OPINION

コリン・パウエル氏が長く悔やんだ出来事

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パウエル氏はイラク戦争開始を決定づけた自身の国連演説を後年まで悔やんでいた/Ben Sklar/Getty Images

パウエル氏はイラク戦争開始を決定づけた自身の国連演説を後年まで悔やんでいた/Ben Sklar/Getty Images

(CNN) 本人が後に大変悔やんだことだが、当時米国務長官だったコリン・パウエル氏は、ジョージ・W・ブッシュ政権の中心人物となってイラク戦争の開始を支持した。同氏が18日に84歳で死去して以降、その事実は追悼記事やオピニオン欄の中で指摘された。しかし、あの時代に起きた出来事についてはより綿密な検証を行う価値がある。

パウエル氏が国連安全保障理事会で発表に臨んだのは2003年2月5日。米軍がイラクに侵攻する6週間前だった。そこではブッシュ大統領の望む通りの主張が展開されたが、その内容は米軍によるイラクの占領の後で瓦解(がかい)した。同国の独裁者、サダム・フセインは大量破壊計画のための武器を持っておらず、国際テロ組織アルカイダと同盟関係にもなかったことが明らかになったためだ。いずれもパウエル氏の国連での主張とは食い違っていた。

湾岸戦争の英雄であるパウエル氏はブッシュ政権で広く尊敬を集める人物であり、イラク問題に関しては他の高官を相当上回る信頼を得ていた。国連での演説の前に米ギャラップ社が発表した世論調査によると、米国のイラク政策に関してパウエル氏を信用できるとした回答は米国民の63%と、ブッシュ氏の24%を上回った。

これを踏まえたうえで、ブッシュ氏はパウエル氏に国連でイラク戦争の必要性を訴えるよう求めた。

パウエル氏はイラク侵攻の決断について、ディック・チェイニー副大統領をはじめとする他の閣僚よりも懐疑的だった。「物を壊したら、自分が所有しなくてはならない」。02年8月、パウエル氏がブッシュ氏にそう告げたと、ジャーナリストのロバート・ドレーパー氏はイラク侵攻までの経緯に関する信頼できる説明の中で述べている。

チェイニー氏のオフィスが強く求めたのは、パウエル氏が国連演説の中で、うわさされるフセインとアルカイダのつながりについて最大限に膨らませた内容を語ることだった。それはかつて米国の国連大使だったアドレー・スティーブンソンが行ったある種の決定的な発表の再現になるとみられていた。スティーブンソンはキューバ危機が最も深刻化した1962年の演説で航空写真を使った説明に成功。これにより世界は、ソ連がキューバに核ミサイルを配備したと確信するに至った。

アルカイダは米国本土を標的にした過去最大の攻撃の実行犯だった。9・11同時多発テロは3000人近い人々を殺害し、ニューヨークにあるワールドトレードセンターのツインタワーを倒壊させた。米国防総省も被害を受けた。フセインと9・11を画策したテロリストとを結びつけることは、対イラク戦争を開始する理由を確立するうえで重要だった。

パウエル氏に次ぐ国務副長官だったリチャード・アーミテージ氏は、副大統領のオフィスが詳細な提案書をまとめてきたのを覚えている。パウエル氏が国連に持ち込むことになっていたその文書には、「想像し得る限りのありとあらゆるネタ」が盛り込まれていた。9・11でハイジャックを主導したモハメド・アタが、プラハでイラクの諜報(ちょうほう)員と9・11前に接触していた、といった話もあった。

しかしこの1カ月前、米中央情報局(CIA)による「イラクのテロ支援」と題した報告書は、すでに次のように結論していた。「アタが2001年にプラハへ行き、(イラクの当局者と)接触していたという内容はますます疑わしく思える」

CIA副長官だったジョン・マクローリン氏の記憶では、アルカイダとイラクの関係を推定するホワイトハウスの上記の提案書をCIAが承認することはなかった。マクローリン氏はパウエル氏とそのスタッフに、「これは我々の草稿ではない。くだらない内容ばかりだ」と告げた。

誠実な取り組みによってフセインとアルカイダの関係にまつわる疑わしい題材をパウエル氏の演説から除外しようとしたにもかかわらず、最終的な文言の中に残った内容のほとんどはイラク占領後にその信用を失うことになる。

今にして思えば、パウエル氏は自らの職務をうまくこなしすぎた。演説に臨んだ同氏の振る舞いは堂々たるもので、フセインが大量破壊プログラムのための兵器を隠し持ち、アルカイダと同盟関係を結んでいるのは疑いの余地がないように思われた。パウエル氏は「サダム・フセインとその政権は、水面下でさらに多くの大量破壊兵器の製造に取り組んでいる」と断言。さらに「イラクとアルカイダが持つテロリストのネットワークとの間には邪悪な結びつきがある」と指摘した。

