ANALYSIS

【分析】大統領による大学の免税資格剥奪は可能なのか?

米首都ワシントンにある内国歳入庁(IRS)の建物/Kent Nishimura/Reuters

米首都ワシントンにある内国歳入庁(IRS)の建物/Kent Nishimura/Reuters

(CNN) 米内国歳入庁(IRS)がハーバード大からの免税資格剥奪(はくだつ)を計画しているとCNNが報じたのは、トランプ大統領がそれを示唆した翌日だった。このことは、前例のない形で大統領権限が税法に対して行使されるのを意味する。

大学が免税資格を失う、もしくは取得に失敗する事例は複数存在するものの、大統領がその願望を表明したそばからそれが実現したことなど一度もない。IRSは政治の影響を受けない機関と考えられている。

大統領はIRSに調査を指示せず

米国の法律は、大統領がIRSに調査を指示することを明確に禁じている。捜査対象が何かは無関係。該当する項には「行政府が税務監査及びその他の捜査に影響を及ぼすことの禁止」とある。

IRSは財務省の傘下だが、政治からは可能な限り守られていることが重要だ。そのためIRSには、政治的に任命された当局者が2人しかいない。バイデン前政権発足時に財務次官補(税務政策担当)を務めたマーク・マズール氏はそう説明する。

同氏が記者に明かしたところによれば、米国は他国と比較して自主納付率が高い。「なぜなら国民が自分たちと税制とのやり取りに関して、公平で法に基づいたものだと感じているからだ」

IRSが突然政治的な目的のために使われるようになれば、そうした信頼が壊れかねない。たとえばオバマ政権時代、IRSは正真正銘のスキャンダルに巻き込まれた。財務省の調査の結果、IRSが保守系団体に対する免税資格の付与を遅らせていたことが分かったからだ。

もしIRSがハーバード大の免税資格を剥奪するべきだと考えるのであれば、同大には警告と共にその見解に対して異議を唱える機会が与えられなくてはならない。法廷でIRSと争うことも可能になるだろう。

2期目のトランプ政権が新たに発足してから、IRSは既に多くの混乱に見舞われている。これまで複数の長官代行が辞任したのは、税に関するデータを移民関連の当局者が使用できるのかどうかを巡って対立が生じた結果とみられる。

大学が免税資格を失った前例はあり

1983年、連邦最高裁はボブ・ジョーンズ大学に免税資格を認めるべきではないとする見解に同意した。当時同大が、学生間での異人種同士の交際を禁止していたことが理由だった。

同大はこの方針を2000年に撤回したが、免税資格は17年まで回復されなかった。

これを踏まえると米国での現状にも合点が行く。トランプ氏のハーバード大に対する主要な不満の一つは同大が掲げる多様性のプログラムにある。

ハーバード大VSトランプ氏

米国の大学でトランプ政権に立ち向かえる大学が一つあるとするなら、それはハーバード大に他ならない。

米国の最高学府として名高い同大は資金も潤沢だ。集まる寄付の額は500億ドル(約7兆円)を超える。

協力者もいる。ある推計によれば共和、民主両党の議員の中で同大卒業生が占める割合は下院で10%近く、上院で20%近くと、驚くほど高い。

しかしその財力と名声にもかかわらず、同大は政府からの資金と免税資格を頼みにしている。その点はあらゆる主要な研究大学と変わらない。

ハーバード大はトランプ政権が要求した大学の雇用、管理データへのアクセスとそれらに対する検証を拒んだ。全ての多様性プログラムの打ち切りについても同様にこれを拒否した。するとトランプ氏はSNSへの投稿で、同大の免税資格を剥奪するべきだと主張した。

政府資金を止められて、免税資格も失ったハーバード大に何が起こるのか。答えが出るには時間がかかるだろう。その場合税金は連邦政府だけではなく、おそらくマサチューセッツ州にも納めることになるとみられる。

ハーバード・ビジネス・スクールの構内を歩く人々/Faith Ninivaggi/Reuters
ハーバード・ビジネス・スクールの構内を歩く人々/Faith Ninivaggi/Reuters

大学が免税される理由

米国にある大半の公立大、私大と並んで、ハーバード大が納税を免除されている理由は非営利団体というその地位にある。

教会や慈善団体と同様、大学は米国の税法に基づき、社会にもたらす恩恵(この場合は教育と研究)が提供すべき税基盤を上回ると考えられている。

トランプ氏が身にしみて分かっているように、全ての高等教育機関にこの方針が適用されるわけではない。同氏が開き、現在は消滅した「トランプ大学」は営利団体であり、複数の元大統領から詐欺で提訴された。訴訟はその後、和解が成立した。

一方、免税資格が認められた大学は選挙の候補者の支持や立法に影響を及ぼすなどの行動を控えなくてはならない。また大学の活動や財務状況に関する報告を毎年公表することも義務づけられる。

「公共の利益との調和」

IRSと国はこれまでも、大学をはじめとする組織の免税資格に異議を唱えてきた。原理主義を掲げるカリフォルニア州南部のボブ・ジョーンズ大学で起きた事例のように。

IRSが1970年に同大の免税資格に異議を申し立てると、最高裁は83年に以下の判断を下した。納税を免除されるに当たり、当該の機関は「明確に社会に奉仕し、公共の利益と調和する存在でなくてはならない」と。また「その機関の目的は一般の共同体の良心と対立するものであってはならず、もたらされ得るどのような公益も損なってはならない」

長年にわたり、IRSはサイエントロジー教会に由来する宗教団体の免税資格を維持してきた。しかし教会関係者が慣習に従わない活動を長期的に行ったことを受け、97年に方針を撤回した。

大統領1期目で既に課税

興味深いことに、トランプ氏は政権1期目で署名した税法に基づき、ハーバード大を含む裕福な大学に新たな税金を課している。これは税率1.4%の物品税で、学生1人当たりの寄付が50万ドルを超える大学が課税対象になる。米シンクタンクの税務政策センターによれば、2022年には58大学から2億4400万ドルの税収が得られた。この税は今なお存在する。

議員らは現在この法律を再検証しており、これを契機に大学が納めた、もしくは納めなかった税金が改めて精査されることになるかもしれない。

本稿はCNNのザカリー・B・ウルフ記者による分析記事です。

メールマガジン登録
見過ごしていた世界の動き一目でわかる

世界20億を超える人々にニュースを提供する米CNN。「CNN.co.jpメールマガジン」は、世界各地のCNN記者から届く記事を、日本語で毎日皆様にお届けします*。世界の最新情勢やトレンドを把握しておきたい人に有益なツールです。

*平日のみ、年末年始など一部期間除く。

「Analysis」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]