「突然動けなくなった」 ガザで25年ぶりポリオ感染の乳児、ワクチン間に合わず
(CNN) アブドゥル・ラフマン君が眠る壊れかけのチャイルドシートを、母のニベーン・アブ・ジディアンさんが揺らしていた。穏やかな寝顔のアブドゥル君は、頭上を飛ぶドローンのことも、自分の体をむしばむ不治の病のことも、今は知らない。
「息子は立つことも、座ることも、以前のように動くこともできない。ずいぶん弱ってしまった」。アブ・ジディアンさんはパレスチナ自治区ガザ地区にあるマワシ避難民キャンプの仮設テントでCNNの取材に応じた。「来月で1歳になる。今頃はもう、歩いているはずだった。けれど突然、動くのをやめた」
アブドゥル君はガザ地区で25年ぶりにポリオと診断された患者だった。かつて世界中で恐れられたポリオは今、ワクチンを接種さえすれば簡単に予防できる。
世界保健機関(WHO)によると、ポリオは5歳未満の子どもが最もかかりやすく、感染すれば生涯まひが残ったり、死に至ることもある。感染力が強く、ワクチンで予防する以外に治療法はない。
イスラエル軍はガザ地区で作戦を展開する兵士のワクチン接種を済ませている。
しかしアブドゥル君は、ガザ地区で続く戦闘のため、感染を予防できていたはずのワクチン接種を受けられなかった。ポリオのワクチンは一般的に、生後数カ月以内の接種が勧告されている。
戦争前のガザでは予防接種がほぼ行き渡っていたが、今では80%程度にまで落ち込んだ。
先進国のほとんどで根絶されたポリオの発生は、昨年10月以来、イスラエルの爆撃にさらされて生きてきたガザ地区の住民200万人の窮状を物語る。多くの住民が食料も、医薬品も、きれいな水も奪われ、人口の90%が避難を強いられている。
流行を防ぐため、WHOは国連児童基金(ユニセフ)とともに、ガザ地区の10歳未満の子ども64万人を対象とする集団予防接種を開始すると発表した。
ポリオの流行を防ぐためには対象とする人口の約95%が接種を受ける必要がある。もしこの目標を達成できなければ、ガザの子ども数千人がポリオに感染するのは「時間の問題」だとWHOは指摘した。