コロナ疲れの日本、感染増の東京で高まる反発心

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大勢の人でにぎわう東京・渋谷区の商業施設(2020年8月4日)/Yuichi Yamazaki/Getty Images

大勢の人でにぎわう東京・渋谷区の商業施設(2020年8月4日)/Yuichi Yamazaki/Getty Images

東京(CNN) サトウ・アユミさん(34)は、慎重な行動を心掛けている。だが、もううんざりだ。感染症を避けるため閉じこもる生活に疲れ果ててしまった。サトウさんは東京に住む株式のトレーダーだが、こうした思いに駆られているのは彼女だけではない。

現状に反発する空気は、東京の至る所で感じられる。多くの人々は指導者層が新型コロナウイルスの感染拡大抑止に向けて、ごく最小限の対策しか打っていないように感じている。

サトウさんは政府の言うことには耳を傾けるべきとしつつも、皆それぞれ状況は違い、政府の話をいつも鵜呑み(うのみ)にするわけにはいかないと語る。働かなくては生きていけず、外出を一切やめることも不可能だとも指摘する。

政府のウイルス対策への不満が高まる中、日本は新型コロナの新たな感染拡大に見舞われそうだ。厚生労働省によれば、過去2週間ほどは1日当たり900人を超える新規感染者を記録。7日の新規感染者数は過去最多となる1601人に達した。

これまで感染拡大以降の日本における感染者数は5万人近くに達し、そのうちの半分以上は7月以降に感染が確認された。死者は少なくとも1000人を超えている。

感染者の多くは東京に集中している。都市として世界でも有数の人口を抱える東京では、経路不明の感染が相次いで起こり、封じ込めが不可能な事態に陥るのではないかという不安が絶えない。5月と6月の大部分、東京は1日当たりの新規感染者数を100人以下に抑えられていた。ところがその後、感染者は増え続け、8月1日には1日当たりで過去最多となる472人の新規感染者を確認した。ここまで、東京での感染者数は1万5000人を超えている。

東京・銀座の商業エリアを歩く歩行者ら(2020年7月25日)/KAZUHIRO NOGI/AFP/Getty Images
東京・銀座の商業エリアを歩く歩行者ら(2020年7月25日)/KAZUHIRO NOGI/AFP/Getty Images

新たな緊急事態宣言はなし

東京の当局者らは都内の多くの感染例について、人々が夜間に外出した際に発生するとみている。そのためアルコール類を提供するレストランやバーに対して、営業時間を午後10時までに短縮し、店内での感染リスクを下げるよう要請している。

政府も相当な規模の財政出動を行う方針を表明。ウイルスの影響から国民の生活を守るため、200兆円超の支出を行い、経済の崩壊を防ぐとしている。

安倍晋三首相は6日、直ちに緊急事態宣言を出す状況ではないとの認識を示した。ただ実際のところ、現在確認されている感染者数は、最初の宣言を出した頃を上回っている。最初の緊急事態宣言は4月に発表され、7週間近く続いた。

当時とは状況がかなり異なるとしたうえで、安倍首相は「直ちに緊急事態宣言を出す状況ではないが、高い緊張感を持って注視」すると述べた。

しかし21歳の大学生、イイヅカ・ソウマさんのように、安倍氏に批判的な人もいる。政治の指導力が最も必要とされるときに、それを発揮することを避けているというのがその理由だ。

安倍氏は経済を回すことだけを考えるべきではないと、イイヅカさんは主張。もし感染者を少なく抑えて景気を上向かせたいなら、自宅にこもって休業せざるを得ない人たちに補償を行う必要があると語った。

冒頭のサトウさんやイイヅカさんのような人々は、指導者らに対し、もっと国民の暮らしや一人ひとりの幸せに目を向けなくてはならないと訴える。そうでなければ中途半端な施策は捨てて、あらゆる範囲に及ぶ封鎖措置に踏み切るべきだと主張する。

また、観光業を再生しようと旅行促進のキャンペーン事業に約1兆6000億円を投じる計画は、全国の都市が感染者数の増加に苦慮する中で、政府の対応としてずれていると主張する人も多い。

マスクを着けて国会に臨む安倍晋三首相(2020年6月10日)/STR/Jiji Press/AFP/Getty Images
マスクを着けて国会に臨む安倍晋三首相(2020年6月10日)/STR/Jiji Press/AFP/Getty Images

