XB70「バルキリー」、コンコルドよりも速かった超音速機
公募で「バルキリー」の愛称を与えられたXB70の1号機は64年5月11日、カリフォルニア州パームデールでロールアウトした。30メートルを超える翼幅、機体後部に搭載されたゼネラル・エレクトリック(GE)製のターボジェットエンジン6基、全長約56メートルの機体。どれを取っても、史上まれに見る印象的な航空機だった。
中でも特徴的だったのが翼端で、亜音速では水平状態に保たれていたものの、超音速飛行時には空気抵抗を減らすため折り曲げられた。三角形のデルタ翼や細長い胴体はコンコルドや、ソ連版コンコルド「ツポレフTu144」にも取り入れられた。Tu144はXBと同様、コックピットのすぐ後ろに2枚のカナード(小翼)も搭載し、低速時のパイロットの機体制御能力が向上した。
「1960年代を通じて、軍と民間セクターは超音速輸送機の開発に膨大なリソースを投じた」とランディス氏は指摘する。「当初は、ほぼすべての航空会社がXB70を基に初期設計を行った」
情報が増えるにつれ、こうした設計はコンコルドのように洗練度の高いデザインに変貌(へんぼう)を遂げた。ロッキードやボーイングが構想したコンコルドのライバル機のように、紙上の計画に終わったプロジェクトもある。
偽の窓
バルキリーを爆撃機として使用できないことが明確になると、設計チームは別の用途を考案した。「ノースアメリカンの技術者は創意工夫を凝らし、XB70の様々な用途を考えた」「しかし、真剣に検討されたバージョンはただ一つ、軍民両用の輸送機だけだった」
乗客158人を収容可能な密度の高い輸送機から、座席数を114隻に抑え客室中央部にラウンジエリアを設ける「デラックス」な配置まで、三つのバージョンが提案された。
「初代XB70が検査と改修のためパームデールに戻ったのを機に、ノースアメリカンは輸送機バージョンの宣伝を支援するため、機体の片側に偽の窓の模様を付け加えた。窓の模様は同機が飛行試験に戻る前に除去された」(ランディス氏)
こうした航空機の乗り心地がどのようなものになったのか、今となっては想像が難しい。ただランディス氏によると、コンコルドと共通点が多かったとみられる。「滑らかで静かな乗り心地で、シートの間にはたっぷりとしたスペースがあった。機体の運航費用や限られた座席数を考えると、中上流階級や富裕層しか手が出せない価格になった可能性が高い」
最も重要だったのはそのスピードで、実現していればロンドンとニューヨークをわずか2時間半で結んだとみられる。これに対し、コンコルドは通常3時間半かかった。