文学賞ブッカー賞を2度受賞した英国の作家、ヒラリー・マンテル氏が70歳で死去した。
高い評価を受けるマンテル氏は歴史小説「ウルフ・ホール」3部作のうち2作で権威ある同賞を受賞した。代理人によると、22日、近親者や友人に囲まれ安らかに息を引き取ったという。
代理人のビル・ヒース氏はブログで「A・M・ヒースとハーパーコリンズは深い悲しみとともに、ベストセラー作家のデイム・ヒラリー・マンテルDBE(大英帝国勲章2位)が昨日突然、安らかに死去したことを発表する。近親者や友人に囲まれ70歳で亡くなった。ヒラリー・マンテルは今世紀の英語圏の最も偉大な小説家の1人であり、彼女の愛される作品は現代の古典と見なされている。その死は大いに惜しまれるだろう」と述べた。
マンテル氏は1952年、英ダービーシャーで生まれた。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で法律を1年間学んだ後、シェフィールド大に転学し、73年に卒業した。
87年から91年にかけて英文化雑誌スペクテーターの映画評論家を務める傍ら、85年にデビュー小説を出版した。
だが、マンテル氏の名前が人口に膾炙(かいしゃ)するようになったのは、10作目の「ウルフ・ホール」が2009年に出版されてからのことだ。
「ウルフ・ホール」はチューダー朝イングランドを舞台に、ヘンリー8世の側近を務めた政治家トマス・クロムウェルの生涯と時代を中心に描いた作品で、09年のブッカー賞に輝いた。
3年後には続編の「罪人を召し出せ」が再びブッカー賞を受賞。マンテル氏は英紙ガーディアンの取材に、「20年間もブッカー賞を待っていたら、立て続けに2回受賞した」と振り返った。14年には文学への貢献が認められ「デイム」の爵位を授与された。
15年には、「ウルフ・ホール」と「罪人を召し出せ」がテレビドラマ化された。マーク・ライランスをクロムウェル役、ダミアン・ルイスをヘンリー8世役に起用したこのドラマはプライムタイム・エミー賞の8部門にノミネートされた。
「罪人を召し出せ」の出版から8年後の20年、「ウルフ・ホール」3部作の待望の完結編となる「鏡と光」が出版された。マンテル氏と俳優のベン・マイルズ氏が共同で手掛けた演劇版は21年、ロンドンの劇場街ウェストエンドで上演された。
CNNの司会者クリスティアン・アマンプール氏との同年のインタビューで、マンテル氏は次から次へと沸く創作プロジェクトについて熱く語り、「アイデアがありすぎて残された時間では実現できない」と嘆いていた。
訃報(ふほう)を受け、文学界からはSNS上に追悼の声が相次ぎ寄せられた。「ウルフ・ホール」の最初の出版社となったフォース・エステートはツイッターで哀悼の意を示し、「私たちの愛するデイム・ヒラリー・マンテルの死に心を痛めている。我々の思いは彼女の友人や遺族、特に夫のジェラルド氏と共にある。計り知れない損失であり、我々としては彼女がこれだけ素晴らしい作品を残してくれたことに感謝するばかりだ」と述べた。
「ハリー・ポッター」シリーズの作者J・K・ローリング氏も、「私たちは天才を失った」とツイートした。