OPINION

トランプ氏家宅捜索、不吉な警告は意味をなさず

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FBIによる自宅の捜索を受け、トランプ氏とその支持者らが不吉な警告を発している/Brandon Bell/Getty Images

FBIによる自宅の捜索を受け、トランプ氏とその支持者らが不吉な警告を発している/Brandon Bell/Getty Images

(CNN) 米連邦捜査局(FBI)が今週トランプ前大統領のフロリダ州の自宅「マール・ア・ラーゴ」を家宅捜索したとの報道が流れると、不吉な警告が右派メディアの至る所から相次いで噴出した。焚(た)き付けているのは前大統領とその信奉者たちだ。

トランプ氏は捜索を「司法システムを武器にしたもの」と形容。自身を刑事事件の対象とすることで米国の民主主義が解体の脅威にさらされたと論じた。これは興味深い主張だ。確かこの人物は自ら出馬した2016年大統領選の選挙戦を開始する際、当時の政敵だったヒラリー・クリントン氏の収監を求めるスローガンを叫んでいたのではなかったか。

フリーダ・ギティス氏
フリーダ・ギティス氏

前大統領への法執行は「ルビコン川を渡る」の現代版に他ならない。歴史の転換点であり、米国の民主主義に癒やすことのできない傷を残すだろう。これが8日以降、国を不安に陥れている2つの警告の1つ目だ。

2つ目は脅迫の度合いがさらに増す。トランプ氏の最も好戦的な支持者らが公然と報復を呼び掛け、暴力さえ示唆している。エリート層に属する支持者らが彼らの怒りを煽(あお)る構図は、昨年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件前に通じるものがある。そこで展開されるのは、共和国がかつてないほど重大な独裁政治の脅威にさらされているという主張だ。警告の締めくくりは次の通り。共和党が政権を奪い返したら必ず民主党に報復する。

米国民は不安を感じるべきだろうか? 答えはイエスでありノーだ。

トランプ氏による法執行の武器化という虚偽の主張を真に受ける必要はないが、同氏の支持者らがFBIの捜査にいかなる反応を示すかは恐れた方がいい。実際のところ、FBIによる1件の捜査を受けて暴力の脅迫が相次ぎなされたことは、トランプ氏を取り巻く協調体制が国にとって危険なものであることを改めて証明している。

トランプ氏は、部分的には苦境に陥っている。法の限界を押し広げることにかけて、これまで相当の実績があるからだ。FBIの副長官を務めたアンドリュー・マケイブ氏は、CNNの取材に答え、「捜索令状について聞いた時最初に思ったのは、これはどの捜査に関係するものだろうかということだった。選択肢があり過ぎて、文字通り頭がくらくらした」と語った。

また率直に言って、今週は前大統領にとって最悪だった。まずFBIの自宅捜索に対処しなくてはならなかった。捜索に関わっているという政府文書は一部が機密扱いで、本人がホワイトハウスから持ち去ったものだとされる。次に連邦控訴裁がトランプ氏の主張を退け、税務申告書を議会に提出しなくてはならないとする判断を下した。さらに10日、ニューヨーク州司法長官が進める民事調査で、同氏は憲法修正第5条の自己負罪拒否特権を行使して証言を拒否した。念のため知らせておくと、トランプ氏はかつて次のように発言している。「もし無実なら、なぜ憲法修正第5条を行使するのか?」

ホワイトハウスによれば、バイデン氏はFBIによる抜き打ちの捜索について一切関知していなかったという。それはそうだろう。司法省は本来政治問題から独立しているものだ。トランプ氏の息子のエリック氏は、ホワイトハウスのことを分かっているとして、この話を信じようとしない。彼の知る(トランプ政権時代の)ホワイトハウスでは、大統領がそうした判断に関わるものだったのだろう。

