線路上の「指揮所」、戦時下でも運行を続けるウクライナ鉄道の取り組み
路線網の中にはもはやウクライナの管理下にない箇所や、マリウポリからボルノバーハに至る路線のように損傷して修復不能になった箇所もある。マリウポリに閉じ込められたままの数十万人にとって列車は選択肢にならず、道路による避難回廊をつくる試みは何度も失敗している。
「ロシア人は軍用物資が入るのも、人々が避難するのも、人道支援物資が搬入されるのも望んでいない。そうでないのなら、なぜマウリポリ市民を避難させないのか」とカムイシン氏。「我々は彼らがキエフとハリコフ、リビウとキエフ、そしてドニプロとザポリージャを結ぶウクライナの主要輸送路を寸断しようとするのを絶えず目の当たりにしている」
線路の修理やルート変更が増えた結果、同社は状況に適応せざるを得なかった。
線路が破損すれば、主要都市間のつながりが絶たれる事態にも陥る/Oleksandr Pertsovskyi
同社の指揮構造はいま「フラット」になっている。管理者は上司の許可を求めずに、その場で自由に判断を下すことができる。官僚的な手続きを経ずに済むため、修理は平時に比べわずかな時間で終わる。翌日のダイヤは毎晩、現場の状況に合わせて作成される。首都キエフや北東部のハリコフのプラットホームで最近見られたように群衆が制御不能になる事態や、開戦当初にリビウ発ポーランド行きの列車に乗ろうと人が殺到したような状況に対応するためだ。
こうした中でシステムが依然機能しているのは「国全体にとっても、大統領にとっても驚きだ」とカムイシン氏は話す。
移動中の列車では通信が常に課題となっており、携帯電話の電波が届きにくかったり、場所によっては全く届かなかったりする。米有力実業家イーロン・マスク氏のおかげで衛星インターネットシステムの「スターリンク」が使えるものの、これを使用するのは危機的な状況の時のみ。人工衛星を使えば敵に位置を特定されやすくなるという。