乱射事件に揺れる米国、銃の購入が増加
マリネロさんによれば、大規模な乱射事件があると、厳しい銃規制法が可決されるのではないかとの懸念から必ずといっていいほど銃の販売が急増する。
「ほとんどの州では、事件直後の余波で売り上げが急激に伸びる。恐ろしい事件ではあるものの、ニュースを見た誰もが『新しい法律ができるのではないか』と口にする」(マリネロさん)
ニューヨークなどの州では、銃所持許可証の申請処理に遅れが生じているともマリネロさんは言った。
「失うかもしれないと考えるものを手に入れようとする駆け込み需要がある」(マリネロさん)
ダーティー・ハリー風リボルバーやピンクの迷彩柄の散弾銃
マリネロさんは先月、ニューヨーク市に住むウィリアム・チェンさん(65)に対して、購入手続き中の9ミリの拳銃を見せていた。マリネロさんは弾が込められていないスミス・アンド・ウェッソンの拳銃をチェンさんの右手に置いた。
「この銃は、まず撃鉄を起こさないと発砲しないことを頭に入れておくように」と、マリネロさんは客に説明した。
「親指を使って、撃鉄を起こす。そうして初めて発砲できる状態になる。発砲しない時は安全装置をかけておく。撃つ準備ができたら安全装置をおろし、その後、引き金を引く」(マリネロさん)
チェンさんは以前コインランドリー店のオーナーだったが、現在は引退の身だ。すでにライフル2丁と拳銃1丁を所有し、銃所持歴は2年ほどだ。チェンさんは最初、自衛目的で銃器を購入したと言っていたが、会話が進むうちに、クイーンズの射撃場で射撃訓練を楽しんでいると熱っぽく語った。
「とても満足している」と、隔週で射撃場に通うチェンさんは言う。「人生を満喫している」
マリネロさんが経営する2軒の銃器店は豊富な品ぞろえが自慢だ。熊1頭も倒せるダーティー・ハリー風の回転式拳銃から、小柄な利用者向けに作られたピンク色の迷彩柄のポンプ式散弾銃まで幅広く取り扱う。
「色はいったん置いておいて」と、マリネロさんはピンク色の散弾銃を指さした。「年齢の若い人や小柄な人には、銃床が2インチ(約5センチ)長いのものよりもこっちを勧めている」
「ずっと前から購入しようと思っていた」
アイスリップにあるマリネロさんの銃器店兼射撃場では、シェルビーさんとジェンさんが午後の射撃訓練を終えていた。指導役に銃愛好家の友人がついていた。
「ルガーとロッシ、2丁のライフル銃を持っている」とシェルビーさん。パンデミック中に家族の勧めで購入した。
シェルビーさんは現在、拳銃の所持許可証の書類を作っているところだと述べた。申請手続きが終わり、拳銃が購入できるようになるまで1年半から2年ぐらいかかるという。
くぐもった銃声が背後で鳴り響く中、「友人はみな許可証を持っている」とシェルビーさんは言った。「私も射撃の腕を磨きたい。銃を撃つのは楽しい。なかなかの腕だと思う」
ジェンさんは一人暮らしなので、銃購入は「安全のためというのもあるが、射撃場に来て撃つのも楽しんでいる。前からずっと1丁購入したいと思っていた」と言う。
ジェンさんによれば、すでに射撃場で数々の拳銃を試し撃ちした。スミス・アンド・ウェッソンの9ミリが気に入ったが、まだ決めかねているという。
「今のところは撃つだけ。いい感触のものを見つけて、本当に買いたいものを見極めているところだ」(ジェンさん)
さらにジェンさんはこう続けた。「責任ある行動がとれるようにしたい。銃を手にして落ち着かなくなるのは当然だ。銃を手にしても平気なようだと、ちょっとまずい」