「15分都市」が世界規模の陰謀論に変容するまで
(CNN) 悩みの種だった交通渋滞の緩和策で殺害脅迫を受けることになるとは、ダンカン・エンライト氏は想像もしていなかった。
だが、まさにそうしたことが英地方議員の身に起きた。エンライト氏がオックスフォード市で提案された交通制限の試験運用に関与したために、気づけばソーシャルメディアやメールは攻撃的なメッセージであふれ返っていた。
この計画は交通のピーク時に渋滞する市内道路の使用を減らすもので、6つの幹線道路に設けられた監視カメラ付きの制限地点を通過するには、住民は許可証が必要になる。
エンライト氏のもとに殺到した非難は的外れで、内容も様々だ。送り主の大半はオックスフォードと無関係だという。英国国外からのメッセージも多い。
そうした人々は、エンライト氏が住民を地元地域に閉じ込めたがっていると主張し、気候対策の名のもとに人々の移動を監視する世界規模の陰謀に加担していると非難している。
「非常に危惧すべき状況だった」とエンライト氏はCNNに語った。「長年地方行政に携わっているが、こんな経験はしたことがない」
エンライト氏が巻き込まれた陰謀論は、交通渋滞の緩和や大気汚染の減少、徒歩や自転車利用促進を図る計画を「気候ロックダウン(都市封鎖)」と呼び、世界各地で急速に勢いを増している。
オックスフォード市が争点になった理由のひとつに、交通制限計画が別の提案と混同されたことが挙げられる。陰謀論者の怒りの主な矛先になっている、「15分都市」の構築という市の提案だ。
15分都市とは?
ソーシャルメディアに「15分都市(15-minute cities)」と入力すると、ディストピアの到来だとか、「区域」から出ると罰金が科されるとか、「都市という名の監獄だ」といった主張がごまんと出てくるだろう。
だが15分都市のコンセプトはいたってシンプルだ。そこでは医療や教育、食料品店から緑化スペースにいたるまで、必要なものはすべて自宅から徒歩または自転車で約15分圏内にそろっている。
15分都市では、自家用車をあまり使わずに、住みやすくて連携した街を作ること、空気を浄化して道路に緑を増やし、地球温暖化につながる汚染のレベルを減らすことを目指している。地球温暖化を引き起こす世界の人為的汚染の約20%が交通機関によるもので、乗用車はそのうち40%以上を占めている。
仏ソルボンヌ大学のカルロス・モレノ教授が15分都市という言葉の名付け親とされているが、広い意味でのコンセプトは以前から存在した。
「こうした考えは大勢の都市計画専門家の意見をヒントにしている。その筆頭が、コンパクトで活気があり、それゆえ徒歩で生活しやすい都市環境を長年推奨してきたジェーン・ジェイコブス氏だ」と、エディンバラ大学で都市のデータサイエンスとサステナビリティー(持続可能性)を教えるアレッシア・カラフィオレ講師は言う。