米大統領討論会、七つのポイント

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初めて直接顔を合わせた両大統領候補による討論会。主なポイントは/Win McNamee/Getty Images

初めて直接顔を合わせた両大統領候補による討論会。主なポイントは/Win McNamee/Getty Images

フィラデルフィア(CNN) 11月の米大統領選に向け実施されたABCニュース主催のテレビ討論会で、民主党候補のハリス副大統領は1時間45分の討論時間のほぼ全てを使い、共和党候補のトランプ前大統領を餌でおびき寄せた。そしてトランプ氏はそれらにことごとく食らいついた。

討論会に向けたハリス氏の準備は広範囲に及び、ほとんど全ての回答にトランプ氏を怒らせるためのコメントを盛り込んだ。ハリス氏によると、トランプ氏は世界の指導者の笑いもので、軍の指導者らも同氏を「恥ずべき人間」と呼んでいるという。

ハリス氏自身はトランプ氏を「弱い人間」、「誤った人間」と評し、前回の2020年大統領選でバイデン大統領に入れた8100万人の有権者から解雇された人物だと断じた。

「明らかに、彼(トランプ氏)はその点を処理するのに苦慮している」(ハリス氏)

一方のトランプ氏はしばしば自制心を失い、一連の虚偽の言説が事実であるとの主張を声高に繰り返した。具体的には20年大統領選での広範な不正にまつわる嘘(うそ)に改めて言及したほか、移民がペットを食べているとの陰謀論をそのまま口にした。

さらに米国が悲惨な状況にあるとの印象づけも行い、「我々の国は死にかけている」との認識を示した。

討論終了後は、米人気歌手のテイラー・スウィフトさんが自身のインスタグラムで民主党の正副大統領候補への支持を表明した。これはハリス氏にとっての追い風となる。

最初で最後になる可能性もある両候補の討論会について、主なポイントを以下にまとめる。

選挙集会に対する突っ込み

登壇したハリス氏には明確なプランがあった。トランプ氏の戦略を狂わせるというそのプランは、あらゆる基準に照らして劇的な成功を収めた。ハリス氏がトランプ氏の有罪評決に言及し、超党派の移民法案を同氏がつぶしたと示唆すると、トランプ氏はこれに強く反応。また自身の選挙集会を退屈だと示唆され、窒息せんばかりの勢いでこれに食って掛かる一幕もあった。

司会者が提起した論点を扱うことなく、トランプ氏は自身の選挙集会の娯楽的価値について語った他、バイデン政権が司法を使い、自身を標的にしていると非難。さらには入手可能なあらゆる証拠に逆らう形で、移民たちが米国人の飼っているペットを食べているとも主張した。

トランプ氏によれば、オハイオ州スプリングフィールドでは移民たちが犬や猫を食べているという。

ハリス氏は戸惑った表情こそ見せたものの、こうした主張にほとんど反応せず、トランプ氏が突発的な議論に走ることに満足している様子だった。

トランプ氏は選挙集会についての言及に特にこだわり、自身の集会こそは政治史上最も大規模かつ素晴らしい集会だと強調した。

また20年大統領選に関しても長々と触れ、選挙結果を盗まれたとする誤った主張を改めて展開した。

雰囲気を作るハリス氏

トランプ氏はバイデン氏の大統領就任式を欠席していたため、トランプ、ハリス両氏が直接顔を合わせるのはこの討論会が初めてだった。

討論会の雰囲気を作ったのはハリス氏だった。両者の登場後、ハリス氏は約1.8メートル離れた相手の演壇に近づき、トランプ氏に握手を求めた。自己紹介した後で「良い討論をしましょう」と声をかけると、トランプ氏も「お目にかかれてうれしい」と応じた。

ハリス氏の発言中、トランプ氏は概して前方を見ていたが、ハリス氏は表情によって考えを伝えていた。トランプ氏のコメントに対しても声を上げて笑うこともあれば、薄笑いを浮かべるときもあった。頭を振ったり、当惑した様子を見せることも何度かあった。

スプリングフィールドでハイチ移民がペットを食べているとする、既に否定された言説をトランプ氏が再度口にした際には、ハリス氏はあざけるように笑い、肩をすくめてトランプ氏を指さすなどした。

陰謀論にふけるトランプ氏

ABCの司会者、デービッド・ミュアー氏がスプリングフィールドの当局者の話として、移民がペットを食べている証拠は一切確認されていないと伝えても、トランプ氏は「テレビで人々が」そう言っていたと譲らなかった。さらに詰め寄られても、「今に分かるだろう」と答えるだけだった。

