「人は善意に満ちている」 世界的人気シェフ、アンソニー・ボーデインが特別寄稿
(CNN) 私が世界へと旅に出る前、12年前になるが、私は人類というものは野獣より少し知能が発達したもの、くらいに考えていた。
環境に多少の違いはあるものの、私たちは、遅かれ早かれ、お互いを傷つけ合うものだと思っていた。人間の本質は、自己中心的で、卑怯(ひきょう)で、嫉妬深く、集団になると凶暴になりえると感じていた。しかし、私は旅先の多くの場所で、多くの食事を、多くの人々と共にし、このような結論に達した。確かに悪意のある人はどこにでもいるが、人間というのは、本質的には善意に満ちているということだ。
事実、世界は誠実で親切で、ただ最善を尽くそうとする人々で満ちあふれている。私が旅先で会った人々全員が、自身の食文化に誇りを持っている(食べ物が確保されている場合、であるが)。そして、それを他人と分かち合うことを歓迎している(十分にある場合、であるが)。彼らは子どもたちを愛している。ジョークを楽しんでいる。同じ食卓を囲むことで、ニュースを追っている人が普段見ることの出来ない、特別な視点を持つことができたと思う。
おっちょこちょいで、食事と遊びだけに興味を示す米国人の私に、人々は心を開いてくれる。警戒心を解いて、彼ら自身の話をし、時に自然体そのままをさらけ出してくれる。
私はジャーナリストや外国特派員ではない。良く言っても、エッセイストか愛好家だろう。ただの素人だ。私に出来ることは、人々が食卓で、家で、職場で、遊び場で、どんな風なのかを視聴者に見せることだ。そうしたら、今後、あなたがその場所に関するニュースを聞いた時、そこに住んでいるのはどんな人々なのか、もう少し良く分かると思う。
「アンソニー・ボーデイン世界紀行」は、食べ物を通して、食文化や習慣、旅を知る番組だ。一緒に学んでほしい。良く知られた場所に行くこともあるが、その場合は、あまり知られていない視点で見ていきたいと思う。
人々はデータだけでは計れないし、理論では片付けられない。
善意の人が不幸に巻き込まれることは、そこかしこである。そういったことが起きたとき、その場所やそこに住む人々に関して、より深く知っていた方がいい。
私はなにも、食卓を囲んで食事を共にすることが世界平和への解決策だとは思わない。むしろ難しいだろう。
だが、悪いことではないはずだ。
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寄稿者であるアンソニー・ボーデインは世界的人気を誇るシェフで、ベストセラー作家。同氏がホストを務める番組「アンソニー・ボーデイン世界紀行(Parts Unknown)」は今年度のエミー賞で2部門を受賞した。同番組は、CNNjで毎週金曜午後11時、日曜午前10時に放送中。シーズン2では、コペンハーゲン、シチリア、南アフリカの他、東京(10月25日放送)も訪れる