トム・クルーズのAI音声使う偽動画も、パリ五輪狙うロシアがプロパガンダ強化か
(CNN) パリオリンピックの開幕を7月に控え、オリンピックに対する中傷や、欧米のウクライナ支援弱体化を狙ったと思われる動画などが相次いで浮上している。米当局者や民間の専門家は、親ロシア派がプロパガンダを強めているとの見方を示した。
ネット上では人工知能(AI)を使って米俳優のトム・クルーズになりすました音声を流し、国際オリンピック委員会(IOC)を攻撃する偽ドキュメンタリーが出回っていた。パリのエッフェル塔付近では、ウクライナ戦争に言及した碑文が刻まれた棺(ひつぎ)が置かれているのが見つかった。
ロシアの偽情報に詳しい専門家はこうした活動について、ロシア工作員がオリンピックを汚し、欧米製の武器を使ったロシア攻撃に対する機運の高まりを失速させようと躍起になっていると見る。IOCはロシアのウクライナに対する戦争を理由に、ロシア人選手のパリオリンピック参加を制限している。
米マイクロソフトが2日に公表したリポートによると、ロシア工作員はクルーズの偽音声やネットフリックスのロゴ、米紙ニューヨーク・タイムズの評論まで使用して、偽ドキュメンタリーをもっともらしく見せかけようとしていた。このプロパガンダ動画は昨年、SNSのテレグラムに掲載されたもので、パリオリンピックに対する中傷を狙ったロシアの集中的なプロパガンダの始まりだったとマイクロソフトは分析する。
さらに、パリ市民がオリンピック関連のテロを恐れて損害保険に加入しているという偽ニュースや、米中央情報局(CIA)とフランス情報機関がテロ警戒を呼びかけたというでっち上げのプレスリリースなども出回っているという。
1日にはパリのエッフェル塔近くで、フランス国旗がかけられて「ウクライナのフランス人兵士」の碑文が入った5個の棺をフランス警察が発見した。フランス国防当局者はCNNに対し、ロシアが関与した疑いがあると話している。警察は男性3人から事情を聴いている。
フランスのマクロン大統領はフランス軍をウクライナに派遣する可能性を排除しない姿勢を示し、ロシア政府が強く反発している。
親ロシア派のSNSアカウントではここ数日の間に、ウクライナがロシアで米国製の兵器を使用する可能性について米国務省のミラー報道官がコメントする加工動画が共有された。ミラー氏が記者会見する別々の動画2本を合成したものと思われ、ミラー氏のネクタイが異なっていた。
この動画を制作した人物は分かっておらず、米当局者も民間の専門家も、動画の出所は明らかにしていない。
米国務省はCNNに寄せた声明の中で、「この動画は明らかにフェイクだが、偽情報対策研究者が以前から警告していたこと、すなわちAI操作のメディアを使った外国の偽情報作戦強化へ向けた一歩」と位置付けた。
英BBCによると、問題の動画は在ロシア南アフリカ大使館がX(旧ツイッター)で共有した。
カリフォルニア大学バークレー校のヘイニー・ファリド教授はこの動画について、AIを使って操作された痕跡があると指摘する。
ディープフェイク検出システムを使って動画を解析した結果、音声はAIを使って合成され、ミラー報道官の唇の動きはリップシンク(口パク)AIソフトウェアを使って改ざんされていたことが分かったという。
一方、情報作戦に詳しい別の専門家のリー・フォスター氏は「分析の観点からみると、AIを使って口の動きを操作し、基本的に本物と同じにするというのは筋が通らない」と話している。