ANALYSIS

親ロ派のハンガリー首相、欧州のウクライナ支援にリスク

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会話を交わすロシアのプーチン大統領とハンガリーのオルバン首相=2015年2月、ハンガリー首都ブダペスト/Sean Gallup/Getty Images

会話を交わすロシアのプーチン大統領とハンガリーのオルバン首相=2015年2月、ハンガリー首都ブダペスト/Sean Gallup/Getty Images

(CNN) ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻当初から、西側の対応のアキレス腱(けん)になっているのがハンガリーだ。ハンガリーのビクトル・オルバン首相はウクライナの欧州連合(EU)加盟交渉に待ったをかけ、支援策の協議を遅らせ、打倒ロシアを掲げるウクライナの力量に疑問を呈してきた。

そうした理由から、29日に行われるハンガリーとウクライナの外相会談に大きな関心が集まっている。

両国とも公式声明で意図的に会談の趣旨をぼかしているが、EUのウクライナ追加支援にハンガリーの賛同を得られるかどうかについて、今回の会談で少しははっきりするのではないかと西側関係者はひそかに期待している。EUによる500億ユーロ(約8兆円)の追加支援策は昨年12月に承認されるはずだったが、ハンガリーが拒否権を行使していた。

オルバン氏は当時、追加支援を拒否した理由について、EU予算が非加盟国に流れるのは間違っているからだと述べた。

批判的な人々はオルバン氏の反対姿勢について、EUの条約の根幹をなす価値観、すなわち法の統治という要件にハンガリーが違反したためにEU本部がハンガリーへの予算拠出を留保していることが関係しているのではと指摘している。オルバン氏およびハンガリー政府関係者は、ウクライナ追加支援に対する拒否とハンガリーへの予算拠出の保留との関係や、EU条約の違反について、繰り返し否定している。

だが同様に、オルバン氏がプーチン氏とことさら親しくしているという批判もある。オルバン氏がそうした立場を利用して、ロシア政府の手先として欧州の同盟国に脅しをかけていると考える西側関係者は多い。大半の欧州諸国にとって最優先事項であるウクライナ支援に強硬姿勢を取り、引き換えとして他の分野で譲歩を引き出そうとしているという。

EUや北大西洋条約機構(NATO)の加盟国にとって、ハンガリーが居心地の悪い仲間になりつつあることは周知の事実だ。この数年、オルバン氏はLGBTQ+(性的少数者)の市民の権利から移民問題、司法の弱体化に至るまで、ことあるごとに欧州諸国と衝突してきた。

オルバン氏はEUのルールを限界まで拡大解釈し、EU本部と何度も瀬戸際交渉を繰り広げてきた。そして、かなりの頻度で譲歩を引き出したり、あるいは自分に都合のいいように取り決めを回避したりしてきた。

だがウクライナ危機は、ハンガリーと西側同盟国の不和をこれまで以上に際立たせた。

ハンガリーはこの2年余り、欧米主導のウクライナ支援にとって頭痛の種だった。オルバン氏はEUの対ロシア制裁や、ウクライナへの武器供与および財政支援に難色を示し、ウクライナのEU加盟申請にも障壁として立ちはだかった。

同じようにNATOでも、オルバン氏はウクライナだけでなくフィンランドとスウェーデンの加盟申請にも反対した。スカンジナビア諸国にまでNATOの防衛同盟を拡大すれば、プーチン氏の怒りを買うだろうと考えた上での反対だったことは想像に難くない。

最終的にオルバン氏が折れ、昨年フィンランドは晴れてNATOに加わった。だがスウェーデンの加盟に関しては、先週トルコ議会が承認したのを受け、最後まで批准を保留しているのはハンガリーだけとなった。オルバン氏はトルコ議会の承認直後、ハンガリーはスウェーデンのNATO加盟申請を支持しているものの、議会が批准するタイミングは定まっていないと発言した。

