オーストラリアの先住民(アボリジナルピープル)の旗が、これまでシドニー・ハーバーブリッジの頂上部に設置されていたニューサウスウェールズ(NSW)州旗に代わり、恒久的に掲揚されることになった。NSW州政府が、およそ2500万豪ドル(約23億円)を投じて州旗と先住民旗の両方を常設する計画案を中止したことが背景にある。
NSW州のドミニク・ペロテット州首相は11日の声明で、先住民の旗は「わが国の豊かな歴史を日常的に思い出させてくれるものになる」と述べた。
州政府は今年初め、この象徴的なハーバーブリッジに、国旗、州旗と共に先住民の旗を常設する計画を発表。全長約20メートルの第3の旗竿(はたざお)を新たに設置することを約束していた。
このプロジェクトは、先住民およびトレス海峡諸島民と非先住民のオーストラリア人の間にある健康や寿命の格差をなくすための全国的な活動「クロージング・ザ・ギャップ」の一環で、州政府は旗竿の新設に予算を割り当てた。
だが、数千万豪ドルという予算を巡っては、ペロテット氏を含む多くのオーストラリア人が驚きを示していた。
ペロテット氏は6月、記者団から、旗竿の設置工事になぜこれほど多額の費用がかかるのかと尋ねられると、「分からないが、そういうことらしい」と答えた。そして、「私が自ら(工具店の)バニングスに行き、橋の上に登って、旗竿を設置する」と冗談を言った。
ペロテット氏はその後、当局にコストを見直すよう命じたという。11日に発表された新計画に関するプレスリリースで、同州のベン・フランクリン先住民問題相は、新設工事に割り当てられた予算は「NSW州の先住民に真の成果をもたらす」他の取り組みに再分配されると述べた。
「オーストラリアの日」にあわせて先住民の旗を掲げて講義する人々=1月26日、オーストラリア・シドニー/Steven Saphore/AFP/Getty Images
高まる注目
先住民の旗は、1971年に先住民アーティスト、ハロルド・トーマス氏によってデザインされた。旗はこれまで、10日まで開催されていた、全国の先住民およびトレス海峡諸島民の文化や歴史、業績を祝う週間である「NAIDOCウィーク」を含む年間19日間、ハーバーブリッジに掲揚されていた。
だが、5年にわたり先住民旗の常設を求めた「ファンド・ザ・フラッグ」運動、および17万5000人以上の署名を集めた嘆願を受け、旗を常設することが決定した。
95年に公式の旗として認められた赤、黒、黄色の先住民旗は、オーストラリア先住民の象徴となり、しばしば政府の建物に掲揚されているのを見ることができる。だが旗の使用は、商事紛争によって長い間リスクにさらされていた。トーマス氏からライセンス供与を受けた企業が、先住民旗を使用するさまざまな組織に対し、使用料の支払いを要求し始めたからである。
その後、旗の自由を訴えた「フリー・ザ・フラッグ」運動に注目が集まり、オーストラリア政府は今年1月に2000万豪ドル強で旗の著作権を購入。これにより、先住民の旗は誰でも自由に使用できるようになった。
旗のデザインは、黄色い円が太陽を表し、黒い部分が先住民を、赤い部分が彼らの血と地球を象徴している。
一方、NSW州旗は、英連邦に所属している、あるいはかつて所属していた多くの国や地域で使用されている「ブリティッシュ・ブルー・エンサイン」をベースにしている。州政府は11日、シドニー中心部の再開発プロジェクトの一環として、この「注目集まる」州旗を掲揚する新たな場所を設けると発表した。
今月初めには、同州の隣に位置するビクトリア州政府が、メルボルンのウエストゲートブリッジ頂上部に先住民の旗を恒久的に掲揚すると発表している。