(CNN) スイスで発掘された青銅器時代の矢じりは、隕石(いんせき)から作られていたことが新たな研究で分かった。
ベルン自然史博物館の研究者チームが実施した調査によると、 紀元前900~800年に作られたとみられる長さ3.9センチのこの矢じりは、スイスのビール湖に面したメーリゲンにある先史時代の杭上住居群で見つかった。19世紀に行われた発掘作業でのことだ。
3000年近い歴史を持つこの加工品は、エストニアに落下した隕石に由来する鉄で作られていると、当該の研究は指摘する。これは隕石由来の隕鉄が紀元前800年かそれ以前までには欧州で交易の対象になっていたことを示唆すると研究者らは述べ、それほど早い年代に隕鉄の使用が確認されるのは極めて異例だと付け加えた。
「このような証拠から早期の隕鉄使用が明らかになるのは非常に珍しい」と、発見を伝えるニュースリリースは強調する。
当時、人類はまだ酸化鉱から鉄を精錬する技術を使い始めてはいなかったが、一部の隕鉄が隕石の落下地点から見つかることがあったと、研究は指摘する。
隕鉄を使って作った物はこれまでトルコ、ギリシャ、シリア、イラク、レバノン、エジプト、イラン、ロシア、中国で見つかっているが、中欧と西欧でそうした加工品が発見されたのは2つの地点のみ。いずれもポーランドに位置していた。
長さ39ミリの矢じりの側面画像/Thomas Schüpbach/Bern History Museum
今回の矢じりの発見で、研究者はメーリゲンを3つ目の発見地と確認した。
隕石の起源
専門家らはかねて、当該の矢じりに使われた鉄について、トワンべルクの隕石に由来するものだと考えていた。この隕石は上記の杭上住居群からわずか数キロの地点に落下した。
しかし、当該の鉄を分析したところ実際はそうではなく、ポーランドに落下した隕石由来のものでもないことが分かったと、研究は説明している。
これまで知られる限り、欧州で化学組成の似通った隕石は3つしかないが、研究者らによると起源である公算が最も大きいのはエストニア・カーリヤルビに落ちた隕石だという。この隕石は紀元前1500年前後に落下し、「小さな破片を多く生み出した」(研究論文)。
これらの破片の一部はこの後、交易ルートに沿って南西のスイスに移動した。論文の筆頭著者でベルン自然史博物館の地球科学部門責任者を務めるベーダ・ホフマン氏はCNNの取材に答えてそう説明する。
同氏の寄せた電子メールによれば、「青銅器時代に欧州全域で交易が行われていたことは十分に確立した事実だ。バルト海地域産の琥珀(こはく)(恐らく矢じりと同様に)、コーンウォール地方産の錫(すず)、エジプトとメソポタミア地域産の硝子(ガラス)玉が代表的な交易品だ」。
「(交易には)恐らく現在より多少時間がかかっただろう。量も数トンで、数百万トン単位ではなかった」(ホフマン氏)
青銅器時代にスイスの杭上住居群で暮らしていた住民の大半は農業や狩猟、漁労に従事していたが、メーリゲンで青銅の鋳型が見つかるなど、特別な技能を開発した人々もいたとホフマン氏は指摘する。
研究論文はジャーナル・オブ・アーケオロジカル・サイエンス誌に掲載された。