OPINION

米最高裁による免責の一部容認、それでもトランプ氏が諸手を挙げて喜べない理由

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米ウィスコンシン州ラシーンで選挙集会を行った後、会場を後にするトランプ前大統領/Scott Olson/Getty Images

米ウィスコンシン州ラシーンで選挙集会を行った後、会場を後にするトランプ前大統領/Scott Olson/Getty Images

(CNN) ここへ来て米連邦最高裁は、大統領の免責について歴史的な判断を下した。ニール・ゴーサッチ判事が「後世に残る」と評した判断だが、これ以上なく求められる問いへの答えは今なお出ないまま、以前より格段に差し迫った状況となっている。果たして今回の判断は、ジャック・スミス特別検察官によるトランプ前大統領の起訴にとってどんな意味を持つのか? スミス氏は、2020年大統領選の結果を覆そうとしたとしてトランプ氏を起訴している。

ノーマン・エイセン氏/Courtesy Norm Eisen
ノーマン・エイセン氏/Courtesy Norm Eisen

筆者らは最高裁判事らの多数派が支持した判断に強く異を唱えており、いかなる免責もトランプ氏による20年大統領選の干渉という側面にまで拡大するべきではないと考える。しかし最高裁の意見書が同じく明確にするように、今回の判断はスミス氏の訴訟の終わりを告げるものではない。

なるほど、訴訟は今や事実審に差し戻され、完全な陪審裁判を年内に行う時間はもう残されていない。それでも最高裁の意見書は、連邦地裁のタニヤ・チュトカン判事に対し、次善の策たる証拠審問に取りかかることを求めている。ある種のミニ裁判である証拠審問を通じて、本件の事実は徹底的に検証されるだろう。チュトカン氏はすぐにそれを実施するべきだ。

スミス氏は、トランプ氏が「犯罪的な計画」に関与し、20年大統領選の結果の転覆を図ったとして訴追に踏み切った。トランプ氏は四つの罪状で無罪を主張している。公判は当初、今年の3月4日に始まる予定だったが、昨年12月から停止されている。当時トランプ氏は、免責特権に基づいて訴訟そのものの棄却を求めたが、これを退ける命令が裁判所から出たことに異議を申し立てた。最高裁は当初、免責特権に関する審理を拒否。なかなか手の内を明かさない非良心的なやり方に出たものの、7カ月近く過ぎてようやくそれに終止符を打ち、新たな判断を示した。

E・ダニヤ・ペリー氏/Courtesy E. Danya Perry
E・ダニヤ・ペリー氏/Courtesy E. Danya Perry

今月1日、最高裁は実質的に、政府とトランプ氏双方の立場の間に妥協点を見つけ出した。公務に対する一律的な刑事免責というトランプ氏側のとんでもない主張を退けつつ、それでも大統領を訴追できない行為に関してはより広範な領域を設定した。当該の行為は本人の退任後であっても訴追が免除される。

その中で最高裁は、かつてまとめた手法を採用、修正した。1982年の「ニクソン対フィッツジェラルド訴訟」では大統領の民事責任を定めている。トランプ氏のチームを含む全当事者は、大統領が私的な行為で訴追を免れることはないと既に認めていた。大統領の私的行為に対しては民事責任を問えるからだ。ニクソン対フィッツジェラルド訴訟で、最高裁は大統領のあらゆる「公的行為」について、民事責任に対する免責が適用されるとの見方を支持した。今回の「トランプ対米国訴訟」で最高裁が取り組んだのは、どの「公的」行為に対して刑事免責を認めるべきかという判断だった。

ジョシュア・コルブ氏/CJ Studios
ジョシュア・コルブ氏/CJ Studios

党派に沿った6対3の賛成多数で免責を容認するとした意見書を記すに当たり、最高裁のジョン・ロバーツ長官は、免責特権を以下の三つの水準に分けて検証した。(1)大統領が「自身の中核的な憲法上の権限」を行使する場合は完全に免責される。(2)大統領の職務にとって中核的ではない公的行為(たとえば議会によって与えられた権限の行使など)に対しては「訴追からの推定的な免責」を適用する。(3)「公的ではない行為には一切の免責特権を認めない」

こうした裁定を踏まえ、次に浮かぶ合理的な疑問はこうだ。トランプ氏が取ったとされ、起訴状で罪に問われた行為のうち、どれが特権で守られ、どれが守られないのか?

