わった写真を作るために、ドローンを使って撮影対象をさまざまな角度から撮影する。ブユクタシ氏は、現像した複数の写真を物理的につなぎ合わせて、まるで折れ曲がっているように見える景色を作り出すこともしていたが、現在は画像編集ソフト「フォトショップ」を使って画像をつなげている。
例えば、「バス・ステーション」と題された写真は、イスタンブールの交通量の多い輸送ハブが空に向かって折れ曲がり、見る人の遠近感をもてあそぶ。イスタンブールの町から走り去る車は、まるで重力に逆らっているかのようだ。
また「倉庫」という写真では、ガレージが何列も積み重なり、何本ものジェットコースターが頂上から今にも下降しようとしているように見える。
写真を撮る時はたいてい、自然でもあり不自然でもあるパターンと遠近感とを生み出せる場所を選び、非現実感が出るようにしているという。