世界に誇る日本の漫画家、井上雄彦氏インタビュー
物語は登場人物が自ら作り上げてくれるのが理想だという。「登場人物が生きていれば、その人物たちがストーリーを作っていく」と井上氏。それぞれの登場人物を特定の状況に置いたり、出会わせたりすれば、お互いの反応によって自然とストーリーが出来上がると話す。
ペンと筆を使う次の段階の作業はさらに面白さが増す。日本でも筆を使う漫画家は珍しい存在だが、「筆の場合はもっと自由がきく。偶然性とか、コントロールを超えたところに筆が行ったり、かすれたりとか、そういう面白さがある」という。
特に表情の描写には念を入れる。「いろんな表情を描いている時に、自分自身の表情も、描いているキャラクターと同じ表情になっているはず」。自分では気付かなかったが、人に言われてそのことに気付いたという。顏の形や目には昔から決まった描き方がある一方で、「髪の毛は決まった形がないので、これが一番楽しい」と笑顔になった。
登場人物の行動や会話にも現実性を追求する。「(漫画家は)画家と違って、ストーリーがないといけないし、意味がないといけないし、エンターテインメントがないといけない」。そんな井上氏が作り出す世界は、「おとぎ話とかファンタジーの世界というよりは、もっと人間そのものに近い。架空の人間でありながら、ドキュメンタリーを撮っているように作るのが僕の漫画だと思う」と語った。