29日の外相会談を控え、最も喫緊の問題は、欧州による500億ユーロのウクライナ追加支援が承認されるかどうかだ。来月1日にEU首脳会議が開かれ、追加支援の承認に向けた裁決が再び行われることになっている。西側の当局者はCNNに対し、ハンガリーが拒否権を行使しないために何が必要なのかを舞台裏でほんの少しでも示唆するだけで、大きな勝利だと語った。

だがCNNが取材した関係者の大多数は、ここ最近のハンガリーの反対姿勢はほんの序の口に過ぎないのではと恐れている。オルバン氏がさらに機嫌を損ね、今後も欧米のウクライナ支援を失速させるのではと身構えている。

楽観的な見方もある。主に外交関係者の間には、オルバン氏が国内の世論におもねりつつ、最終的にはしぶしぶながら、EUやNATOのこれまでの政策をすべて受け入れてきたとの見方がある。欧州の安全保障の当局者は、「確かに表向きの発言は良くないものばかりだ。だが不思議なことに、舞台裏ではそこまでひどくない」とCNNに語った。

当局者によれば、ハンガリーは他の欧州諸国よりもロシアと近しい関係にあるため、オルバン氏には自国民やロシア政府に向けて「NATOの操り人形ではないというメッセージを発信する」政治的理由があるという。「前進の代償として怒りのツィートを浴びせられるなら、それで構わない」

だがそこまで寛容ではない当局者もいる。オルバン氏はプーチン氏との関係性を武器に、統一戦線に亀裂を生じさせることで、EUとNATOから身代金を得ようとしているという意見もある。往々にしてオルバン氏が最後の最後で重い腰を上げるのが問題なのではなく、西側が一枚岩でないという印象を抱かせる点が問題だというのだ。

「ハンガリー人とのショーに多くの意味があるのは事実だ。多くの場合、最終的に向こうが折れる。だがハンガリーはことあるごとに、ウクライナ支援や西側の連帯強化に重要な対策を邪魔してくる」とドイツの外交当局者はCNNに語った。

「ウクライナに武器を供与するEU予算や、スカンジナビア半島へのNATO拡大、あるいはロシアの戦争に関する偽情報の拡散にしても、ハンガリーは常に西側の連帯に水を差す」(ドイツ外交当局者)

西側当局者は次第にロシアとの情報戦に巻き込まれつつある。ゼロサムゲームと比べれば、情報戦はそこまで複雑ではないのが普通だが、連帯に亀裂を生みかねないという点で西側にとって、やはり頭が痛い。プーチン氏にとっても願ったりかなったりだ。あまりにも短絡的に聞こえるかもしれないが、当局者や外交筋の多くはこうした見方をしている。

事実がこれほど単純なために、ハンガリー問題は複雑だ。ハンガリーはどの国よりもEUとNATOの恩恵を受けているものの、場合によっては同盟国を窮地に陥れるほどにオルバン氏の賛同は西側諸国にとって重要だ。そのことは本人も十分心得ている。

そして何より、両組織との意見の相違をほんの少しにおわせるだけでもプーチン氏に価値があることを承知している。そのことは、オルバン氏と同盟国の対立を報道するロシアの国営メディアを見ればよくわかる。

こうした二つの理由から、オルバン氏ができるだけ結論を先延ばしにするのは政治的にも当然の流れだ。同氏はこれまでの経緯から、譲歩を引き出せる術を学んだのだ。

当然、ウクライナには何の得にもならない。戦争は来月で3年目に突入するが、ウクライナ国民はこれまで以上に、西側の将来的な支援について明確な答えを求めている。今年は米国の大統領選挙の年でもあるから、なおさらだ。

侵略される側にとって、政治的な心理戦は戦争から目をそらす害でしかない。だがこの先数カ月はそうした状況が続くだろうというのが欧州関係者の大方の意見だ。

状況がますます緊迫して不安定になる中、オルバン氏が騒動を起こす機会はますます増えるだろう。そしてさらに大きな政治的利益を得ることになるだろう。

本稿はCNNのルーク・マクギー記者による分析記事です。

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