英ロンドンの旧陸軍省ビル、ラッフルズ・ホテルとして開業へ
深く刻まれた歴史
建物内に残るエドワード朝時代の装飾の中でもひときわ目を引くのが、旧陸軍省のロゴをあしらった赤絨毯(じゅうたん)が敷かれた大理石造りの大階段だ。巨大な特注シャンデリアが真上につり下げられ、壁にはフランス製の金時計が飾られている。
オリジナルの石畳は修復後、ホテルとレジデンス(85室)を隔てる中庭に戻された。
一方、かつては諜報(ちょうほう)員が出入りするのに使用されたエントランスは、ラッフルズが手掛ける高級レジデンスの居住者用のメイン玄関となった。2ベッドルーム・レジデンスの価格は約1148万ドル(約17億円)から。
「1906年から続く建物に新たな命を吹き込むことになる」とルブフ氏は話す。
同ホテルは、軍のボタンが付いたカーテンなど、建物の歴史を彷彿(ほうふつ)させる装飾が随所に施されているが、テレビ付きバスルームを備えた客室など、現代的な要素も取り入れられた。
5室あるヘリテージ・スイートは、かつて陸軍本部の執務室であった2ベッドルームの「チャーチル・スイート」と、ポーランド出身の諜報員クリスティーン・グランビルにちなんで名付けられた1ベッドルームの「グランビル・スイート」から成る。
ラッフルズは非の打ちどころのないサービスで知られており、ラッフルズ・ロンドンのチームは、スイートルームに24時間対応のバトラー(執事)サービスを提供するなど、長年にわたるブランドの評判に恥じないよう全力を尽くしているという。
ルブフ氏は「建物が美しいことも重要だが、それに見合ったサービスも必要だ」と説明する。
好立地
建物自体には三つのバーと九つのレストランがあり、そのうちアルゼンチン出身のシェフ、マウロ・コラグレコ氏のシグネチャーレストランを含む五つのレストランはホテル内にある。
今年後半には、日本人シェフの遠藤和年氏が手掛ける屋上レストランと日本酒バーが敷地内にオープン予定だ。
今年は「ザ・ペニンシュラロンドン」や「マンダリンオリエンタル・メイフェア」などの高級ホテルもロンドンに開業するが、ルブフ氏はラッフルズ・ロンドンが立地と建物の歴史において他とは一線を画していると感じているという。
トラファルガー広場から国会議事堂まで続くホワイトホールは、高級ホテルというよりも政府省庁の建物で知られているが、2011年にホワイトホール・プレイスに五つ星の「コリンシアホテル・ロンドン」がオープンしたことで、この面でも変化が起きている。
「10年前、ここは典型的な政府の建物が建ち並ぶエリアで少し閑散としていた。だが今はとても良い方向に発展していると思う」とルブフ氏。25年にはロンドン初進出となる高級ホテル「ウォルドーフ・アストリア」がトラファルガー広場近くに開業予定だと指摘した。
ラッフルズ・ロンドンの立地に関し、ルブフ氏はこう述べている。「バッキンガム宮殿の正式な入口であるホースガーズ・パレードの向かいにある。これ以上の好立地は他にない」「ただのホテルではない。イアン・フレミングが働き、ジェームズ・ボンドの着想を得た場所に泊まれるのは、他にどこがあるだろうか?」