ロンドン(CNN) 3人の子どもに囲まれてほほ笑む英キャサリン皇太子妃の写真は、健康状態や居場所をめぐり飛び交う臆測に終止符を打つはずだった。だが数時間後、複数の世界的な通信社が加工の懸念を理由に写真の配信を撤回し、英王室に関する全く新たな論争が巻き起こった。
この写真は10日早朝、英国の「母の日」を祝ってケンジントン宮殿が皇太子夫妻の公式SNSアカウントに公開したもの。英王室の公式写真の慣例に従い、各種通信社に対しても配信用に同時提供された。
写真にはジョージ王子やシャーロット王女、ルイ王子に囲まれ、リラックスした様子で笑顔を浮かべるキャサリン妃の姿が写っている。撮影を担当したとされるウィリアム皇太子の言動に思わず笑みがこぼれたようだ。
騒動発生後の11日午前、キャサリン妃は思いがけない混乱を招いたとして責任を認め、個人的に謝罪する声明を出した。
声明では「多くのアマチュア写真家と同じで、私も編集を試みることが時々あります。きのう共有した家族写真が混乱を招いたことを謝罪したいと思います。母の日のお祝いをしている皆さんが幸せな一日を過ごしたことを願っています」とコメント。投稿の末尾にキャサリン妃を意味する「C」の文字を添えた。
英王室が母の日を祝うのは毎年恒例のことだが、今回の心を打つ写真は国へのメッセージの意味合いもあると受け止められており、1月に腹部の問題で手術を受けてから高まっていたキャサリン妃への国民の心配を和らげるはずだった。
キャサリン妃の回復には2~3カ月かかると王室が説明していたにもかかわらず、公務の停止や病状を巡る不透明さから情報の真空状態が生まれ、SNS上では陰謀論が噴出した。その内容は無神経なものから突拍子もないものまで多岐にわたる。
母の日の写真は、クリスマス以降にキャサリン妃の姿が正式公開される初めての機会でもあった。先週には、母親の運転する車の助手席に座るキャサリン妃を捉えたパパラッチの不鮮明な写真が浮上したが、CNNなど多くのメディアは独立した立場から、未許可の写真を公開しない判断を下した。定評ある多くの報道機関は通常、編集上の強い理由や公益性の主張がない限り、パパラッチの写真を使用しない。
写真を巡る疑問の声はまずSNSで浮上した。キャサリン妃の高い人気を念頭に、写真は隅々まで精査された。目ざとい王室ウォッチャーはすかさず、結婚指輪や婚約指輪がないこと、肌寒い3月の気候にもかかわらず背景に青々とした緑が写っていることに疑問を呈した。
AP通信が顧客に配信撤回を伝え、「情報源が写真を加工した」と示唆したことで、議論はさらに過熱。他の国際的な報道機関も同様の指針に従って対応した。
CNNによる初期調査では、加工の可能性があるとみられる部分が少なくとも2カ所特定された。一つはシャーロット王女の袖口、もう一つはキャサリン妃のジャケットの左側のジッパーで、ジッパーは位置がずれているように見える。
CNNは加工疑惑を巡る議論を踏まえ、適切なキャプションを付けて元の写真の使用を続けている。
加工の可能性があるとみられる2カ所の一つ、シャーロット王女の袖口/Kensington Palace
もう1カ所はキャサリン妃のジャケットの左側のジッパーで、位置がずれているように見える/Kensington Palace
英紙では11日、この家族写真が大きく取り上げられた。写真の撤回に光を当てた記事もあれば、山積する王室の問題を強調する記事もあった。
デイリー・テレグラフは見出しで「王室写真に加工、通信社報道」と報道。デイリー・メールは「母の日の楽しい写真、待望の安心感を与えるはずが裏目に?」という見出しを打った。
王室関係者が自らの手でスナップ写真を撮影するのは珍しいことではない。キャサリン妃は熱心な写真家として知られ、家庭の一コマや子どもたちの節目の写真を何枚も撮影してきた。場合によっては、写真家に公式ポートレートの撮影を依頼することもある。
王室のスタッフはキャサリン妃を巡る議論の過熱を重々承知しており、ここ数週間、うわさを静めるため異例の対応を取ってきた。その一方で、王室で高い地位にあるキャサリン妃の医療上のプライバシーを保護することにも努めている。
キャサリン妃は現在、ウィンザー城の敷地内にある一家のアデレード・コテージで静養中。3月末のイースター(復活祭)までかかる長い療養期間を考えれば、ウィリアム皇太子がプロの写真家を家に入れず、自らの手で母の日の写真を撮影したのは不可解なことではない。
今回の場合、キャサリン妃の言い分は突き詰めて言えば、3人の子どもに同時にカメラの方を向いてもらうのが難しかったということになるかもしれない。
ただ、この写真はエディトリアル目的(報道や出版目的)で配布されており、メディアはそうした画像が正確であることを期待する。
CNNは現在、ケンジントン宮殿から以前に提供された写真をすべて検証している。
エディトリアル写真では、フォトジャーナリストや編集者が写真の露光や色のバランスを調整するケースが多い。現場の様子をより正確に捉えるためだ。ピクセル(画素)の移動や変更、操作については、CNNを含む大半の報道機関が許容不可能とみなしている。これをすると、写真で記録しようとしている現実そのものを変えてしまうことになる。
過去にはSNSに投稿された王室のアマチュア写真が好感をもって受け止められたこともある。ただ、今回の写真は配布資料としてメディアに提供されており、王室は加工の事実に関して透明性ある説明をしていない。
こうした対応は王室と報道機関の信頼関係を損ないかねない。CNNと同様、多くの報道機関は王室のすべての配付資料を検証する可能性が高い。加工騒ぎを経て、これまでの信頼関係は崩壊した。今回のように、何か隠していることがあるのではないかと疑う国民の関心が過熱すれば、メディアも次は臆測をより真剣に受け止めるだろう。
この状況は11日にウィンザー城で王室の高位メンバーが出席して行われるコモンウェルス・デー(英連邦記念日)の祝賀行事にも暗い影を投げかけている。
キャサリン妃が謝罪して他意のないミスだと主張したことで、SNSでの議論はある程度、落ち着くとみられる。ただ、写真の改変とその後の説明を受け入れ難いと考える人も出ててくるだろう。
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本稿はCNNのローレン・セッドムーアハウス、マックス・フォスター両記者による分析記事です。