「恐怖でしかない」、最前線に位置するゴーストタウンの生活とは ウクライナ南部
ヘルソン(CNN) ウクライナ南部に位置する港湾都市ヘルソンは不気味なほど静かだ。市内の中央広場はほぼ空っぽ。自転車をこぐ人や、杖をつきながら食料品店に向かってできるだけ早歩きして通り過ぎる高齢の女性にとって、交通による危険はほとんどない。
ここはロシアとウクライナの戦争の最前線に位置する町だ。ロシア軍はドニプロ川のすぐ向こう側に陣取っており、ウクライナ軍や軍が守っている住民からは5キロと離れていない。
食料品店では入り口が大きな板で守られており、ガラスの扉は木で覆われている。住民はほとんどが高齢の男女で、店内に入ると棚に何が並んでいるかを確かめ、その日に必要な品々を購入し、避難所や自宅に戻る。

窓ガラスが割れた食料品店。ヘルソンではいたるところで窓が割れ、建物が損傷している/Scott McWhinnie/CNN
ヘルソン市は、ウクライナに侵攻してきたロシア軍によって最初に陥落した大都市だった。8カ月後に解放されると、青と黄のウクライナ国旗をまとい喜びに満ちた群衆が路上に繰り出した。兵士と抱き合ったりキスしたり、車のクラクションを鳴らしながら歌ったりした。
国旗はまだ掲揚されたままだ。大きな旗が繁華街の銀行の建物の上にはためき、小さな旗は通りに並ぶ。街灯に描かれた国旗さえある。しかし、喧噪(けんそう)と喜びは消え去ってしまった。
米国のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領がウクライナでの戦争の終結に向けて協議を行うなか、ヘルソン市と住民の運命はあやうい状況にある。2014年にロシアによって違法に行われたクリミア半島の「併合」によって、プーチン氏はヘルソン南部に位置する黒海沿岸の広大の土地を手に入れたが、22年に始まった全面侵攻によって、ロシア軍はますます多くの領土を獲得した。
多くの建物には長年の戦闘による傷痕が刻まれている。窓は吹き飛ばされて板でふさがれ、砲弾がコンクリートにぶつかった周囲には、がれきが散乱している。
砲弾は今も頭上を飛び交い、着弾すると破壊的な衝撃音が耳をつんざく。
しかし、最近、人々を恐怖に陥れているのはドローン(無人機)の音だ。
「どれほどの恐怖か説明できない」。そう語るのはオレナ・バシリエフナ・シガレワさん。「飛んで、ブンブン音がする。しかし、見えない。そして、見つけると向こうも止まり、どこにでもついて来る」
シガレワさんによれば、もうひとりの女性と一緒に歩いていたところ、ドローンの標的となった。ヘルソンの住民のなかには「狩猟旅行」と呼ぶ人もいる。SNSには、武装したカメラ付きのドローンが民間人を追跡して爆発物を投下する様子を捉えたものとみられる数十本の動画が音楽付きで投稿されている。
「彼らは私たちが兵士ではなく女性だとわかっていた。私たちは彼らに何もしていない。ただ恐ろしい」(シガレワさん)

オレナ・バシリエフナ・シガレワさんは他の女性と歩いていたときにロシア製ドローンの攻撃を受けたと話す/Scott McWhinnie/CNN
病院のベッドで取材に答えたシガレワさんは、負傷したひざと、爆発物の破片でけがした脚の治療を受けていた。
病院は騒音や動きのある数少ない場所の一つで、戦争で負傷した人たちを治療するために医療従事者が廊下をせわしなく動き回っている。負傷者の大部分はドローンによる攻撃を受けた民間人だ。
空室にはベッドが詰め込まれ、それぞれに患者がいた。高齢の女性は足首を固定されていた。ボリスという名前の10代の少年はバスに乗っていたときに攻撃を受けたと語った。ある男性の場合、かつて脚があった場所に目を向けると、両太ももの高い位置で切断されていた。
ヘルソン市の市長はドローンによる危険から離れた地下室で働いている。市長によれば、毎日100機ものドローンが町に向かって飛んでくる。「大半は我々の妨害装置で制圧できるが、もちろん、標的に到達して市民を襲うドローンもある。我々はこれを民間人狩りと呼んでいる。ロシアはヘルソンに新しいドローン部隊を送り込み、ドローンで民間人を攻撃して訓練を行っている」
国際法では、直接戦闘に参加していない民間のインフラや民間人を意図的に攻撃することは戦争犯罪とみなされる。
ロシアは、ウクライナ政府や西側諸国、国際刑事裁判所(ICC)、国連から繰り返し、ウクライナの民間人を標的にしていると非難を受けている。戦争が続くなか、ロシアは反証となる実質的な証拠があるにもかかわらず、繰り返しそうした非難を否定してきた。

食料の入った箱を受け取ると、女性は急いで家の中に戻っていった/Scott McWhinnie/CNN
ドローンによる攻撃の大半は、ヘルソン市東郊の無防備な場所で発生し、住民は事実上、足止め状態となっている。路上に出るのに最も安全な時間帯は早朝なので、ボランティアがトラックの荷台から食料支援の箱を届けるのもその時間だ。
女性たちが寒さから身を守りながら緊張しつつ自宅から姿を現す。感謝の気持ちを込めて段ボール箱を両腕に抱えると、素早く自宅の中に引き返す。立ち止まって会話をしたい人など誰もいない。
それも当然だ。数分後、川のロシア側からドローンが発射されたとの知らせが入る。このゴーストタウンでは外に出るのは危険すぎる。支援者は配達されなかった箱を回収して、拠点に戻る。配達に向かうはずだった他の家庭はこの日、腹を空かせるかもしれないし、運を天にまかせて外に出るかもしれない。