討論のテーマが犯罪に移ると、トランプ氏は米国では他国と逆に犯罪が増えていると主張。ミュアー氏はここでも、連邦捜査局(FBI)のデータを引用し、ここ数年で犯罪は実際には減少していると指摘した。

トランプ氏はまたしても、FBIが著しく腐敗しているとの別の陰謀論を唱え、データは「詐欺だ」と主張した。

その後の討論では、米国の選挙は「めちゃくちゃ」であり、民主党は不法移民を入れて選挙で投票させようとしていると訴えた。

人工妊娠中絶巡り激論

人工妊娠中絶の問題について、トランプ氏は穏健な立場に立とうとしている。かねて妊娠6週以降の中絶を批判する一方、レイプや近親相姦(そうかん)、母体の生命に危険がある場合は例外を認める考えを支持してきた。とはいえ中絶の権利を認めたロー対ウェイド判決を連邦最高裁が覆した判断は支持する考えだ。

またトランプ氏は、中絶を認めるかどうかの判断を各州に委ねるのが「全ての人の」望みだとしているが、民主党や無党派層の一部は広くこれに反対している。

討論会では、赤ちゃんが産まれた後も中絶を許可する州が一部にあるとの虚偽の主張を繰り返し、司会者から「生まれた後の赤ちゃんの殺害を合法としている州は存在しない」と訂正を受けた。

ハリス氏は、中絶を禁じられている州では健康上の理由で手術を受けなくてはならない女性が必要な措置を受けられないと指摘。トランプ氏の意向は人々が望むものではないと示唆した。

トランプ氏は自分本位と印象づけ

有権者に自らを紹介する際、ハリス氏は米国の中間層の味方というイメージを早々に打ち出し、対するトランプ氏は自分のことしか頭にない人間と位置づけた。

「ドナルド・トランプには、あなたのためのプランがありません」。経済について質問されたハリス氏は、カメラに視線を合わせながら有権者に直接そう訴えた。

「中間層の子ども」だったという自身の生い立ちに言及し、ハリス氏は家族向けの減税や中小企業対象の税控除といった経済政策の展望を説明。トランプ氏については、これまでの政策を繰り返し、富裕層と大企業への減税を実施するだろうと予測した。

その上で有権者に向け、今後トランプ氏が有権者について語るのを聞くことはないだろうと指摘。「あなたにふさわしいのは、実際にあなたのことを第一に考える大統領であるはずだ」と述べた。

ハリス氏の人種にまつわるトランプ氏のコメントを分析

ハリス氏の人種を巡り、最近になって初めて自身を黒人だと名乗り始めたとする先月の誤ったコメントについて質問されたトランプ氏は、どこかで読んだ内容だとして自らの発言を擁護した。

「全くもってどうでもいい」「彼女が何になりたがろうと、私の問題とするところではない」(トランプ氏)

当該のコメントが発せられてからの数週間、ハリス氏は自分に対する個人攻撃への関与を避けてきたが、討論会では意義のある形でこれに反応。トランプ氏による過去の人種差別的な言動を列挙してみせた。そこにはオバマ元大統領が米国生まれではないとする誤った主張などが含まれていた。

「常に米国人同士で互いを非難させようとする、そんなリーダーはいらない」(ハリス氏)

これに対しトランプ氏は、バイデン・ハリス政権こそ分断を引き起こす存在だと反論。ハリス氏が言及した事例も、旧聞に属する話だとの認識を示した。

世界情勢では双方一歩も譲らず

パレスチナ自治区ガザ地区での戦争について質問されたハリス氏は、イスラム組織ハマスによる昨年の奇襲への報復としてイスラエルが現在も行うパレスチナ人への攻撃を控え目に批判。パレスチナ国家とイスラエルが併存する2国家解決を支持した上で 「停戦と人質の解放が必要だ」と明言した。

トランプ氏はハリス氏について、イスラエルもアラブも憎んでいると指摘した。

ロシアがウクライナで起こした戦争に関して、トランプ氏はロシアのプーチン大統領を非常によく知っているとした上で、自分が大統領に選出されれば就任前にでも戦争を終わらせることが出来ると示唆した。

これに対しハリス氏は、独裁者たちがトランプ氏の再選を熱望しているのはよく知られた話だと指摘。理由は、お世辞や好意的な態度で操れるのが非常に明白だからだと述べた。

ウクライナでの戦争を終結させられるとのトランプ氏の主張については、プーチン氏に黙って従う形で実現する可能性があると示唆。結果的にウクライナの西側で国境を接するポーランドに危険が及ぶと付け加えた(ハリス氏によれば討論会の開かれたペンシルベニア州にはポーランド系米国人が多い)。

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