(CNN) ウクライナでの戦争に突入した1年前、一般的な通念では戦車はもはや時代遅れということになっていた。ドローン(無人機)や自動追尾機能のあるミサイルには太刀打ちできないというのがその理由だ。
デービッド・A・アンデルマン氏
この考えは明らかに間違っている。かなり明確になりつつあることだが、ウクライナのような戦場において、装甲車両による優越性は形勢を逆転させ得る。それも劇的に。
数週間にわたる緊迫した熟慮を経て、ドイツは25日、主力戦車「レオパルト2」をウクライナに供与すると発表した。米国もまた、自前の主力戦車「M1エイブラムス」を供与するとしている。他の欧州諸国も後に続く構えだ。
しかし西側は、これら最新世代の戦車の配備を急ぐ必要がある。この瞬間にも、時計の針は音を立てて進んでいく。
「今ロシアがやろうとしているのは部隊の再編だ」。アンドリー・ザゴロドニュク元ウクライナ国防相は、首都キーウ(キエフ)からの電話インタビューで筆者にそう語った。ドイツによる戦車の提供が表明されてすぐのことだ。
「彼らは時間を使い、改めて動員をかけようとしている」。こう付け加えた同氏は2019年から20年にかけて国防相を務め、現在は安全保障関連のシンクタンク、国防戦略センターの共同創設者に名を連ねる。
ザゴロドニュク氏はロシアについて、「より大きなグループを作ろうとするだろう。軍隊の規模を拡大して、再び挑んでくる。春季に新たな攻勢をかけるというのが我々の予想だ」と述べた。
言い換えれば、今がウクライナにとっての軍備増強のタイミングに他ならない。そしてザゴロドニュク氏と西側の国防専門家が考えるように、戦車こそがウクライナでの次なる戦闘にとって文句なしに最適の兵器となるだろう。
春季攻勢への危惧
世界はその光景を驚嘆しつつ眺めていた。相手の不幸を喜ぶ気持ちも多分に含みつつ。昨年2月、開戦から数日でキーウを落とすべく仕掛けたロシアによる電撃戦が、ものの見事に崩壊した際のことだ。
あの当時、約64キロにわたって続く装甲車両の列を捉えた衛星画像を見れば、ウクライナの首都に対する総力を挙げた攻撃が今にも始まるように思われた。ところがそれから後には、ほとんど動きが止まってしまった。
なぜか? 第一には単純にガソリンがなくなった。米国の複数の国防当局者によれば、重大な欠陥を抱えた供給システムのおかげで、燃料と食料の尽きた隊列は身動きが取れなくなった。
次に泥土の問題があった。ロシアの戦車は、冬から春にかけて雪解けのために起きる土壌のぬかるみにはまった。中には砲塔まで泥に沈んだ戦車もあった。
そうした戦車は戦うこともできず、ウクライナ軍に狙い撃ちにされた。侵攻の過程でロシア軍が失った戦車の数は1400両を超える。
あれから1年近くが経過した現在、ロシア軍は教訓を得たと思われる。「彼らにとって、冬の後半や春の初めに攻撃を開始するのは得策ではないだろう」「春の終わりまで待つはずだ。その時期なら土壌の水気は格段に抜けている」と、ザゴロドニュク氏は指摘する。
技術的な進歩
それでも、最適なタイプの戦車が持つ価値を考慮に入れないわけにはいかない。こうした戦車の投入には、戦争の潮目を変える意図がある。現時点で戦争は長い膠着(こうちゃく)状態に陥る恐れが出ている。
西側は現状を好機ととらえ、自国の最新鋭の主力戦車を実際の戦争という状況下でテストしたい考えだ。対する敵側は、長い間そうしたシナリオへの準備を全く整えていなかった。
筆者が初めてソ連の戦車の操縦手に出会ったのはモスクワで、1980年代に遡(さかのぼ)る。当時の北大西洋条約機構(NATO)は依然として、明らかにわずかなものだったとはいえ、ソ連の侵攻の可能性に備えていた。想定されたのはソ連軍の装甲車両が大挙してフルダ・ギャップ(ドイツ中央部の地形)を抜け、西欧に向かって押し寄せるパターンだ。
この操縦手は、そうした予測を一笑に付した。彼によると、ソ連の戦車操縦手には大型のハンマーが支給される。頻発するギアの不具合が起きた際には、それでトランスミッションをたたいて対処するのだという。
また戦車内には冷暖房がないため、搭乗員は冬の寒さに凍え、夏は暑さに息が詰まる状態を余儀なくされる。とりわけ砲塔を閉じる時にはそうだった。