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経済:経済全般
経済をはじめ、失業や税制、14兆ドル(約1100兆円)に上る連邦債務問題が、今年の米大統領選の主要な論点になると予想される。
前回2008年の大統領選の終盤には米国の銀行・金融システムが崩壊寸前の状況に陥り、雇用が急速に失われことで、オバマ大統領は任期中、
さまざまな形で、経済問題や大不況への対応に追われた。
09年以降、草の根保守派運動「ティーパーティー(茶会)」に主導される共和党支持者らは、オバマ大統領の経済財政政策を強く批判してきており、
共和党候補者は反増税と歳出削減の公約を堅持せざるを得ない状況だ。
しかし、12年末にいくつかの減税措置が期限を迎えたことで5000億ドル規模の歳出削減と増税が重なり米国が再び不況に陥ることが懸念される
「財政の崖」が間近に迫る中で、共和党とオバマ大統領は議会で次なる戦いに臨もうとしている。
オバマ大統領は、年間所得25万ドル以下の世帯を対象に「ブッシュ減税」の延長を求める一方、富裕層に対する減税措置は打ち切る方針を
繰り返し述べてきた。共和党は、いかなる減税措置であれ延長を望むのであれば、大統領選に向けて採決される多くの法案について妥協を余儀なくされる恐れもある。
CNNと世論調査機関ORCの調査によると、有権者にとって経済は依然として最も重要な問題のひとつとなっている。
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経済:税金
減税措置の失効による大増税と歳出削減が自動的に実施される「財政の崖」が年末に迫る中、国民が支払うべき税額と
政府の税収の使い道が経済論議の中心となっている。
議会で争点となっているのは、「ブッシュ減税」の失効や、中流に対する最低代替税(AMT)の制度、「暫定」と
しながら長期間存続している50項目以上の個人・企業向け減税措置だ。
オバマ大統領は、年間所得25万ドル以下の世帯を対象としたブッシュ減税を延長する意向だが、オバマ大統領の
対抗馬であるロムニー氏は、経済的成功を理由に富裕層を罰するべきでないとし、年間所得25万ドル以上の
世帯を含むすべての所得層への減税措置を延長したい考えだ。またブッシュ減税にばかり注目が集まっているが、
給与税減税が失効すれば、オバマ大統領が回避したいと述べてきた中流層に対する事実上の増税となる。
一方、減税に賛成することの多い共和党議員の多くはすでに増税しないと言明しており、秋の交渉には選択肢が少ない
状態で臨むことになるかもしれない。最近、上院で行われた採決で多くの共和党議員の減税に関する立場が明らかになっており、
今後彼らは、選挙に向け有権者の厳しい目にさらされることになる。
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経済:連邦債務・財政赤字
米議会予算局(CBO)によると、2012会計年度上半期(11年10月~12年3月)の財政赤字は約7800億ドルだった。
財政赤字の増加により、米国政府はもはや外国からの借入なしには収支のバランスを維持することが不可能になっている。
国の債務(毎年の財政赤字の累計と支払利息)が増える中、昨年は議会が連邦債務上限の引き上げに四苦八苦し、
当局も過去の借金返済のための資金の借り入れに苦心した結果、米国債の格下げを招いた。米国の国家債務はすでに
15兆ドルを突破している。
11会計年度の財政赤字は推計1兆3000億ドルで、3年連続で赤字が1兆ドルを突破した。そして今年も、
不況や「ブッシュ減税」による税収減、高水準の財政支出の継続により、4年連続で財政赤字が1兆ドルを突破する
見通しだ。しかし、たしかに今年度上半期の財政赤字は大きいが、前年同期と比べると530億ドル程度少ない。
共和党は、増税よりも歳出をカットして赤字を減らすべきだと主張しているが、民主党は歳出削減だけでは足りず、
増税や税制改革も必要としている。
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経済:雇用
景気回復は依然として有権者にとって重要な問題だが、この景気回復の中心にあるのが雇用と失業の問題だ。ここ数カ月間、
雇用の増加は鈍化しており、失業率は8.2%前後で推移している。また一部のコミュニティーでは失業率はさらに高く、アフリカ系米国人
の失業率は14.4%以上、ヒスパニック系も約11%と高水準だ。
オバマ政権誕生後、米経済は雇用削減から雇用増へとシフトし、雇用は20カ月以上連続で増加している。地方自治体や州・連邦政府
