暗闇の中で本と向き合う、台湾の「無関実験書店」
(CNN) 就寝時間が過ぎた後でも本を読めるよう、布団の中にこっそり懐中電灯を持ち込んだ時のことを覚えているだろうか。台湾にはこれと同様の体験を味わえるとうたう本屋がある。
この本屋「無関実験書店」は台湾南部の高雄市内、倉庫から創造活動の拠点に生まれ変わった「駁二芸術特区」に位置する。単なる本屋ではなく美術展としての性格も兼ね備えている。
来店客は真っ暗闇の中を進む。店内に灯(とも)るのは本のカバーに当たった弱い照明の光と、机の上に置かれた読書灯だけだ。
ユニークな本屋は、受賞歴のある建築家で空間デザイナーでもある朱志康が創設した。
朱氏は中国の成都市でも本屋の設計を手掛け、地元メディアから中国で最も美しい書店との評価を受けている。
懐中電灯の持ち込みは禁止
漆黒の空間と薄明かりに照らされた本が相まって、何もない暗闇に本が「浮かんで」いるかのような錯覚が生み出される。店内には400の書棚があり、各棚に1冊ずつ「浮かぶ」本が展示されるという趣向だ。
店長のスー・ユーシャンさんはCNNの取材に、「狙いは人々が本に集中できるようにすること。周囲が見えない環境では、他の感覚が研ぎ澄まされる」と語る。
2階建ての同書店は照明がないことで知られる/courtesy Lee Kuo-min
ただ、スマートフォンを使って足元を照らすのは御法度だ。店内では懐中電灯やフラッシュの使用が禁じられている。
店のルールはそれだけではない。入り口の紙には遊び心あふれるルールの一覧が印刷され、中には「誰かに足を踏まれても叫んではだめ。相手の足を踏み返そう」「自分と同じ本を欲しがっている人がいたら、本を買ってその人の電話番号をゲットしよう」という文言もある。
「ハリー・ポッター」のファンなら「店内が暗すぎると思った場合、木の枝を手に『ルーモス(光よ)』と叫ぼう」というルールに見覚えがあるだろう。
「インスタ映え」を狙う場所にあらず
しかし究極的には、無関書店は単なる店舗の域をはるかに超えた意味を持つ。本の購入にはもっと高尚な目的があるというのが店のスタッフの考えで、店の標語は「無関書店――魂の読解について」となっている。
スーさんは「この環境なら自由に自分と向き合い、真の自己である魂と対話することができる」と語る。
こうした理由から、無関書店の入り口には伝統的な中国の葬儀場を思わせる装飾が施されている。
無関書店は倉庫から創造活動の拠点に生まれ変わった「駁二芸術特区」に位置する/courtesy Lee Kuo-min
「無関を訪れるのは自分自身と時を過ごし、自分に共鳴する本を見つけるため。インスタ映えする写真を撮るためではない」(スーさん)
無関書店は最も多くの本を陳列することにはこだわらず、むしろ体験をつくり出すことに主眼を置いている。「ふつうの書店のように大量の本が置いてあるわけではないが、お客さんは他店よりも長く滞在して、本と向き合っている」
今のところ、入店が可能なのは18歳を超える顧客のみ。年齢制限の理由は敏感なテーマを扱った本や、若い読者には必ずしも適さない商品(性的なおもちゃなど)が売られているためだ。
さながら「お化け屋敷」
無関書店では本に加え、インテリア用品や性的な玩具、コーヒーなどの売り場も小規模ながら設置されている。
小さな読書灯が設置され、ちょうど本を読める程度の光がともされている/courtesy Lee Kuo-min
「当初はお客さんがつまずいたり、眠ったり、万引きしたりする事態も想定していたが、そういった行為はほぼ起きていない」とスーさん。「ただ、暗闇が怖いので入りにくいというお客さんも多い。お化け屋敷のように思われている」と語る。