香港でイノシシ急増 市民が餌やり、人が襲われる被害も
(CNN) 高層ビルが林立する大都市、香港。その繁華街や金融街に出没するイノシシが急増している。
金融街近くの高級住宅地に昨年移転してきたオーストラリア人のリズ・ウォルシュさんは、数週間前、野生のイノシシ3頭を目撃した。
近頃ではイノシシたちが近所の道路を散歩したり、歩道沿いのお気に入りの場所で昼寝したり、公園に出没したりする姿を頻繁に見かけるようになった。
「イノシシたちはとてもおとなしくて人なつこい」と言うウォルシュさん。それでも2人の子どもを連れている時は目を離さないようにしているという。
リズ・ウォルシュさんの「隣人」/Liz Walsh
香港ではこうした光景が日常化しつつある。香港漁農自然護理署(AFCD)によると、イノシシの目撃情報や苦情の件数は、過去5年で2倍以上に増えた。
イノシシの目撃情報や苦情の件数は、過去5年で2倍以上に増えた
イノシシは体重200キロ、体長2メートルにも達する。最近では香港の金融街や香港国際空港にも出没し、ショッピングモールを大混乱に陥れたこともある。
大都市として有名な香港だが、実は開発された土地は25%に満たず、公園や自然保護区が全土の40%を占める。住宅地でヘビやサル、ヤマアラシを見かけることも少なくない。
20世紀にはまだ野生のトラも香港に生息していたが、トラが死に絶えた今、イノシシは香港で最大の野生生物になった。
現時点で香港に生息するイノシシの数は分かっておらず、AFCDが調査を予定しているという。
母親のイノシシは攻撃的になることもあるので、専門家は近寄らないよう呼び掛けている/EJ Kim
かつては滅多に人の前に姿を見せなかったイノシシだが、最近では人に対する警戒感が薄れつつある。
AFCDによれば、2014年以来、野生のイノシシによってけがをした人は10人にとどまる。ただ、このうち半分は昨年の出来事だった。
地元メディアによると、今年1月には香港大学のキャンパス近くで野生のイノシシに2人が襲われて負傷したとして、同大が教職員や学生に注意を呼びかけた。昨年暮れには九龍の住宅団地で高齢者2人がイノシシに襲われた。
イノシシの歯は鋭く、オスには危険な牙がある。香港市立大学の専門家によると、普通は大人しい性質だが、追い詰められると人を襲うこともある。子連れのイノシシにも近付かない方が賢明だ。
イノシシがゴミ箱をひっくり返して餌をあさり、道路にゴミが散乱する被害も続出している。昨年は、巨大なイノシシが大型ゴミ容器にのしかかる映像がSNSで話題になった。
ゴミ箱のごみをあさるイノシシ/Bal Taylor
しかし専門家によると、イノシシが増えた一番の理由は、人が餌を与えていることだという。
ウォルシュさんは、自宅近くにすみついた3頭のイノシシに作業員が餌をやる姿を見たことがあると話す。
イノシシ保護団体の専門家は、香港の都市化が進んだことも一因として挙げ、1960~70年代にかけ、香港北部の新界で都市開発が進んだことから、野生のイノシシの生息地が奪われたと指摘。「イノシシなどの野生生物が締め出されている」と訴える。
対策として、天敵を放つ案も検討されたが、イノシシの天敵のライオンやトラは人を脅かす恐れもある。
イノシシを無人島に移す計画については、イノシシは泳ぎが得意なことから非現実的と判断された。
民間の狩猟チーム2団体によるイノシシ駆除も許可されたが、これは動物福祉や公衆安全上の理由から2017年に中止になった。
野生のイノシシに餌を与えないよう呼びかけるポスター/Poppy Anderson
そこでAFCDでは、迷惑なイノシシを捕獲して都市から離れた場所に移す措置を試験的に導入した。捕獲したイノシシにはマイクロチップを入れて行動を追跡し、メスには5年間有効な避妊措置を施す。避妊・去勢手術の可能性も検討されている。
香港政府は市民の啓発に力を入れるとともに、イノシシに壊されないゴミ容器の研究に着手した。
亥(い)年の春節を迎えた香港。イノシシ問題を管理不能に陥らせないことが、新年の願いになりそうだ。