の支出が削られる中、削減されている職の大半は政府の職だ。
ロムニー氏は、民間部門での経験を生かして雇用を創出するとしており、そのためには民間部門に対する政府の干渉を減らすことが
必要と訴える。それに対しオバマ大統領は、政府・民間部門の雇用創出に向けた景気刺激策を打ち出すなど、政府は雇用創出の
ために重要な役割を果たすべきと主張する。
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医療保険制度改革
米連邦最高裁は今年6月、オバマ大統領の主導で2010年春に成立した医療保険制度改革法(通称オバマケア)
の中の個人に対し健康保険への加入を義務付けた条項について、米国憲法の通商条項の下では容認できないが、
税としてなら容認しうるとの判決を下した。
この判決を受け、民主党と共和党が再び対立している。共和党は、オバマケアの大部分の撤回を要求しているが、民主党は
共和党に改革の推進を求めている。しかし、米国民の大多数が個人への加入義務付けに反対し、さらに、改革法そのもの
に反対している人の割合がぎりぎりとはいえ半数を超えていることから、共和党は一歩も引かない。
大統領選が迫る中、依然として、オバマケアは「税」か「罰」かの議論が続いている。民主、共和両陣営が医療保険改革を
どう定義するかが大統領選の行方を左右する可能性もある。
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移民問題
この夏、11月の大統領選に向け、移民問題の重要性を高める2つの決定が下された。
1つ目は、オバマ大統領が6月、国土安全保障省に対し、不法移民の若者に永住権を与える法案「ドリーム・アクト」が議会
で可決されていれば対象となっていたはずの若者に市民権取得への道を開くよう指示したことだ。
このオバマ大統領の政治戦略は共和党下院議員らの失笑を買ったが、任期中に移民改革を十分に行ってこなかったとの批判に対する大統領の答えでもあった。
2つ目は、連邦最高裁が6月、不法移民の取り締まり強化を目的としたアリゾナ州法の大部分を無効とする判決を下したことだ。
最高裁は、各州には地元の管轄区内で連邦法を施行する権限はないと指摘。これにより、連邦政府が国境の安全確保のため
に十分な対策を講じていないと批判し、自ら移民問題に対処しようとした共和党議員や保守派議員らの試みは後退した。
しかし、議会が大統領選前に移民改革に取り掛かれる可能性は低い。
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外交政策
オバマ大統領は任期中、さまざまな外交・国際問題への対応に追われた。イラクやアフガニスタンでは軍撤退に向けた取り組みを進めた。
北アフリカや中東では民主化運動「アラブの春」によってリビアやシリアで暴動が起きたが、変化する情勢に米国の外交政策を適応させた。
イスラエルとパレスチナとの激しい対立やイランの核の脅威が続く中、行き詰まりを見せる中東和平計画を推進し、さらに経済的つながりを深めてきた
中国との緊張関係や、北朝鮮における金正日(キム・ジョンイル)総書記から金正恩(キム・ジョンウン)第1書記への権力継承にも対処した。
共和党は、オバマ大統領は中東問題の大部分において「背後から指揮」しているにすぎないと批判し、最近はシリア問題への対応のまずさを
指摘している。しかし、国際テロ組織アルカイダの顔だったオサマ・ビンラディン容疑者の殺害はオバマ大統領の大きな成果といえる。
今秋の大統領選では、2014年に予定されるアフガン撤退や中国との関係が外交政策の主な争点となるだろう。
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教育
米国では若者の学力停滞が続いているが、オバマ政権はブッシュ前政権下で成立した「落ちこぼれゼロ」法に批判的な姿勢を見せている。
この法律は、2014年までにすべての生徒が適正レベルの読解力と計算力を習得することなどを柱としている。
学生ローンの残高がクレジットカード債務の残高を上回ったことをなど受け、議会は、低利の学生ローンのための助成制度について延長を決めた。
しかし、高等教育の学費は依然として大統領選の重要な争点となりそうだ。
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人工妊娠中絶
2009年に米議会で行われた民主党の医療保険制度改革法(通称オバマケア)をめぐる論戦では、土壇場で、
