(CNN) イタリアの邸宅の地下室で60年前に廃品回収業者が見つけた絵は、実はピカソの作品だった――。複数の専門家がそんな見解を示している。数百万ドルの値が付く可能性もあるという。
ルイジ・ロロッソさんはかつて、イタリアのポンペイにある一家の質屋で売るための掘り出し物を求め、廃屋や埋め立て地を物色する日々を送っていた。
1962年、ロロッソさんはカプリ島近くにあった邸宅の地下室で、左右非対称の女性の肖像が描かれた丸まったキャンバスを発見した。
絵は長年にわたりロロッソさんの家に飾られていた/Andrea LoRosso
スイスを拠点に美術品修復を手掛ける非営利団体「アルカディア財団」の名誉会長で美術専門家のルカ・ジェンティーレ・カナル・マルカンテ氏によれば、この絵は現在、フランスの写真家で詩人だったドラ・マールを描いた肖像だとみられている。マールはピカソの愛人でもあった。
キャンバスに描かれた油絵には、赤い口紅に青いドレス姿の女性がピカソ特有の非対称なスタイルで表現されている。
当時のロロッソさんはまだ24歳。息子のアンドレア・ロロッソさんが1日にCNNに語ったところによると、絵の左上隅に「ピカソ」とだけ書かれた署名に何か意味があるとは思いもよらなかった。
ロロッソさんは絵を安物の額縁に入れて妻にプレゼントしたが、妻は迷惑顔だったという。
ピカソとドラ・マール=1937年ごろ、フランス/CCI/Shutterstock
妻は売り物になるほど良い絵だとは思わず、自宅に50年ほど掛けておき、その後は自分たちの所有するレストランに飾った。
「母はこの絵を自宅の壁に飾った際、改めて『落書き』と名付けた。描かれている女性の顔が奇妙だったから。この時、私はまだ生まれてもいなかった」(息子のアンドレアさん)
80年代、小学生のアンドレアさんは美術史の教科書でピカソの「ドラ・マールの肖像」を目にし、ピカソが50年代にカプリ島で過ごしていたことを知った。
そこでアンドレアさんは両親に、もしかしたら価値のある絵かもしれないと伝えた。
こうして、絵の署名が本物かどうかを確かめる数十年間の旅が始まった。
一家が問い合わせた美術史家の多くは、本物のピカソではないと言いつつも、絵を家族の手から引き取ることを申し出た。
不信感を抱いた家族は警察に絵を届け出た。警察は当初、盗品かもしれないと考えたが、当時は本物のピカソと確認されていなかったことから、一家が引き続き絵を所有することを認めた。
この絵は2019年からミラノの地下室に施錠された状態で保管されており、先月にようやく、ミラノの裁判所の筆跡鑑定人チンツィア・アルティエリ氏が、本物のピカソの署名だと確認した。
アルティエリ氏は数カ月かけて絵の分析を行い、ピカソの他の作品と比較したり、絵画制作と同時期に署名が書かれたことを確認する法医学調査を行ったりした。
アルティエリ氏はイタリアの地元メディアに寄せた9月30日の声明で、「この署名がピカソのものであることは間違いない」と説明。「贋作(がんさく)だと証明する証拠はない」と述べた。
ロロッソさん一家を担当する美術専門家のマルカンテ氏もCNNの取材に、絵が本物であることに自信を持っていると語った。
現在の美術市場を踏まえたアルティエリ、マルカンテ両氏の鑑定によると、絵の価値は約600万ユーロ(約9億7000万円)に上る可能性が高い。
パリのピカソ財団によって本物と確認されれば、さらに価値が高まりそうだ。
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原文タイトル:A junk dealer found a painting in a basement. Experts say it’s an original Picasso(抄訳)