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「あなたは誰?」 父の過去の恋人と向き合う女性アーティスト

キャロライン・ファーノーさんは亡くなった父親の35ミリスライドフィルムに写る身元不詳の女性たちの写真に驚き、そして魅了された

キャロライン・ファーノーさんは亡くなった父親の35ミリスライドフィルムに写る身元不詳の女性たちの写真に驚き、そして魅了された/Caroline Furneaux

(CNN) 私たちは自分の両親のことを、本当に知っているだろうか。子どもにとって、自分が生まれる前の両親に複雑な過去があったことを想像するのは難しい。自分が年を取っても、親の若い頃の恋愛や、辿(たど)らなかった道のことは、片隅に置き去られたままの謎であり続ける。

英ロンドンの写真家キャロライン・ファーノーさんは、父親が70代で急死した数年後、35ミリスライドフィルムの収納ボックスを整理していてそんな疑問に突き当たった。父親との関係は複雑だった。だから2011年に父が死去したことで、それが未解決のままになったように感じていると、ファーノーさんは電話取材で打ち明けた。スライドはしばらくそのままにしておいた。兵役に就いていた時の写真や、スウェーデンで農学者をしていた頃の作物の成長記録など、見慣れた写真ばかり出て来ることを想定して。

ところが父のスライドビューアをのぞき込んだファーノーさんが目にしたのは、自分の知らない日焼けした女性たちが、オープンカーに乗ったり、海岸の岩の上でポーズを取ったり、海辺で花を摘んだりしている姿だった。時代は父親が結婚する前の1960年代。撮影場所はスウェーデンが多く、被写体は恋人か浮気相手、または知らない女性だった可能性もある。

ファーノーさんの母親の写真が、両親が出会った直後の2枚を除いて見当たらなかったことも気になった。

「あなたは誰? そしてあなたは? この人は?」。スライドを一枚一枚セットしながら、ファーノーさんは考え続けた。

父親とその人生の異なる側面に出会ったように感じたという/Caroline Furneaux
父親とその人生の異なる側面に出会ったように感じたという/Caroline Furneaux
ファーノーさんが予想していたのは、父が農学者をしていた頃の作物の写真であって、過去の恋愛の写真ではなかった/Caroline Furneaux
ファーノーさんが予想していたのは、父が農学者をしていた頃の作物の写真であって、過去の恋愛の写真ではなかった/Caroline Furneaux

小さなビューアで拡大されて生き生きとよみがえった女性たちのはにかんだ笑顔に見詰められると、父親の人生のこれまで存在するとは思ってもみなかった部分を見せられたように感じた。それは自分の知らない新バージョンの父親のようだった。

「この写真を見て、突然、父の人生の一端が垣間見えた。父の過去の人生、そして私が知らなかったバージョンの父。素晴らしかった」とファーノーさんは語る。「分かりにくくて気難しくてイライラさせる私のお父さん……けれどここにいたのは、人生を楽しんでいる様子の屈託のない若者だった」

ファーノーさんは父親の写真の細部に手を入れ、はかない一瞬の記憶のようなものとして提示した/Caroline Furneaux
ファーノーさんは父親の写真の細部に手を入れ、はかない一瞬の記憶のようなものとして提示した/Caroline Furneaux

それから数年を経てファーノーさんは、自分の人生を一変させていたかもしれない想像上の母の写真を集めた写真集「The Mothers I Might Have Had(私の母だったかもしれない人たち)」を出版した。父親に関する自身の記憶を文章にして織り交ぜた、一種の死後コラボレーションだった。女性にはそれぞれ名前を付けた(隠してあった手紙から見つけたものも、架空で付けたものもある)。写真は一部を切り取って、桜色の爪でビキニのトップを直す女性のひじや、じっと見つめる視線、唇に浮かんだかすかな笑みなどを、断片的な記憶のように見せている。

ファーノーさんは当初、知っている顔があるかどうかを家族に尋ね、女性たちの身元を特定しようとした。しかし手がかりは見つからず、事実を突き止めることよりも、父親に対する新しい見方を発見したことの方が大切だと思い至った。

「父との最後の新しい旅のように感じた」

人生の断片

ファーノーさんは父親のコリンさんのことを回想して、カリスマ性と遊び心がある男性で、自分が幼い頃は想像力に富んだ親だったと形容した。

「父は話し上手でとても楽しく、みんなから好かれていた」(ファーノーさん)

半面、コリンさんは気分の浮き沈みが激しかった。ファーノーさんが成長するにつれ、2人の会話が口論に発展することもあった。コリンさんは感情的だったが、なぜそれほど感情の変化が大きいのかを打ち明けられなかった、あるいは打ち明けようとしなかったとファーノーさんは回想する。ただ、コリンさん自身、両親との間につらい過去があったことをファーノーさんは知っていた。コリンさんは19歳で母を亡くし、継母となった父親の秘書とは最悪の関係だった。

ファーノーさんは最初、写真の女性たちについてもっと詳しい情報を知りたいと思っていたが、今は謎は謎のままでいいという考えだ/Caroline Furneaux
ファーノーさんは最初、写真の女性たちについてもっと詳しい情報を知りたいと思っていたが、今は謎は謎のままでいいという考えだ/Caroline Furneaux

ファーノーさんは著書の全編を通じて父親の人生の断片を探求している。自分が子どもだった時、父親の若い頃の電報や絵葉書、手紙が入った小さな箱を父親のクローゼットで見つけたことも記した。継母が家族写真など過去の思い出を全て燃やしてしまったので、これは大切なコレクションだった。

継母の行為は長い影を落とした。ファーノーさんが自分の母親に、コリンさんの過去の恋愛の記念品が見つかったことをどう思うか尋ねた時の反応とも、大きく違っていた。

「私の恋人たちをあなたに見せておけばよかった」。それがファーノーさんの母親の答えだった。ファーノーさんは、父親の最後の相手として、母親のバーブロさんが森の中に裸足で立ち、明るい色のビキニ姿で赤い車に寄りかかる写真を入れた。

ファーノーさんの母親バーブロさん。一連の写真にはたまにしか登場しない/Caroline Furneaux
ファーノーさんの母親バーブロさん。一連の写真にはたまにしか登場しない/Caroline Furneaux
父親のコリンさんも写真に登場するが、誰が撮影したのかは不明だ/Caroline Furneaux
父親のコリンさんも写真に登場するが、誰が撮影したのかは不明だ/Caroline Furneaux

ファーノーさんも家族も、父親の写真に写った女性たちの情報を求めてはいない。しかし写真の展示や発表の機会が増える中、本人または家族が名乗り出てくれるかもしれないという思いもある。

「それについてはずいぶん考えた。自分の母親や祖母だと思い当たる娘がいるかもしれないと」とファーノーさんは言う。「それはそれでかなり奇妙かもしれない」

写真のほとんどは解けない謎のまま残るだろう。被写体の目は全てを物語ると同時に、多くを明かしてはくれない。だが恐らく最も好奇心をそそるのは、父親の写真を撮った人物の視線だ。スリムな体形の父親は、ビキニブリーフ姿で岩の上に座り、何気ないポーズで海を見つめている。この写真を入れて父親に「視線を投げかける」ことで、バランスが取れたように感じるとファーノーさんは言う。著書に入れたコリンさんの写真はこれを含めて2枚のみ。誰が撮ったのかは分からない。きっと恋人ではなかったのかもしれない。カップルのツーショット写真はあえて掲載しなかった。それでも父親と過去の恋人が写った写真には今も違和感を感じる。

「バラバラでいてくれた方がうれしい」とファーノーさんは打ち明けた。

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