上海からニューヨークまでわずか2時間? 中国が極超音速旅客機の開発競争に参戦
ディッセル氏はCNNに対し、「SABREは、高速のPtoPシステムにも、サブオービタルまたはオービタル(軌道)システムにも極めて自然に適合する。この種のものとしては初めてであり、新たな推進サイクルをゼロから発明するのは一大事業だ」と述べている。
また同氏は、超音速旅客機と極超音速旅客機の間の主な利点について、以下のように説明している。
超音速旅客機のコンコルドはマッハ2で飛行できた。だが、マッハ2に達するまでには加速や上昇が必要で、飛行中ずっと速度をマッハ2に保っていたわけではなかった。
ニューヨークからロンドンまで、空港から空港まで10時間かかるのが、超音速旅客機では所要時間がわずか7時間となった。だが短縮されたところで、ビジネス客の1日を取り戻せたわけでなかった。
一方、飛行速度がマッハ4を超える極超音速旅客機に乗れば、米東海岸を午前中に出発し、午後にロンドンで会議に参加しても、同日中には米国に戻ることが可能だという。
環境への配慮
極超音速飛行を巡っては、時間短縮のメリットについては議論の余地がないものの、技術的、規制的なハードルは数多く存在する。
NASAの市場調査では、人口密集地上空を飛行する際の衝撃音「ソニックブーム」の規制、安全認証、排ガスに関する懸念、放射線被ばくの危険性がある高高度での運航に関する懸念など、克服すべき点を列挙したチェックリストが特定されている。
さらに、高マッハ数で発生する速度や熱摩擦に対応するために、特殊な材料を使用して機体を作らなければならないという課題もある。宇宙の入口で飛行するための特別なパイロット訓練も必要となる。
こうした課題のほとんどは技術的なものであるため、コストをかければ克服できる。だが、コンコルドが作られていた時代には、英国とフランスの納税者からほぼ無限の公的資金が投入され、設計と開発が支えられていたのに対し、次世代の極超音速旅客機は、主に民間企業から資金が調達されることになる。
もうひとつの大きな違いは、1960年代とは異なり、現代では航空機の利用が環境に与える影響に焦点が当てられていることだ。仮に、極超音速旅客機の利用者が北京からドバイまでの2時間のフライトをソーシャルメディアで自慢すれば、旅の行程で地球を汚染したとして、宇宙飛行の見栄えは良くないだろう。
ディッセル氏によると、極超音速旅客機を開発する各企業は、「最高速度のシステムと、少なくとも最終的には環境負荷の少ないシステムの両方を提供するために、さまざまな方法を試みている」という。
極超音速飛行の普及と最終的な成功を決定付ける最も重要な要素のひとつは、「炭素燃料をゼロにする方法を見出すことだ」と同氏は指摘している。
千里の道も一歩から
こうした状況を受け、中国は民間の宇宙経済分野における地位を確立しようとしている。スペース・トランスポーテーションは、民間資本のベンチャー企業として、宇宙飛行機を市場投入するための技術的な課題に取り組んでいるが、その背景には国の支援があるように見える。
この国家支援こそが、競合との差別化要因になり得るのだ。
極超音速飛行を、超富裕層の旅行者だけでなく、より広範なビジネス旅行市場として実現するための幾多のハードルを乗り越えるために、世界の宇宙飛行機メーカーには潤沢な資金が必要なのである。