人工妊娠中絶を支援する団体などへの連邦政府の資金提供規制の強化を求める声が上がり、人工妊娠中絶がとりわけ
社会保守主義層の間で大きな争点であることが明らかになった。
保健社会福祉省は2012年1月、オバマケアに基づき、カトリック系の大学や慈善団体に避妊サービスの提供を義務付けた。
これに対し教会からは、憲法で定められた宗教と国家の分離に反するとして猛反発が起きた。
避妊や妊娠中絶診療を実施している非営利団体「米家族計画連盟(PPFA)」への資金提供の中止を求める右派からの声も根強い。
ミシシッピ州は最近、同州唯一の妊娠中絶医療機関を事実上閉鎖に追い込む法律を制定した。社会保守主義層はこれらの決断を
支持しているが、進歩主義層はこれらの動きを「女性に対する戦争」の一環だと批判した。
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同性婚
同性婚の問題は、かつては共和党にとって選挙戦を有利に進めるための「得意分野」であった。
しかし最近、世論は同性婚に対してより寛容になりつつあり、この問題が今年の大統領選にどう影響するのか
読みづらい状況になっている。
オバマ大統領は2011年1月、兵士に同性愛者か否かを尋ねたり、兵士が同性愛者であることを公言したりする
ことを禁じた「聞くな、言うな」政策の撤廃を発表した。さらにオバマ大統領は12年5月、同性婚に対するそれまで
のスタンスを修正し、同性婚支持を表明した。オバマ氏はこの支持表明を自分の信条の「進化」としている。
保守層は引き続き同性婚問題を憂慮しているが、ノースカロライナ州で同性婚を禁じる州憲法修正案が可決された
ことは彼らにとって追い風になった。
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社会保障・メディケア
民主党は、社会保障や高齢者向け医療制度(メディケア)などの給付金制度の維持について、支持基盤との関係から重要なテーマと考えている。
一方、共和党や保守層、草の根保守運動 「ティーパーティー(茶会)」は、連邦予算の大部分を占めるこれらの社会保障給付は削減の対象となりうる分野と見ている。
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銃規制
今年7月にコロラド州の映画館で発生した銃乱射事件や2011年1月にアリゾナ州で発生したガブリエル・ギフォーズ
下院議員銃撃事件などをきっかけに銃規制問題が全米で再び議論されるようになった。
民主党は銃規制を支持する傾向にあるのに対し、全米ライフル協会(NRA)をはじめとする保守層は追加規制に反対している。
しかし民主党と共和党のどちらの候補者も銃や銃規制の問題にはあまり積極的ではない。
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環境問題・地球温暖化
民主党は、連邦議会の上下両院で多数を占めていた時も、二酸化炭素の排出制限に向けたキャップ・アンド・トレード法案を可決できなかった。
一方、多くの共和党議員は、地球温暖化の科学的知識により懐疑的であるほか、積極的なエネルギー政策の経済的影響を懸念している。
一方、不透明な経済状況下でのエネルギー価格の高騰を懸念する有権者も、エネルギー問題には強い関心を持っている。
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テロリズム
オバマ政権は、国際テロ組織アルカイダのオサマ・ビンラディン容疑者をオバマ大統領の監督下で追い詰め、
殺害した。またパキスタンでは、テロリストに対する無人機攻撃を強化してきた。今や、議論の中心は経済であり、
オバマ氏とロムニー氏のどちらの大統領候補も外交政策には重点を置いていないようだ。
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政府の役割
税制をはじめ、政府支出や企業救済、債務上限、給付金制度のいずれのテーマにおいても、民主、
共和両党の根本的な論点は、連邦政府は国家の支援組織であるべきか、あるいは経済活動や社会生活、
日常生活において極めて限定的な役割のみを果たすべきか、という点だ。
草の根保守運動 「ティーパーティー(茶会)」の支持を得ている共和党の一部議員は、政府規模の縮小を
スローガンとして掲げてきた。一方、進歩主義の民主党議員は、政府規模の縮小は、国民にセーフティーネット
を提供するという連邦政府の責任の放棄だと批判している。