感染者数減少の中国、警戒感薄れ浮上するリスク
香港(CNN) 各国で新たな感染例の報告が相次ぎ、「パンデミック(世界的な流行の拡大)」のレベルにまでじわじわと近づきつつある新型コロナウイルス。こうした中、初期の段階で感染を確認した地域の中には状況が安定し、人々が再び普段通りの社会生活を営み始めているところがある。
特に中国では、新たに報告された感染者数は過去1週間で大幅に減少した。とりわけ感染の発生源だった湖北省以外の地域での落ち込みが際立っており、移動の制限を緩和したり、少しずつ人々が仕事に戻る環境を整えたりする自治体も出てきている。
北朝鮮と国境を接する北東部の遼寧省は22日、他の省に先駆けて新型コロナウイルスに対する緊急警戒レベルを最大のレベル1からレベル3に引き下げた。省政府が声明を通じて発表した。続いて山西省、広東省、雲南省、甘粛省、貴州省が同様の措置をとった。これらの省は合わせて3億500万人前後の人口を抱える。
香港でも、極めてゆっくりとではあるが警戒感を緩める機運が生まれつつある。ここまで2人の死者を出し、感染者数も現時点の90人超からなお増加し続けているにもかかわらず、より多くの市民が再び外出し始めるようになっている。マスクをせず出歩く人の姿も、以前ほど珍しいものではなくなった。
香港の場合は、ウイルス発生当初の中国本土や現在の韓国などにみられる急速な感染拡大を防ぐことにある程度成功した。学校の閉鎖や、市民の大部分を在宅で勤務させるといった対策を通じ、人々の接触の機会を効率的に減らしたことが要因とみられる。しかし日にちがたち、家にこもる生活のストレスがたまれば、人々が再び職場に出かけたくなるのは自然なことだ。たとえ潜在的なリスクがあるとしても。
感染の不安にさいなまれ、隔離状態に置かれた数週間を経て、普段の生活に戻りたいという思いが募るのは理解できる。ただ現時点で危機が去ったわけでは全くない。中国本土は特にそうだ。
感染拡大が始まった昨年12月以降、中国本土の感染者数は7万8000人、死者は2700人を超えている。一方、感染の報告や分類の手順が二転三転する状況で、中国当局によるウイルス関連のデータには正確性の観点から依然として深刻な疑念があるのが実情だ。湖北省には大量の物資や緊急医療スタッフが投入されているものの、それ以外の省では感染が見過ごされたり、診断が確定していない患者が生じている恐れがある。
仮にデータが正確であったとしても、また感染件数が横ばいになりつつあるとしても、事態の収束にはまだ数週間かかる可能性がある。それまでは人々が自由に移動したり、大勢で集まったりすることが安全であるとは言い切れない。周知の通りこのウイルスには潜伏期間があり、無症状の人からも感染するという有力な証拠が示されている。
中国共産党指導部が来月5日に開幕予定だった全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の延期を決めたのは、おそらくこのような状況を考慮してのことだったと思われる。
とはいえ現時点で中国当局が打ち出すウイルス関連のメッセージは、ひいき目に見ても一貫性がなく、矛盾する内容を含むこともしばしばだ。国営メディアがウイルスとの戦いをめぐる忍耐と自己犠牲の記事を大々的に取り上げる一方、検閲当局は政権に対するあらゆる批判に目を光らせている。同時に、多くの国外メディアのウェブサイトをブロック状態に置いたうえで、中国当局は海外記者による一部の報道に批判の矛先を向ける。
もっと言えば、政治宣伝を目的とする機関が発表したところによると、当局は近く、中国がいかにウイルスと戦ったかを記録した書籍を出版するという。6カ国語で出版されるこの本が焦点を当てるのは、習近平(シーチンピン)国家主席の「卓越したリーダーシップ、戦略的ビジョン、使命感、そして人民への心配り」だ。
すでに「任務完了」の雰囲気すら漂う中、習氏自身は26日、次のような言葉で警告を発している。「湖北省並びにその省都である武漢の状況は、依然として複雑かつ厳しいものである。加えて、他の地域でウイルスが再び流行するリスクも見過ごすことはできない」