まず最高裁は、トランプ氏の司法省とのやり取りに関する全ての告発については、公的なものだったと断定している。司法省を大統領選に介入させようとする試みも同様だ。従って、そうしたあらゆる行為は免責特権によって守られており、裁判で審理することはできない。

一方で裁判所は、トランプ氏に絡む2件の告発については推定的に免責されるとの立場を支持しており、この推定はまだ覆る可能性がある。具体的にはペンス前副大統領とのやり取り及びトランプ氏本人による意見表明だ。しかし最高裁は、その推定を覆すために何が必要なのかは具体的に明らかにしなかった。この点もまた、チュトカン判事が担当するミニ裁判での解明が待たれる。

最後に、最高裁は告発された行為のある区分に言及。そこについては「起訴状の広範かつ相互に関係し合う告発内容に対して事実に特化した分析」が必要だと明言した。具体的にはトランプ氏と「行政機関の外部にいる人々」とのやり取りの全てを指し、そこには州の当局者や民間団体が含まれる。チュトカン氏の法廷での見どころがまた増えることになる。

結論を言えば、今回の判断により、大統領選前に裁判が決着するとの望みは完全に終了している。それでも、トランプ氏の説明責任を巡る極めて重要な審判は、再度チュトカン氏の優れた手腕に委ねられる。

トランプ氏の免責の度合いを解明するため、チュトカン氏は迅速にミニ裁判の日程を決めた方がいい。そこで同氏は証人の証言に耳を傾け、両当事者からその他の関連する証拠を受け取る。これは前例のないことではない。実のところチュトカン氏は、ジョージア州連邦地裁が同様の問題を扱う際に使用した手続きを踏襲することができる。同州フルトン郡で起きた、選挙結果の転覆を巡る刑事裁判だ。

大陪審がトランプ氏を含む19人を州での共謀の罪で起訴した後、被告のうち2人(元大統領首席補佐官のマーク・メドウズ氏と、司法省の元当局者ジェフリー・クラーク氏)は昨年、訴訟を連邦裁判所に移送しようとした。訴訟に絡む行為は、彼らが連邦当局者としての職位に就いていたときに発生したからという主張だった(これまで被告19人中4人が有罪を認めたが、メドウズ氏とクラーク氏は他の被告同様無罪を主張している)。スティーブ・ジョーンズ連邦地裁判事は即座に証拠審問を開き、メドウズ、クラーク両氏が連邦当局者による公務の範囲内で職務に当たっていたのかどうかの判断を行った。

メドウズ、クラーク両氏には論述のための機会が十分に与えられ、どちらも徹底して事実に基づく記録を法廷に提示した。実際、自身の審理ではメドウズ氏本人が判事の前で証言。大統領首席補佐官の役割を説明し、それが訴追された行為にどのような影響を与えたかを論じた。一方、州検察は重要な証拠の一部を提示し、被告らの行動は公務の範囲外のものだったと主張した。証拠の中にはトランプ氏とジョージア州のブラッド・ラッフェンスパーガー州務長官との間で交わされた悪名高い電話記録が含まれる。メドウズ氏は両者の通話を手配し、やり取りに加わってもいた。最終的にジョーンズ判事はメドウズ氏の申し立てを退け、訴訟を州裁判所に差し戻した。第11連邦巡回区控訴裁判所はこの判断を支持した。クラーク氏による裁判の移送の試みも、同様に失敗に終わった。

そうした事例からお墨付きを得る形で、チュトカン氏はジョージア州における連邦地裁の審理を一つの手本と見なせばいい。

ジョージア州での訴訟の移送手続きにまつわる問題は、チュトカン氏がトランプ氏に関して検討しなくてはならない問題と驚くほど似通っている。最高裁はチュトカン氏に対し、トランプ氏による州当局者や民間団体とのやり取りが公務だったのかどうかを断定するよう明確に指示した。そしてペンス氏が絡む告発を巡っても、審理を開く可能性を残したままにしている。チュトカン氏は両方の当事者に機会を与えることができる。彼らが事実を積み重ね、互いに対立する立場を補強するのを受けて、免責特権に関する自身の判断を下せる。それにより間違いなくトランプ氏に対する法の適正手続きは、最後まで継続していくことになる。

