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トランプ氏にとっての「現実離れした」1日、ただ国の分断を広げるのみか

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米ニューヨーク州マンハッタン地区刑事裁判所に入廷するトランプ前大統領/Ed Jones/AFP/Getty Images

米ニューヨーク州マンハッタン地区刑事裁判所に入廷するトランプ前大統領/Ed Jones/AFP/Getty Images

(CNN) 米国の大統領経験者が史上初となる刑事訴追の罪状認否に臨んだ4日。重要なその日を前に、二つの大きな懸念事項が存在していた。

一つ目は、ニューヨーク州マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事の法理論にまつわる懸念だ。同検事の担当する今回の訴訟を巡っては、確固たる証拠を示す形でトランプ氏が犯したとされる違法行為を扱うとみられた一方、検事本人の掲げる法理論があまりにも曖昧(あいまい)かつ複雑なものと判明する恐れもあった。また7年前の選挙戦の話を蒸し返しているとの印象が強く、世論にすんなりと受け入れられない状況も危惧された。

もう一つはトランプ氏の反応だ。起訴への激しい怒りから人々を扇動し、国家の分断を一段と深める恐れがあった。その分断は自身の常軌を逸した大統領任期中に生まれたものに他ならない。そこへ新たな混乱を引き起こし、極めて重要な政治と司法の体制を一段と傷つけるのではないかとみられていた。

そうした世界最悪のシナリオが共に現実のものとなった1日をトランプ氏は「現実離れした」日と形容し、出廷前にソーシャルメディアへ投稿した。

法廷でのトランプ氏は終始静かだった。無罪を主張する以外ほとんど言葉を発せず、公判後の記者団の取材にも応じなかった。

しかし、フロリダ州にある自宅「マール・ア・ラーゴ」に戻ってからの演説では感情が爆発。「我々の国は地獄に向かっている」と宣言し、陰謀論を長々と述べ立てた他、検察にも怒りの矛先を向けた。対象は拡大し、マンハッタン地区検察が担当する捜査以外にも、より深刻なものとなる可能性のある複数の捜査に携わる検事たちをやり玉に挙げた。

トランプ氏を巡っては、2020年大統領選でジョージア州での選挙結果を覆そうとした行動や機密文書の保管に関する問題、21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件を前にしての振る舞いについて、それぞれ個別の捜査が行われている。複数の捜査が完了へと近づくように見える中、トランプ氏は間もなく、さらに多くの起訴に直面する可能性がある。4日の初出廷は、そうした不吉な過程の始まりと見なされることになるのかもしれない。

ブラッグ氏は重要な疑問に答えず

ブラッグ検事の裁判の基礎にあるシンプルにして極めて重要な前提は、何人も法律を超えた存在になるべきではないというもので、それは再選を目指す前大統領であっても同様だ。しかし同検事に批判的な人々は、別の全く異なる原則が働いているのではないかと懸念している。有名で裕福、影響力もある人物だから起訴されるという原則だ。

起訴書面によると、トランプ氏と当時同氏の弁護士だったマイケル・コーエン氏は出版社のアメリカン・メディア・インク(AMI)と協力し、トランプ氏との不倫関係を主張するポルノ女優のストーミー・ダニエルズさん、元プレイボーイモデルのカレン・マクドゥーガルさん、そしてトランプタワーのドアマンに口止め料を支払った。口止め料の支払いは違法ではないが、民主党員でもある検事のブラッグ氏は、トランプ氏が支払いを隠蔽(いんぺい)するためビジネス記録を改竄(かいざん)したと主張する。通常、そのような違反は軽犯罪にしかならない。それでもブラッグ氏は、記録の改竄が16年大統領選に絡む犯罪行為の証拠隠しを目的としていた場合、重罪で起訴できると示唆している。

裁判所の文書やコーエン氏が絡んだ以前の裁判で詳述されたトランプ氏の行動は、確かに下劣なものだった。しかし専門家の一部が指摘するところによれば、ブラッグ氏の裁判計画が道を開く形で、トランプ氏の弁護団が公判前に力強い申し立てを行う可能性があるという。

