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目も眩む断崖にしがみつくクライマー、同じ高さで彼らを撮る豪写真家

自らも断崖に取り付き、同僚のクライマーを撮影する写真家、S・カーター氏の作品

自らも断崖に取り付き、同僚のクライマーを撮影する写真家、S・カーター氏の作品 /Simon Carter

(CNN) オーストラリア・タスマニア東部の海にそびえる高さ約65メートルの巨大な岩柱「トーテムポール」を目にした時、オーストラリア人の写真家サイモン・カーター氏は「その岩に登るか、それとも写真に収めるか」というジレンマに直面した。

結局、カーター氏はその両方を実行した。この岩は、過去に他のクライマーたちが登っていたが、カーター氏と友人たちは、あえて新しいルートを探すことにした。そして、それが功を奏した。

カーター氏はカメラを手に、細く、切り立った岩柱を垂直下降しながら、地上からは見えないスリリングな視点から他のクライマーたちが登る様子を撮影した。

カーター氏の新しい写真集「The Art of Climbing」には、この時撮影された選りすぐりの写真とともに、仲間のクライマーたちが世界各地のそびえ立つ、複雑な岩石層に登っている様子を撮影した200枚以上の印象的な写真が収められている。

タスマニア東部の海にそびえる巨大な岩柱「トーテムポール」をクライマーのモニーク・フォレスティエ氏がよじ登る/Simon Carter
タスマニア東部の海にそびえる巨大な岩柱「トーテムポール」をクライマーのモニーク・フォレスティエ氏がよじ登る/Simon Carter

カーター氏はビデオインタビューで、「クライミング写真にはさまざまな種類、スタイルがあることについて話したい。例えば、極端なドキュメンタリースタイルでは、現場に行って、そこで起きていることをありのまま記録する」と述べ、さらに次のように続けた。

「また、それとは対照的に、よりコンセプチュアルな写真がある。私はこれが特に気に入っている(中略)私の写真集にはこの両方が収録されているが、私が特に好きなのはコンセプチュアルな写真だ」

この写真集では、写真がテーマ別の章に分けられ、各章に名前が付けられている。例えば「Flow」の章は、その瞬間に完全に没頭しているクライマーたちに焦点を当て、「Lines」の章では、岩肌に垂直に走る裂け目や自然に発生した亀裂に挑む人々が描かれている。また構図やクライマーとの距離も写真によってまちまちだ。

米ユタ州のインディアンクリークで厄介な岩の割れ目と格闘するクライマー/Simon Carter
米ユタ州のインディアンクリークで厄介な岩の割れ目と格闘するクライマー/Simon Carter

カーター氏は、撮影地の広大な景色を利用して、被写体であるクライマーたちがいかに困難なタスクに挑んでいるかを強調しており、撮影中、自身もかなり高い場所にいることが多い。

オーストラリアのブルー・マウンテンズでロッククライマーのモニーク・フォレスティエ氏が崖の端にぶら下がっている写真は、フォレスティエ氏のわずか数フィート下までロープで降りて撮影した。

一方、クライマーたちにさらに接近し、彼らの表情に焦点を当てた写真からは、ロッククライミングがいかに過酷で困難かが伝わってくる。

「まずクライミングの経験を」

カーター氏の写真への情熱が芽生えたのは15歳の時で、当時はまだクライミングを好きになる前だった。その約10年後に二つの興味が結び付き、より真剣にロッククライミングの写真を追求するようになった。

「1990年代にオーストラリアで優れたクライマーになりたかった人は、アラピルズ山(オーストラリア・ビクトリア州西部にある人気のクライミングスポット)に行って、テント生活を送りながらクライミングに明け暮れた」とカーター氏は言う。カーター氏自身、それを8カ月間実践した。

豪グランピアンズ国立公園で岩壁を登るクライマーのアシュリー・ヘンディー氏(左上)とエリザベス・チョン氏/Simon Carter
豪グランピアンズ国立公園で岩壁を登るクライマーのアシュリー・ヘンディー氏(左上)とエリザベス・チョン氏/Simon Carter

「休日には、これらの壮観な崖で、優れたロッククライミング技術を持ち、オーストラリア国内でも指折りのクライマーである友人たちの写真を撮り始めた」とカーター氏は当時を振り返った。

そして94年に、カーター氏は写真と出版を手掛けるビジネスを立ち上げ、人気のクライミングカレンダーなど、多くの作品を制作した。カーター氏が起業してから30年が経過し、今やインターネットやデジタルカメラの普及などにより、クライミング写真を追求する人々は爆発的に増えたが、カーター氏はこの新しい世代の写真家たちが直面する危険について懸念を示す。

「彼らの多くは、クライミングやリギング、さらに崖の上の状況に関する経験が不足している」とカーター氏は述べ、さらに「私から彼らに一つアドバイスを送るとすれば、写真撮影に挑戦する前にまずクライミングの経験を積んで欲しい」と付け加えた。

豪タスマニアにそそり立つ海食柱「ザ・モアイ」に挑むクライマーたち/Simon Carter
豪タスマニアにそそり立つ海食柱「ザ・モアイ」に挑むクライマーたち/Simon Carter

「崖の上で恐怖や不安を感じると、素晴らしい写真は撮れないし、(クライマーたちが崖を登る)ペースについて行ったり、写真撮影に最適な位置を確保することもできない」(カーター氏)

撮影に最適な位置・場所の確保は、カーター氏がこれまで直面した最大の課題の一つだ。

「よく、ここから撮りたいと思える理想的な位置・場所が見つかるが、そこは崖から少し離れた空中であることが多い。なぜなら、クライマーたちが登っている様子や岩の構造、背景をもっとよく見せたいという欲求が生まれるからだ」(カーター氏)

撮影に最適な場所に到達するには、ほんの数メートル移動すればいい場合もあるが、決して容易ではなく、ロープや他の道具を使って複雑なシステムを設定する必要がある場合は、その難易度がさらに増す、とカーター氏は付け加えた。

カーター氏の新しい写真集「The Art of Climbing」には、200枚以上の印象的な写真が収められている/Thames and Hudson
カーター氏の新しい写真集「The Art of Climbing」には、200枚以上の印象的な写真が収められている/Thames and Hudson

カーター氏の写真集「The Art of Climbing」に収録されている大半の写真には、この撮影のプロセスが反映されている。カーター氏は単に特定の瞬間に反応しているわけではない。カーター氏の慎重に構成された写真には、現場の環境、クライミングの興奮、さらにライティングやフレーミングといった、より技術的な面が詰まっている。

カーター氏のお気に入りの写真の一枚がそれを証明している。この写真は温度逆転が生じた時に撮影された。温度逆転とは、地表近くの空気が上層の空気よりも早く冷え、その結果、雲の層が形成される現象だ。この現象は、クライマーが岩壁を登っている時に素晴らしい背景を生み出す。

眼下に雲が広がる豪ブルーマウンテンズの断崖絶壁/Simon Carter
眼下に雲が広がる豪ブルーマウンテンズの断崖絶壁/Simon Carter

カーター氏は、写真集に収録する写真を選ぶ過程を楽しんだという。そして、クライマーであるか否かにかかわらず、全ての人に楽しんでもらいたいと願っている。

「30年間撮り続けてきた写真を一冊の写真集にまとめることができて感無量だ」(カーター氏)

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