検察側は証人も呼べる。ペンス氏やビル・バー元司法長官を召喚し、2020年大統領選後のトランプ氏の行為について、大統領としての公務の範囲内だったのかどうか証言させることができる。証言を支える書類上の証拠も使用できる。弁護側も、証人や書類による証拠を提示する機会を得られる。そうして免責特権に基づき訴訟を破棄する申し立てを補強できる。メドウズ氏がやったように、トランプ氏本人が証言台に立ち、自身の行動を説明することさえ可能だ。このような方法はチュトカン氏の助けになる。新たに認められたトランプ氏の免責特権について、その性質と範囲を速やかに確定するのに役立つだろう。

それはある民事裁判で用いられた相いれない手法よりも格段に優れている。別個の訴訟ながら関連もあるワシントンでの民事裁判、「ブラッシンゲーム対トランプ訴訟」では、複数の連邦議会議員と議事堂警察官が、議事堂襲撃事件によるものとされる危害を被ったとしてトランプ氏を訴えた。訴状の主張するところによれば、原告が受けた被害は部分的にトランプ氏が事件当日行った扇動的な演説の結果だという。民事事件での免責を主張するトランプ氏に対し、コロンビア特別区巡回区控訴裁判所は長期にわたる証拠開示手続きを導入した。これは下級裁判所がトランプ氏の民事免責の程度を確定するのを念頭に置いた措置だった。

しかし、そうした民事の手続きを刑事裁判に当てはめるのは適切ではないだろう。この種の長期にわたる証拠開示手続きは、免責特権の特異な問題が絡まないケースを含め民事訴訟では一般的だが、刑事事件を背景とする裁判ではかなり異例だ。しかもメドウズ氏とクラーク氏に対する刑事訴訟の方が、トランプ氏に対する連邦裁判所管轄の訴訟との類似点は格段に大きい。民事訴訟は金銭賠償を求めているなど、性質上の違いが多々ある。

裁判の手続きとしての考察以外にも、上記のミニ裁判は一般大衆にとって重要な機能を果たすだろう。トランプ氏の選挙干渉疑惑について、有権者はより詳細な内容を把握することができる。我が国の刑事司法制度の中核をなす対審主義的な手順を活用すれば、極めて重要な情報の解明も可能になるだろう。それらの情報とは、我が国の民主主義に対して行われた南北戦争以降で最も危機的な攻撃についてのものだ。

もう一つ、今回の意見書から明らかなように、スミス氏は自らの起訴状のスリム化を真剣に検討するべきだ。最高裁が指摘した箇所(司法省に関連する告発など)を削除するだけでなく、その他にも「勝つために削減できる」部分は削った方がいい。検察もこの手続きについてしばしば言及している。スミス氏はそれを直ちに実行し、チュトカン氏の仕事をできる限り簡単にするべきだ。後者の判断に対して必ず行われる再審理の前に。

今後多くの時間をかけて、最高裁による重大な決定がもたらす広範囲の影響について、さらなる考察がなされるだろう。大統領職及び何人も法を超越する存在であってはならないという原則にとって、今回の決定がどのような意味を持つのかも検討されるはずだ。エレナ・ケーガン、ケタンジ・ブラウン・ジャクソン両判事と共に免責特権への反対票を投じたソニア・ソトマイヨール判事は、こう警告している。「大統領と彼が奉仕する国民との関係は、取り返しがつかないほど変わってしまった。あらゆる公権力の行使において、大統領は今や王であり、法律よりも上位にいる」

それでも、この裁判の根幹部分における実態の究明が米国の将来のために必要不可欠であることに変わりはない。

米国民が今秋厳しい選択に直面する中、状況は先月27日の大統領選討論会によって一段と複雑になった。彼らにはトランプ氏がどこまで踏み込んでいたのかを知る資格がある。4年前、我が国の民主主義の破壊に向けて同氏がどこまで近づいていたのかを知る権利がある。同じことが今また起ころうとしているのかもしれない。だからこそ、この機会に改めて裁判を正しい方向に進める必要がある。

ノーマン・エイセン氏はCNNの法律アナリストで、トランプ大統領(当時)の弾劾(だんがい)訴追を審議した連邦議会下院司法委員会の弁護士を務めた。E・ダニヤ・ペリー氏は、法律サービスを手掛ける「ペリー・ロー」の創業パートナー。ニューヨーク州南部地区連邦地裁刑事部門の副長官や同州司法副長官などを歴任した。ジョシュア・コルブ氏は「ペリー・ロー」所属の弁護士で、上院司法委員会の法務書記を務めた経歴を持つ。記事の内容は同氏ら個人の見解です。

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