EVがこれほど期待外れになった経緯とは
(CNN) 米電気自動車(EV)メーカー、テスラは大幅値下げを断行した。フォードも電動マッスルカー「マスタング・マッハE」の価格を引き下げ、さらにEVピックアップの生産を縮小した。ゼネラル・モーターズ(GM)はプラグインハイブリッド車(PHV)の生産再開を検討中で、純粋なEVに軸足を移すとした当初の取り組みから後退するかもしれない。
しかもここへ来て米環境保護庁は、自動車メーカーに対しEV販売増を求める要件の緩和を検討している。従来積極的に進めていた脱ガソリン車、脱SUV(スポーツ用多目的車)からの転換を示唆する動きだ。
まずはっきりさせておこう。米国のEV市場は崩壊しているわけではない。コックス・オートモーティブによると、 2023年10~12月期のEV販売は前年同期比で40%増加した。実際、米国におけるEV販売は昨年初めて100万台を突破し、過去最高を記録した。
とはいえEV市場は、現時点で大幅な期待外れに終わっている。見込みと現実との間には、深刻な隔たりがあるのが実情だ。
たとえばブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)は、電気を動力とする自動車の23年の販売台数を170万台と予測したが、最終的な売り上げは146万台にとどまった(BNEFの数字はPHVを含むが、大多数は完全な電気自動車だ)。販売台数の伸びは多くが予測していたほど跳ね上がってはおらず、業界は今後の試算を下方修正している。
業界の専門家は現状についていくつもの理由を挙げる。具体的には製品価格、充電設備の不足、税額控除に関するルールの複雑さなどだ。
高い価格
米国で現在売られている大半の電気自動車は、自動車市場の中でもより高価な部類に入る。
JDパワーの業界アナリスト、タイソン・ジョミニー氏は起亜の電動SUV「EV9」とキャデラックの同車種「リリック」に言及し、両モデルとも価格帯は5万~6万ドル(約750万~900万円)だとした。
平均的な購買者には高額過ぎるのに加え、電気自動車は車種の選択肢の幅も狭いと、BNEFの業界アナリスト、コリー・カンター氏は指摘する。大部分は比較的高価なSUVで、セダンやコンパクトカーはかなり少ない。
「マッハE」の値下げに踏み切ったフォードのファーリー最高経営責任者(CEO)は、初期の顧客の半数以上について、相当の割増金を支払ってEVを購入する気がないことが分かったと明らかにした。
同CEOは、比較的高額ではないEV生産のプラットフォームを念頭にチームを創設。将来のモデルはこのプラットフォームが基盤になる予定だという。
充電の必要性
公共の充電設備も依然として不足している。エネルギー省に属する国立再生エネルギー研究所の推計によれば、米国には30年までに電気自動車向けの急速充電器が18万2000台必要になるという。エネルギー省によると現状は4万台に満たず、そのうち4分の1はカリフォルニア州に集中している。
数が少ないことに加え、現在利用できる充電器も信頼性の点で消費者からの評価は低いことがJDパワーの調査で分かっている。
前出のジョミニー氏は、車両の価格と公共の充電設備の問題には関連性があると分析。高価な車両を購入できる人々はガレージ付きの自宅を所有している可能性が高く、一晩でマイカーを充電することができるが、高価な車両には手が出ず、持ち家もない人々にとっては公共の充電設備がより重要になる。
自動車メーカー各社はここへ来て、新たな公的基金の活用や自社の資金の投入を通じ、より多くの充電器設置に取り組んでいる。
BMW、GM、ホンダ、現代、起亜、メルセデスベンツ、ステランティスは合弁事業を設立。米国とカナダに約3万台の充電器を設置する計画だ。
またドライバーの利便性を高めるため、米国の大手自動車メーカー全社は充電器をテスラの使用する規格で統一することに合意した。今後数年の内に、米国で販売されるほぼ全てのEVは、同じ型の充電器並びに充電口を使うことになるとみられる。
控除の混乱
電気自動車購入のコストを相殺するため多くの税額控除が受けられるが、ルールは複雑だ。車両が生産された国やバッテリーなどの部品の供給国、車両の価格、購入者の世帯収入などによって制限がかかる場合もある。
税額控除の対象モデルが増える中、自動車メーカーは複雑な申請手続きを処理している。また今年から、顧客は税額控除分を確定申告まで待たずに購入時に払い戻してもらうことも可能になる。
税法の記述の仕方を理由に、カーリースの場合は連邦税額控除の制限の大半が免除される。そのため多くの自動車メーカーが、税額控除をリースのインセンティブとして提供している。
リースが急増しているのはそうした抜け穴が理由とみられるが、同時に顧客の方で電気自動車を購入したいのかどうか現状確信を持てずにいることも原因だと指摘する声が出ている。