ハリー・スタイルズのレースのジャンプスーツから、実物大のシャンデリアをあしらったケティ・ペリーのガウンまで――。ファッションやスタイルが馬鹿馬鹿しいほど大げさだったり、とても奇妙だったりすることを意味する単語「キャンプ(camp)」をテーマに据えた今年のMETガラでは、大げさで過剰な装いが次々とレッドカーペットに登場した。
メトロポリタン美術館(MET)はこれに合わせ、「キャンプ:ファッションについてのノート」と題した展覧会を開催。このテーマをさらに掘り下げ、250点以上の展示品を通じて「キャンプ」という言葉を定義した。
その1例がビール「バドワイザー」の缶に見立てたパフスリーブのローブで、定番のビールを奇抜で想像力あふれる作品に昇華させた。また、大人の2度目の子ども時代という解釈もあり、明るいピンクのスーツに蒸気機関車やほほ笑むライオン、笑顔満面の太陽をあしらっている。デザイナーのリチャード・クインは色鮮やかな絹サテンのアンサンブルを手掛け、古風でシックな装いを提示した。
モスキーノのジェレミー・スコット氏がデザインした服。バドワイザーの缶に着想を得た/Roy Rochlin/Getty Images
これらの展示では、キャンプなファッションがいかにして大衆文化(あるいは「低級」文化)を受け入れ、再解釈し、想像し直してきたかを探っている。イタリア作家、ウンベルト・エーコが説明したように(この説明はリチャード・クインによる前出のデザインのウインドーディスプレーに登場する)、キャンプは「昨日は醜悪とされていたものを今日の美的快感の対象に変える」ことなのである。
展覧会では歌手ビョークが2001年のアカデミー賞授賞式で着た「白鳥ドレス」も展示されている/Image courtesy of The Metropolitan Museum of Art, Photo ©Johnny Dufort, 2019
キャンプの主題を初めて踏み込んだ形で探ったのは米作家スーザン・ソンタグだった。1964年のエッセー「キャンプについてのノート」(これが展覧会の名称の着想源になった)でファッションに関する明示的な言及は少ないが、ファッションは「キャンプな嗜好(しこう)と類似性がある」芸術のひとつだと明確に述べている。
ソンタグにとってキャンプは概念ではなく「感性」のことであり、「不自然なもの、人工的なもの、誇張されたものへの愛」を特徴とする。(ソンタグによれば、究極にキャンプな表現とは「すごいから良い」というものだ)
ソンタグによる成文化はMETのテーマを支えるだけにとどまらず、これを補強し、忠実に説明していると言えるだろう。
来場者が展覧会を見て回る様子/Roy Rochlin/Getty Images
キャンプというテーマの射程の広さは展示作品の多様さから明らかだ。アンディ・ウォーホルの有名作「キャンベルのスープ缶」のプリントから、カリフラワーに着想を得たディアドラ・ホーケンの頭飾りに至るまで、展示は多岐にわたっている。
さらに、モスキーノのベージュとピンクのジャカードドレスにはレースと大きな絹のリボンが揺れ、英デザイナーのアシシュ・グプタによるスパンコール入りのTシャツには「あなたは自分で思うよりずっとかわいい」「恋に落ち、もっと優しくなろう」との言葉が全て大文字で描かれている。
MET服飾研究所に展示されている服/Image courtesy of The Metropolitan Museumof Art, BFA.com/Zach Hilty
後者の温かみのある柔らかな多様性の受け入れは、キュレーターのアンドリュー・ボルトン氏が報道陣向けプレビューで述べた「キャンプの目的は私たちを笑顔にし、心に暖かい光をともすことだ」という見方と完璧に一致する。これらのTシャツからは、1970年代以降の作品が大半を占める展示と同様、近づきやすさを感じる。いわば、自分のクローゼットに既に架かっている服のようなものだ。
METのマックス・ホライン館長によれば、ひとたびテーマを決定すると、企画チームの目には美術館内外のあらゆるものがキャンプの例に見えてきたという。実際、生活の中に動詞や形容詞、名詞として表現されたキャンプを見つけるには、ただ周囲を見渡すだけで十分だ。