「15分都市」が世界規模の陰謀論に変容するまで
15分都市は世界各地で注目され、パリのアンヌ・イダルゴ市長も2020年に再出馬した際、15分都市の構築計画を選挙戦の柱の一つに掲げた。すでにパリ市ではセーヌ河岸の一部で車両通行禁止が敷かれ、自転車専用レーンが数百キロメートル増設された他、小規模な公園が造られた。
カナダの首都オタワでも15分圏内の街づくり案が出された他、オーストラリアのメルボルンでは20分圏内の街づくりが採用される見込みだ。スペインのバルセロナでは、車が通行できない「スーパーブロック」戦略が行われている。
米国でも一部の都市がこうした考えを採用している。ポートランドは10年以上も前から20分圏内の街づくりを導入しているし、つい先日もイリノイ州オファロンで「典型的な郊外型コミュニティーを、15分圏内で必要なものがそろうコミュニティーに進化させる」戦略が公表されたばかりだ。
パンデミックに伴うロックダウンもコンセプトの人気急上昇の要因となった。地元から出られない生活を送る中、人々は地域社会のあり方を見直さざるを得なくなったためだ。
「サービスの行き届いた地域で生活することがどれほど重要か、以前にも増して実感するようになった」(カラフィオレ氏)
それでもなお、インターネット上では15分都市という言葉を持ち出すだけで、怒りのコメントが殺到することになる。
「15分都市の計画が23年の陰謀論になるなど、一体誰が予測しただろうか?」と言うのは、リバプール大学で地理学と都市計画を教えるアレックス・ナース講師だ。同氏も最近「カンバセーション」というサイトに15分都市の記事を寄せたところ、メッセージが殺到したという。
「受信箱がパンクした」と同氏はCNNに語った。
陰謀論の誕生
こうした比較的平凡な戦略が、深化する気候絡みの陰謀論の火種になったのはどういうわけか?
偽情報や過激思想を専門とするシンクタンク「戦略対話研究所」の気候研究政策部門を率いるジェニー・キング氏の話によれば、前々から化石燃料業界の一部関係者は、気候対策を「気候暴政」と位置づけて怒りをかき立てようとしてきた。
だが20年以前は、なかなか支持を得られなかったと同氏はCNNに語った。
その状況がパンデミックで一変した。
メディアでは、ポストコロナ時代の世界は温暖化の原因となる汚染の減少を維持する形で再建すべきだという主張が相次いだが、これをきっかけにして、政府は気候対策の名のもとに自由を制限するつもりだという説が勢いを増した。
パンデミック後の格差・気候危機対策として打ち出された世界経済フォーラムのイニシアチブ「グレート・リセット」も、さらに拍車をかけた。
「気候ロックダウン」という言葉が出回るようになり、右派シンクタンクや気候変動に懐疑的なメディア関係者がこれを後押した。キング氏いわく、そこからQアノン支持者やワクチン反対派など、さらに過激な陰謀論コミュニティーへと浸透していった。