米連邦捜査局(FBI)の元副長官、アンドルー・マッケイブ氏は、4日夜にCNNの取材に答え、仲間のベテラン捜査官の間に「失望感」が漂っていると明かした。ブラッグ氏の起訴状と陳述書に、トランプ氏を重罪で起訴するという跳躍に必要とされる具体性が欠けていたことがその理由だという。

「結局のところ、法曹界の友人全員が起訴状を読み、それで重罪への道筋が見いだせないとすれば、陪審員団を重罪で納得させられると思うのは無理がある」(マッケイブ氏)

それでもブラッグ氏は、トランプ氏を起訴しないという判断について、米国の司法におけるあらゆる中心的原理に反すると主張。トランプ氏出廷後の記者会見で、「重大な犯罪行為を正常なものとみなすことはできないし、そうするつもりもない」と強調した。その上で、そうした裁判は珍しいわけではなく、自身の事務所の通常業務だと述べた。

弁護士でさえブラッグ氏の裁判の論拠をたどるのが難しいのであれば、それ以外のあらゆる人々にとってはますます至難の業となるだろう。ビジネス記録を改竄し、あったとされる不倫を隠蔽するのは本当に起訴に相当する行為なのか、多くの人が疑問を呈するかもしれない。疑惑としての不倫は16年選挙より何年も前に遡(さかのぼ)り、今となっては遠い昔に感じられる。それを隠すためのビジネス記録改竄は、果たして米国史上初めて大統領経験者を起訴するという政治的に極めてデリケートな措置を正当化するものなのか(トランプ氏本人は不倫を否定している)。

ブラッグ氏の起訴が自身に跳ね返り、結果としてトランプ氏を政治的に利するかもしれないという感覚は、トランプ氏を支持しない共和党関係者の間にも広がっている。例えば元大統領補佐官(国家安全保障担当)のジョン・ボルトン氏や、ユタ州選出のミット・ロムニー上院議員らがこれに該当する。

ブラッグ氏と判事をやり玉に挙げるトランプ氏

その立場に置かれたどんな米国人とも同様に、トランプ氏には有罪が証明されるまで推定無罪の原則が適用されるはずだ。一方、他の多くの被告と異なり、トランプ氏はあらゆる法律上の資源を駆使して訴訟の取り下げに向けた行動を起こせる。そうした動きは、予定された公判の前に開始することができる。

だが、彼はそこまで待たない。

自宅のマール・ア・ラーゴで英雄として迎えられたトランプ氏は早速長い演説を行い、虚偽を交えながら自身に対する捜査やバイデン氏の大統領の地位、自身の大統領任期中のことについて語った。20年の大統領選の結果は盗まれたものだとの偽りの主張を改めて展開し、ブラッグ氏の案件を含む複数の捜査については、再び選挙結果を操作するための試みだと位置づけた。

「彼らは投票箱では勝てないので、法律を通じて我々を倒そうとする」と主張したトランプ氏は、マンハッタンでの裁判を担当する判事とその妻を「トランプ嫌い」と非難した。

一部の政治評論家は、トランプ氏の起訴について、少なくとも短期的には同氏を政治的に助ける可能性があると指摘する。同氏の選挙対策本部によると、大陪審が起訴の評決を下した先週以降、寄付金が殺到しているという。またトランプ氏の敵対勢力や大統領選で共和党の指名を争う可能性のあるライバルたちにも、足並みをそろえてブラッグ氏の行動を批判する以外の選択肢はほとんどない。トランプ氏の支持基盤が離れていくのを避けたいのなら、そうする以外にない。

とはいえ共和党の予備選はまだ数カ月先であり、4日の出来事が今後どのように展開するかは未知数だ。過去の証拠が示唆するところによれば、トランプ氏が過激になればなるほど、その人気は支持基盤の有権者の間で高まっていく。

それでも過去には、トランプ氏にとって比較的好ましくない政治的教訓もあった。同氏が4日夜、ゴールデンタイムのテレビ視聴者に対して示した過激思想は、まさしく急進主義に特有のものだったが、それは20年の大統領選、22年の中間選挙でいずれも共和党を落胆させる結果を招く一因となっている。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

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