途中、大量破壊兵器がもたらしうる危険性を示すため、同氏は炭疽菌(たんそきん)と思われる白い粉の入った小さな容器をこれ見よがしに取り出すと、「おおよそこのくらいの量で、01年秋、議会上院は閉鎖された」と説明した。

パウエル氏の演説中、すぐ後ろの席には発言内容を分かりやすく是認して見せるCIAのジョージ・テネット長官の姿があった。

国連演説の一部は、サダムとアルカイダの同盟が新たに成立しつつあるとの主張に割かれた。「現在のイラクは、アブムサブ・ザルカウィが率いる恐るべきテロリストネットワークの隠れ家となっている。ザルカウィは、オサマ・ビンラディンと彼に従うアルカイダ幹部らの同胞であり協力者だ」(パウエル氏)

しかしパウエル氏が演説の中で主張したイラクとアルカイダの結びつきは、当時利用可能だった情報に欠陥があったとはいえ、根拠が極めて薄いものだった。ザルカウィとアルカイダの関係はこの時点ですでに全く明確なものではないことが分かっていた。04年まで、ザルカウィはアルカイダとは別個の組織を運営。タウヒードと呼ばれるこの組織の名称は、アラビア語で一神教の概念を意味する。実際に、タウヒードのメンバーのシャーディー・アブダラは02年にドイツで逮捕されているが、捜査員に対しタウヒードはアルカイダと競合関係にある組織だと語っていた。

03年3月にイラク戦争が始まってからも、ザルカウィは依然としてアルカイダから独立した自らの組織を運営していた。この事実は意外な形で支持を得ることになった。ドナルド・ラムズフェルド国防長官が04年6月、国防総省のブリーフィングでザルカウィについて、「彼がアルカイダではないと語るのは筋が通っている」と述べたのだ。

05年10月25日、CIAは報告書を発表し、サダムとザルカウィが同盟関係にあるとの誤った通説をようやく退けた。検証の結果、戦争前の時点で「イラク政権はザルカウィと関係がなく、彼をかくまうことも見逃すこともしていなかった」という。

アルカイダとサダム、そして大量破壊兵器の結びつきを証明しようとしたパウエル氏の国連演説でさらに取り上げられたのはクルド人のイスラム主義グループ、アンサール・アルイスラムだ。彼らはイラク北東部の訓練キャンプで化学兵器を使った実験を行っていた。パウエル氏はその施設を「毒の工場」と形容。キャンプの航空写真を見せながら説明した。

しかしながら、アンサール・アルイスラムが当該のクルド人居住地域に存在できた唯一の理由は、米空軍が同地域における飛行禁止区域を10年以上にわたって強化してきたからにほかならない。つまりクルド人居住地域に関しては、国防総省の方がサダムより多くの支配権を握っていたということだ。

明らかにフセインがクルド人居住地域を掌握していないという事実を十分認識したうえで、パウエル氏はイラクの独裁者がアンサール・アルイスラムの上層部にスパイを送り込んでいると述べた。ただフセインのスパイがアンサール・アルイスラムにいた可能性はあるものの、それで彼が同組織を支配下に置いていたとはとても言えない。

パウエル氏の演説は、イラク戦争支持を公然と訴えた非常に素晴らしいものとして長く記憶されるはずだった。ところがその後、米国がイラクを占領すると、それが虚偽の主張と間違った思い込みにあふれた内容だったことが明らかになった。

ジョージ・テネットCIA長官は後に、パウエル氏の演説について、見たところ皮肉を込めずにこう記している。「素晴らしい発表だった。だが残念なことに、実体が伴っていなかった」

05年、パウエル氏はABCニュースのバーバラ・ウォルターズ氏に対し、国連での演説は自分にとって「痛ましく」、経歴上の永遠の「汚点」だと語った。

パウエル氏が上記の告白をした時、イラクは激しい内戦に突入しつつあった。最終的に4400人以上の米軍兵士がイラクで命を落とすことになる。民間人の犠牲者はさらに膨大な数に上った。

ジャマイカ移民の息子として生まれたパウエル氏は、ニューヨーク市のサウスブロンクス地区で育った。青年将校としてベトナムのジャングルで戦闘任務に就き、その後はレーガン政権で国家安全保障担当補佐官を務めるまでに上り詰めた。また米国の黒人で初めて国務長官に就任した。

同氏の国連での演説は、その並外れた経歴を決定づけるものではないが、本人にとっては悔やんでも悔やみきれない結果をもたらした。

ピーター・バーゲン氏はCNNの国家安全保障担当アナリスト。米シンクタンク「ニューアメリカ」の幹部で、アリゾナ州立大学の実務教授を務める。米国とアルカイダとの長期にわたる紛争を扱った書籍の著者でもある。記事の内容はバーゲン氏個人の見解です。

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