事業主への圧力

接客業に携わる人たちは現在、厳しい選択を迫られている。顧客や従業員への潜在的な健康リスクをはらみつつも、生き残りを賭けて当局からの午後10時閉店の要請を断るのか、あるいは事業にとって命取りになるとしても、要請に従い売り上げの減少を受け入れるのか。

ヒラヤマ・トクハルさんは、感染拡大の間も店を開き続けている。それでも損失はすさまじい。4月の売り上げは、前の月に比べ95%落ち込んだ。その後わずかに持ち直したものの、7月には再び低迷。従業員の大半を一時解雇させなくてはならなかった。今は1人で店に入る日もある。コストを賄うため、副業で宅配も行っている。

ヒラヤマさんは、10時閉店の要請には従うつもりだと話す。理由は、つまるところ同業者からのプレッシャーだ。近隣の飲食店やバーは要請を受け入れているという。

店舗のある地域は周囲の人間がどう考えているのかに非常に敏感で、周囲に逆らっても仕方がないとヒラヤマさんは語る。

しかし、長谷川耕造氏はそうした流れに与(くみ)していない。

長谷川氏が創業し、経営者を務めるグローバルダイニングは、日本で約40のレストランと店舗を所有する。同氏は業界で、リスクをいとわぬレストラン経営者として知られ、従業員に多くの自由と自律を認める手法が幅広く評価されている。社内で経験を積んだ従業員に対しては、独立に向けて背中を押す役割も果たしている。

コロナ禍で事業に極めて大きな痛手を受けたという長谷川氏は、他の多くの事業主と同様、複数の融資プログラムへの申請を行ったと説明する。これらのプログラムは、官民の金融機関が政府による経済支援パッケージの一環として提供したものだ。

長谷川氏の考えでは、政府が新たに打ち出した午後10時閉店の規定は正当とは言えない。10時以降バーが閉店する午前0時までの間にウイルスの感染力が強まるわけでは全くないからだ。10時以降も飲み続けるかどうか、なぜ客に決めさせないのかと長谷川氏は問う。

生まれつき反骨精神が旺盛だという長谷川氏。日本文化のそういうところが気に入らず、従うのが当たり前だと思う風潮に異を唱える。我々には自分で考える頭があるとも語り、自身の店は今後も真夜中まで営業する予定だ。

ウイルスと生きる

要請の順守にまつわる長谷川氏のコメントが示唆するのは、日本の文化的な規範として知られる「自粛」の概念だ。それは、国家が危機的状況に陥った時、人目を引く派手な振る舞いを不適切なものと認識する。2011年の東日本大震災と福島第一原発の事故の後、人々は繰り返しこの言葉を口にした。

ただ日本人の文化について、規則に従おうとするあまり融通の利かないところもあるとの評価が可能である一方、重要なのはそうした気質によって社会全体が一色に染まっているわけではないという点だ。東京にあるテンプル大学の現代アジア研究所所長を務めるカイル・クリーブランド氏はそう指摘する。

「過度な一般化には慎重になった方がいい。東洋学者的な手法で文化を定義してみたりするのもそうだ。その場合我々は日本について、何か極めて質的な違いが他のアジア諸国との間にあると考えることになる」(クリーブランド氏)

同氏はシンガポール、台湾、韓国、タイなどの国々を挙げ、いずれも日本と同様、新型コロナの感染者数が比較的少ないと指摘。これらの異なる社会に共通する特徴はルールに従うことであり、「ルールが社会を統治している」と分析した。

クリーブランド氏の考えによれば、現在日本で政府への反発や怒りが表面化しているからといって、自粛の概念が突然日本文化における本来の居場所を失いつつあるということにはならない。むしろそれは、人々がウイルスとともに生きる新たな段階へと進み、そのリスクを受け入れることに以前より前向きになっているということを示すという。

「1カ月前に存在した自粛とは違う。それはもうない」「(人々は)依然としてソーシャルディスタンシングを実践し、マスクを着けたりしている。とはいえ彼らは、バランスを取らなくてはならないことに気が付いている。金銭的な負担や、そしてまさしく生活の質との間で取るべきバランスだ。その結果として、彼らは社会へ出ていこうとしているのだ」(クリーブランド氏)

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