テレグラム創設者の拘束、言論の自由とネット上の犯罪めぐる論議噴出
パリ(CNN) コンテンツの監視が緩いことで知られるメッセージングアプリ「テレグラム」を創設したロシア生まれの富豪、パベル・ドゥロフ氏が拘束されたことを受け、言論の自由やインターネット上の違法コンテンツを巡る論議が巻き起こっている。
ドゥロフ氏は24日、パリのルブルジェ空港で身柄を拘束された。逮捕状はテレグラムの投稿監視の不備に関連する内容だった。CNN提携局BFMTVが逮捕前に報じたところによると、ドゥロフ氏はプライベートジェットでアゼルバイジャンからパリに向かっていたという。
パリ検察は26日、ドゥロフ氏は7月8日に始まった捜査の一環で拘束されたと明らかにした。捜査容疑は多岐にわたっており、テレグラムがマネーロンダリング(資金洗浄)や麻薬密売人、児童ポルノの流布者のほう助に関与した疑いなども含まれる。検察また、違法な可能性のある通信の傍受で支援を求めたフランス当局の要求にドゥロフ氏が従わなかったとして、勾留期間を少なくとも28日までに延長した。
フランスのマクロン大統領はX(旧ツイッター)でドゥロフ氏の逮捕について、「進行中の司法捜査」に絡むものであり、「決して政治的な決定ではない」と説明した。
マクロン氏は「SNSでも現実生活でも法の支配が徹底した国家においては、自由は法で定められた枠組みの中で行使される。こうした枠組みが存在するのは、市民を守り、基本的人権を尊重するためだ」と言及。「フランスは表現や通信の自由、技術革新、起業家精神を重視する。今後もそうであり続ける」としている。
約9億人のユーザーを持つテレグラムは多くの国で不可欠な通信ツールとなっており、日常のやり取りから政府のメッセージの普及まであらゆる用途に使われる。
在仏ロシア大使館は25日、ドゥロフ氏の拘束を確認し、同氏の弁護士と連絡を取っていることを明らかにした。
ドゥロフ氏の拘束は、IT企業のトップが自社プラットフォーム上のコンテンツに責任を負うべきかという問題を提起した。この点について、テレグラムは25日に発表したドゥロフ氏を擁護する声明で「ばかげている」と指摘した。
コンサルタント企業BDAの会長でITの専門家でもあるダンカン・クラーク氏は「テレグラムのような暗号アプリを言論の自由と捉える人もいれば、ダークウェブへの入り口とみなす人もいる」と説明する。
テレグラムは高度な暗号化技術や投稿内容の監視が限定的なことで知られる。このため偽情報や陰謀論、ヘイト(憎悪)などの有害コンテンツの温床になりやすい。
検閲に断固反対するその姿勢から、テレグラムはロシアやイラン、インドなど表現の自由が制限されている国で特に存在感が大きい。白人至上主義者や過激派組織イラク・シリア・イスラム国(ISIS)を含むテロ組織も好んで使用している。
テレグラムはウクライナでも非常に人気が高く、戦争や空襲警報に関する情報を共有するうえで不可欠なツールとなっている。
厳しさを増す視線
テレグラムは25日の声明で、ドゥロフ氏には「何一つ隠すことはない」と述べ、「プラットフォームやその所有者がプラットフォームの悪用に責任を負うとの主張はばかげている」と指摘した。
Xに投稿した声明で「テレグラムはデジタルサービス法を含む欧州連合(EU)の法律を順守している。テレグラムの投稿監視は業界基準を満たしており、常に改善している」とも述べた。
クラーク氏は今回の拘束について、フランスがテレグラムのようなプラットフォームでの投稿監視の不備の取り締まりに乗り出したことを示す兆候だと指摘する。
EUの規制当局はIT大手に対する監視を強化しており、こうした企業を抑制する目的で多くの新法を援用している。
EUは今年、外国の偽情報工作や選挙介入への懸念から、米メタの調査を開始。偽情報対策、特にロシアの工作への対策に特化した特別機関を立ち上げた。
ドゥロフ氏の拘束を受け、イーロン・マスク氏やロバート・ケネディ・ジュニア氏を含む著名な反検閲論者からはすぐに批判の声が上がった。
「ロシアのマーク・ザッカーバーグ」と呼ばれることが多いドゥロフ氏は2013年、兄弟のニコライ氏と共にテレグラムを立ち上げた。米ブルームバーグ通信の長者番付によると、純資産は91億5000万ドル(約1兆3000億円)に上る。
ロシア生まれだが、ウクライナのSNS「フコンタクテ」のユーザーデータ提出を求めるロシア政府の要求に従うことを拒否し、14年に国を離れた。現在はアラブ首長国連邦(UAE)ドバイに住んでいる。