米テキサス州オースティンで進んでいる不動産開発案件は、世界最大級の3Dプリント住宅街となる予定だ。
来年着工するこのプロジェクトは、100棟の平屋の住宅を、先進のロボット建設技術とコンクリートをベースとした建設資材を使って、現地で「印刷」して造り上げていく。
最近公開された完成予想図には、屋根に太陽電池を載せた家々が立ち並ぶ様子が描かれている。開発に携わる企業によると、家1軒当たりの建築期間は約1週間だという。
このプロジェクトは住宅建設会社のレナーとテキサス州が拠点の3D印刷構造を専門とする建設会社ICONが共同で進めている。家の設計はデンマークの設計事務所ビャルケ・インゲルス・グループと共に行った。
ICONは本プロジェクトの価格を公表していないが、同社の技術は労働力が少なくて済むなどといった理由から、既存の建設方法より大幅に早く、安くなるとうたっている。建設時には幅約14メートルのロボット「バルカン」プリンター5台を投入する。このプリンターからは「ラバクリート」と呼ばれるコンクリートミックスが事前にプログラムされた設計に従って吐き出される。
このプロジェクトにかかわる企業は、3Dプリント技術を使ってより安く、より早く住宅を建設することが可能になると語る/ICON/Lennar
同社は3000平方フィート(約279平方メートル)までの家を建設できると語り、これまでに400~500平方フィートの家の壁を計24時間(ただし数日間にわたる)で印刷したことがあるとの実績を示す。屋根や窓、ドア、仕上げについてはレナーが担う。
ICON共同創業者で最高経営責任者(CEO)のジェイソン・バラード氏は報道向け資料の中で、オースティンの住宅街は「コミュニティー規模の開発案件の歴史で転換点になる」と語る。
同氏は「建設スケールの3Dプリント技術は、家をより早く、より手頃な価格で提供するだけではない。こうしたプリンター群が、コミュニティー全体をよりよく構築していく方法を変えうる」と述べ、「米国は500万棟の新築が不足する状況に直面していて、品質や美観、持続可能性で妥協せず供給を迅速に増やす大きなニーズがある。そこがまさに我々の技術の強みだ」との認識を示す。
ビャルケ・インゲルス・グループのパートナーは声明で、3Dプリントの建物と太陽光発電の屋根は「建設段階の廃棄物削減と家の回復力、持続可能性、エネルギー自給の改善に向けた非常に大きなステップ」になると述べた。
建設風景の予想図/ICON/Lennar
3Dプリントによる建設を支持する人々は、これにより人件費と建設期間を大幅に削減できると考える。廃棄物や二酸化炭素(CO2)排出を削減できると示唆する研究もある。3Dプリンターを使って、セメントを流し込む型枠工事なく建設できることで、世界の年間CO2排出量の約8%にあたるセメントの使用を大きく削減できるという。
シンガポールでの最近の研究では、3Dプリント技術を使ったバスルームのユニット建設で、CO2の排出が従来工法より約86%減り、約25%安くなるとの結果が出た。一方、この技術に批判的な人々は、3Dプリントが非再生資材に依存している点や、構造の安全性や安定性が現行の建築基準で特に対応されていない点を指摘する。
「SFではない」
オースティンのプロジェクトはICONが手掛けるこれまでの最大のプロジェクトとなるが、同社は2018年以降、メキシコやテキサス州の公営住宅建設で3Dプリント技術を利用している。最近では米航空宇宙局(NASA)と共同で、月基地の建設を視野に月の砂から建材を作り出す取り組みを進めている。
ICONは今年、オースティン東部で別の4棟の住宅開発案件を発表。19年にはメキシコ南東部タバスコの低所得世帯向け住宅50棟の建設を公表している。
ICONは今回開発する住宅の価格を発表していない。今年、米国初のプリント住宅が市場に登場した。ニューヨーク州リバーヘッドにある1400平方フィートの平屋で、29万9000ドル(約3400万円)の価格が設定された。別の3Dプリント企業パラリ・グループは最近、カリフォルニア州パームスプリングスの近くに3Dプリントの住宅15棟を建てる計画を発表した。価格は3つのベッドルーム付きの家で59万5000ドルから。
ICONのバラード氏は19年にCNNに対し、同社の技術は、低所得世帯にとっては「通常は手に入らない」質の高い製品を速度と価格を備えて住宅市場に投入できると主張。その技術はホームレス問題への対策に利用可能で、災害救助時にも使用できるかもしれないとしている。
バラード氏は「3DプリントはSFではない」「SFから現実へと境界を越えた。将来、我々が持つ最も高い価値観や理想と合致する住宅の解決策を提供する、期待の的になっていると信じている」と語った。