トランプ氏に対する法執行は米国を「第三世界」の国にするとの主張もある。トランプ氏自身もこうした見解を述べているが、事実はむしろ真逆だ。強固な民主主義国では、誰であれ法を超える存在にはなり得ない。だからこそ他の国々では、フランスからイスラエル、韓国まで、大統領や首相の経験者を訴追し、有罪判決を下し、時には収監さえする。こうした国々の民主主義はそれにより一段と強化される。巨大な権力を持つ者に向けて、自分たちは法の手の届かないところにはいないのだというメッセージを送ることになるからだ。

政府文書の取り扱いを誤るのは犯罪だ。ビル・クリントン氏が大統領だった時のある高位当局者は2005年、1つの文書のコピー3部を破棄したとして訴追された。当時は軽罪だったが、18年にトランプ氏がそれを重罪とする法律に署名した。注目すべきことに、トランプ氏がこれを行ったのはヒラリー氏及び同氏による政府の電子メールの「不注意な」扱いを攻撃した後のことだった。

トランプ氏は文書の入った箱15個をマール・ア・ラーゴに持ち込んだ。それらは今年に入って回収されている。8日、FBIの捜査員はさらに12個の箱をマール・ア・ラーゴから持ち出した。

これが全てトランプ氏を追い詰めるための悪辣(あくらつ)な陰謀だと主張するのは馬鹿(ばか)げている。捜索令状を取るのは簡単な作業ではない。検察官らは判事が納得するよう、犯罪が行われたとする相当な理由を示さなくてはならない。また犯罪の証拠が当該の施設にあるとの確信に足る説明も必要になる。

FBIが捜索中にこっそり証拠を仕掛けたのではないかとトランプ氏が示唆しているところを見ると、本人は悪事を証明する文書が見つかったことを懸念しているのかもしれない。

FBIが法律の厳格な範囲を超えた行動を取った証拠は一切ないにもかかわらず、右派メディアと共和党のトランプ主義者たちは我先にと陰謀論の嵐に火を付け、大げさな非難をまくし立てている。彼らによると国は独裁政治に突き進んでいくらしい。

不合理かつ不道徳なナチス・ドイツへの例えがお決まりのパターンだ。フロリダ州選出のリック・スコット上院議員らは、連邦政府をヒトラーのゲシュタポ(秘密警察)になぞらえた。テキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員は、次のように警告した。「彼らはあなたのところにもやって来る」

11月の中間選挙後には下院議長になるかもしれないケビン・マッカーシー下院院内総務は、報復をちらつかせているように見えた。ガーランド司法長官に対し、捜索について精査する可能性があるとして「文書を保管し、予定を空けておく」よう告げたのだ。さらにミズーリ州選出のジョシュ・ホーリー上院議員は、ガーランド氏の辞任もしくは弾劾(だんがい)を求めた。

こうした火花は極右のソーシャルメディアに引火する兆候を見せた。そこでは内戦に関する話題が公然と語られた。ツイッターで約200万人のフォロワーを抱えるある右派のポッドキャスターは、「今度という今度は戦争だ」と投稿した。他のユーザーも「夏は戦場に似合いの季節」、「銃に弾を込めろ」などと書き込んでいる。

ネットでの「内戦」の検索件数は9日をピークに急減したように見えるが、リスクは軽視できない。1月の世論調査では共和党支持者の40%が政府に対する暴力は時に正当化されると思うと答えていた(同じ考えの民主党支持者は約23%)。これらの多くは、所有する銃器への思い入れが強い人々でもある。

トランプ氏の法律上のトラブルは悪化する一方だ。同氏はすでに最も危険な支持者たちを動員できることを示しているが、いかなる国もそのような脅迫を認めて自国の法執行を抑制するべきではない。端的に言って、これほどのレベルの脅しが民主主義国に存在してはならない。

トランプ氏の訴追にはリスクが伴うが、仮に同氏が犯罪を犯していることを示す証拠があるのなら、訴追しないのは米国にとってさらに重大な危険を意味する。

フリーダ・ギティス氏は世界情勢を扱うコラムニストでCNNのほか、米紙ワシントン・ポストやワールド・ポリティクス・レビューにも寄稿している。記事の内容は同氏個人の見解です。

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