(CNN) 15年の間、私は米議会警察で勤務する栄誉に浴し、連邦議会議事堂の荘厳なロタンダ(訳注:議事堂のドームの下にある円形の大広間)から感銘を受ける恩恵にあずかってきた。あの場所のあまりの美しさに、日々息をのんでいた。
ハリー・ダン氏/Courtesy Leigh Vogel
3年前、それほどの畏敬の念に満たされた同じ建物で、冒涜(ぼうとく)的な事象の数々が私をのみ込んだ。無限に続くかと思われたその時間、そこでは汗と叫び声、金切り声、怒りと死、恐怖、血、折れた手足、つば吐き、憎悪と戦慄(せんりつ)、人種差別と偏狭とが入り交じっていた。
混沌(こんとん)と暴力が、議事堂の敷地内で繰り広げられている。私が守ると誓ったその場所で。この事実に心底震え上がった。私や勇敢な同僚の警官たちが受けた傷は、今なお完治に至っていない。それでも我が国の強い民主主義を守るという私の決意は、あれから深まる一方だ。これこそ、私が連邦議会選への出馬を決めた理由に他ならない。
議会警察と首都警察の警官は2021年1月6日、なりふり構わぬつかみ合いの戦いを暴徒らと演じた。議事堂は全面的に包囲されていた。議事堂襲撃に加わった者たちは、あらゆる種類の武器を施設の防護に当たる警官に対して使用した。旗ざおはやりとして使われた。自転車用の金属のラックはばらばらにされ、こん棒になった。
私と並んで戦っていた警官の何人かは、痛みに悲鳴を上げた。それだけの傷を襲撃者との争いの中で受けていた。多くの警官が一時的に目を開けられなくなり、せき込んでいた。化学性の刺激物を顔に吹きかけられたのだ。私のような黒人警官たちは、肉体への打撃に加えて人種差別的な侮蔑の言葉も浴びせられた。
心身両面で我々が受けた傷は今なお根深く、我が国の民主主義的機構がいかに脆弱(ぜいじゃく)なものであるかを常に思い起こさせる。襲撃の一部にみられた人種差別的な性質は不快なものであり、ある暗い過去に改めて光を当てた。我々の非常に多くがそうした過去を非難し、そこからの決別を望んでいる。
我が国の議会議事堂を15年間守ってきた1人の愛国的な米国人として、私はなぜ全ての米国人が一丸となって正義と説明責任を追及しないのか疑問に思う。トランプ前大統領への支持が拡大するのを目にする現状には、常に落胆させられる。同氏こそは、あの日我々が目の当たりにした暴力の扇動者に他ならない。
ぞっとすることに、我が国の民主主義に対する攻撃に加わった同じ人々の中には、公職選挙へ出馬する意図を宣言している者がいる。自分たちが冒涜したまさにその機構で、公職に就こうというのだ。我が国の民主主義のためこれまで以上に重要なのは、我が国の民主主義的機構を尊重する指導者を選ぶことだ。我々の国の幸福を優先する意志のあるリーダーを。
議事堂襲撃事件以降の数年間で、共和党の過激主義者たちはトランプ氏に対する弱々しい非難を撤回。一部では実際に暴動が発生したのかどうかについてさえ、公然と疑問を呈する声も上がる。彼らの望みはあの日起きた出来事を消し去ることであり、陰謀論を受け入れるその姿勢を隠そうともしない。
米国人として、我々は透明性と説明責任を要求しなくてはならない。我が国を強固にする価値観を支える覚悟もまた、求める必要がある。今こそ議員らは党よりも国を優先し、我が国の民主主義的原則に対するいかなる脅威にも立ち向かう態度を明確にするべきだ。
1月6日事件の恐怖を絶対に繰り返してほしくない。私にとって、来る選挙に対する切迫感はそこに尽きる。我々は過去から学ばなくてはならない。自分たちの脆弱性を認めた上で積極的に活動し、我が国の民主主義の基盤を強化しなくてはならない。あの暗い日の経験から、私は一段の決意を固め、意義のある変化を実現しようとしている。もう二度と、あのような攻撃が起こることのないように。
私は自身の経験を共有することを自らに課した。権力者に真実を語り、確実な再発の防止に取り組む。だからこそ数週間前に警官を退職し、メリーランド州の下院選挙区から立候補することを表明した。
キャリアを通じ、光栄にも数千人に上る議員及び議会のスタッフ、職員、そして世界中から我が国の議事堂を訪れる人々に出会うことができた。
当時の私は、米国こそが世界における民主主義の守護者であることを日々思い起こしていた。今は我が国の民主主義的価値観を脅かす者たちに責任を課すことに専心している。そして1月6日のあの出来事を、我が国の歴史に汚点を残すただ一つの章とするべく努力している。
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ハリー・ダン氏は、米議会警察の元警察官。メリーランド州の選挙区から連邦議会下院議員選に立候補している。記事の内容は同氏個人の見解です。