専門家らが中国のウイグル族弾圧に関する報告書発表、「ジェノサイド」と断定
香港(CNN) 中国当局による新疆ウイグル自治区での行為は国際法上の「ジェノサイド(集団殺害)」そのものだとする報告書を、米国のシンクタンクが発表した。
報告書は人権、戦争犯罪、国際法の専門家50人以上が共同で執筆し、米首都ワシントンのシンクタンク、ニューラインズ戦略政策研究所が9日に発表。中国が国際条約に反し、少数民族ウイグル族に対するジェノサイドを行っていると結論付けた。
新疆ウイグル自治区でジェノサイドが起きているとの訴えや、中国当局の責任について、非政府組織が独自の法的分析を試みた例は初めて。CNNはこの内容を事前に入手した。
それによると、同自治区では政府がイスラム過激派の取り締まりと称する対テロ作戦を始めた2014年以降、ウイグル族などイスラム系少数民族の100万~200万人が1400カ所の収容施設に入れられてきた。
執筆者の1人、ニューラインズ研究所のアジーム・イブラヒム氏は、ジェノサイドを裏付ける「圧倒的な」証拠があると断じている。
新疆ウイグル自治区にある再教育施設とされる建物。収容者のほとんどがイスラム系の少数民族だ(2019年6月4日撮影)/Greg Baker/AFP/Getty Images
1948年のジェノサイド条約は「国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部または一部を、集団それ自体として破壊する意図をもって行われる」行為をジェノサイドと定義したうえで、「集団の構成員を殺すこと」「重大な肉体的または精神的危害を加えること」「身体的破壊をもたらすよう企てられた生活条件を故意に集団に課すこと」「集団内の出生を妨げるための措置を課すこと」「集団の子どもを他の集団に強制的に移すこと」という5種類の行為を挙げた。同条約は中国を含む152カ国が批准している。
過去には旧ユーゴスラビアとルワンダで、国連安全保障理事会が設置した国際刑事裁判所がジェノサイドを認定してきた。
国際刑事裁判所で裁くには安保理の付託が必要だが、中国は安保理で拒否権を持つ常任理事国のひとつ。その国自体によるジェノサイド疑惑が取り上げられる可能性は低い。
だが条約によれば、5つの行為のうち1つでも確認されればジェノサイドに当たる。同報告書は、中国の行為が5種類すべてに及ぶと主張している。
報告書はさらに、ウイグル人亡命者数千人の証言や中国政府の公文書に基づき、中国の「集団を破壊する意図」を示す十分な証拠があると指摘する。
新疆ウイグル自治区のカシュガルで大型スクリーンに映し出された習近平国家主席の映像(2018年11月8日撮影)/Bloomberg/Getty Images
報告書によると、収容施設では性的暴行や精神的虐待、洗脳教育が横行し、多くの自殺者が出ている。ウイグル族の出生率が急落しているのは、当局が不妊手術や人工妊娠中絶、避妊を強制しているためとされる。
学校からはウイグル族の文化や歴史、文学の教科書が排除された。収容施設では中国語を強制的に学習させ、拒否する者や話せない者は拷問を受けたという。
報告書が引用する演説や文書では、ウイグル族などのイスラム系少数民族が「雑草」「腫瘍(しゅよう)」などと呼ばれている。政府が地方当局に向け、ウイグル族の血統やルーツを絶てと指示した記録もある。
つまりウイグル族に対するジェノサイドの主体は中国国家だったと、報告書は結論付けている。
イブラヒム氏は報告書について、提言を目的とした文書ではないとして中立性を強調する一方、こうした結論は「非常に重大な」意味を持つと述べた。
ジェノサイド条約はジェノサイドの主体とされた国家に対する罰則を定めていないが、報告書は中国以外の締約国に行動を起こす責任があると指摘している。