米国人写真家ピーター・スタインハウアー氏が撮影した写真の中に納まった青や緑、黄のシートに包まれた高層ビルには彫刻のような美しさがある。この色鮮やかな外観は実用目的の一時的なものだが、その鮮やかな色と幾何学的な表面は、その周りの建物の輪郭と相まって見事なコントラストを作り出す。
明るい色のナイロンメッシュに包まれた高層ビルは、香港ではよく見る光景だ。建設会社は、建設中のビルを布で覆い、破片が地上に落下するのを防いでいる。また建設作業員も竹製の足場を使っているが、これが色鮮やかな布で建物を覆うための枠として利用されている。
スタインハウアー氏は、このような高層ビルの建設現場の写真を20年以上撮り続けている。高層ビルが布で覆われている間に「変容」することから、スタインハウアー氏はこの布で覆われたビルを「繭(まゆ)」と呼んでいる。
1994年に初めて香港に降り立つと、「即座に」この色鮮やかなビルに魅了されたという。
スタインハウアー氏は「(空港で)タクシーを待ちながら、ひたすらビルを眺めていた」と、黄色のシートで覆われた高層ビルを見た時の様子を振り返る。
「ちょうど日暮れで、日光が最高の角度でビルを照らしていた。(ビルを覆う布は)常に新しい素材が使われるので、どれも明るく、鮮やかで美しい色だった。まさに素晴らしいの一言で、まるで巨大な芸術品のようだった」(同氏)
しかし、遠くからどんなに魅力的に見えても、色鮮やかな布で覆われた外観の影には、汚れた、ほこりだらけの現実が隠されている。スタインハウアー氏もそれは十二分に分かっている。実は、同氏が住んでいたアパートの改築が行われた際、建物が布で覆われ、同氏自ら「繭」の中で暮らした。
「最悪の経験だった」とスタインハウアー氏は言う。
夜に撮影した建物はまるでSFに登場しそうだ/Peter Steinhauer
「削岩機の騒音や子どもたちの泣き声がうるさくて全く眠れなかった。当時、窓の外が緑のシートで覆われていたが、普段その窓から日光が差し込むので、リビングや寝室には四六時中、緑の光が充満していた」
「(建設現場の)地上の様子を写した写真は数枚しかない。なぜなら、地上は散らかっていて汚いからだ。建設現場だから仕方がない」
それでも、スタインハウアー氏にとって、この作業方法は驚きを呼び起こすものだ。「私にとっては真実の芸術の形だ。こうしたやり方は、特にこれだけの規模のものは香港にしかない。注目に値する作業工程だ」と語った。