(CNN) 米中西部オハイオ州のデワイン知事の心の中で、ハイチという国が一定の場所を占めているのは明らかだ。同知事は妻を伴い少なくとも25回、同国を訪れている。同州スプリングフィールドで開いた16日の会見でそう述べていた。
ハイチ国内での学校創設にも協力した。同校には数十年前に交通事故で死亡した知事の娘の名がつけられている。
デワイン氏は米国へ合法的に入国し、スプリングフィールドで仕事を見つけたハイチ人に敬意を払う。
17日には米公共テレビPBSとのインタビューで、「彼らは合法だ」「彼らは働きたいと思っている。実際に残業も望んでいる」と移民について述べた。
その上で、ハイチ移民がスプリングフィールドを目指したのは、現地の企業経営者が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の後で人手不足に見舞われていたためだと説明した。
しかし、スプリングフィールドで合法的に働くハイチ移民を擁護する一方で、より広範な移民・国境政策とこの問題とは分けて考えたいというのがデワイン氏の見解だ。ハイチからの移民に対しては、本国での自然災害後の暴力と人道危機を理由に一時保護資格が与えられている。また共和党は移民・国境政策を今年の大統領選に向けた重要な論題に掲げている。
「移民の問題、国境の問題は、当然ながら格好の争点だ」。デワイン氏はPBSとのインタビューでそう述べた。ここ数日での記者会見やインタビューでも同じ内容を口にしている。
とはいえ、それはスプリングフィールドで起きていることとは異なる問題だとも同氏は指摘した。
大統領選の共和党候補者のトランプ前大統領や副大統領候補のJ・D・バンス上院議員を名指しで批判することはなかったが、デワイン氏は両者が固執する虚偽の風評の拡散に言及。ハイチ人のコミュニティーが動物を虐待しているという言説が「懸命に働くこれらの男女を著しく傷つけている」と非難した。
トランプ、バンス両氏のコメントは、地元地域全体にも影響を及ぼしている。オハイオ州警察は今週、多数の爆破予告を受けてスプリングフィールドにある複数の学校の警備に当たった。米国内外から寄せられたこうした脅迫は、同市を不安に陥れた。
トランプ、バンス両氏のコメントが爆破予告を誘発しているのかどうか問われると、デワイン氏は明言を避け、「こうした脅迫を行う人々は悪人だ。彼らは間違っている」と述べた。
現時点で、トランプ氏やバンス氏が動物虐待にまつわる根拠のない風評について発言を止める兆候はみられない。
バンス氏は15日にCNNの番組に出演し、「仮に私が物語を作り、その結果米国のメディアが自国民の苦難に注意を払うのであれば、それこそ私がやらなくてはならないことだ」と発言した。
その後で発言内容を以下のように説明している。「物語を作るというのは、米国メディアが注目する物語を作るという意味だ。2万人の不法移民がスプリングフィールドにやってくる状況は、私が作り出したものではない」
そしてこの点においては、オハイオ州共和党指導部との間に多くの見解のずれがあるようだ。スプリングフィールドの深刻な人手不足をハイチ人が埋めているとする州指導部の主張に対し、トランプ氏とバンス氏は、後者の発言にみられるように、ハイチ人が現れたことで「数千人の住民の生活が破壊された」と訴えている。
デワイン氏同様、スプリングフィールドのルー市長も、ハイチ人が市内で果たしてきた役割を正しく伝え直そうと必死に取り組んでいる。同市長は17日のCNNとのインタビューで、極めて慎重に言葉を選びながら質問に答えた。
バンス氏が語った物語によってスプリングフィールドに注目が集まるのは有益かどうか問われ、「多くの好ましくない注目が地域に向けられた」とルー氏は回答。現在非常に多くの取材を受け、「スプリングフィールドの真実の物語」が確実に人々の耳に入るよう努めていると付け加えた。
ルー、デワイン両氏は地域のインフラが逼迫(ひっぱく)していることを認めた。その影響は学校の人員配置やワクチン接種による住民保護、運転免許証の発行といったあらゆる業務に及んでいる。一方でより広範な問題も存在するという。
「我々の街は美しい。恐ろしい街ではない。住民がばらばらになっているわけでもない。負担やストレスはあり、それについては解決しようとしている。ただオハイオ州スプリングフィールドが現在浴びている注目は、一切我々の助けになっていない」と、ルー氏は述べた。また市内の学校に州警察が配備されたのは、過去1週間に複数の脅迫を受けたことが唯一の理由だと強調した。
17日の会見で、ルー、デワイン両氏はトランプ氏によるスプリングフィールド訪問を望まない考えを示唆した。
デワイン氏は市、州共に資源の面で逼迫(ひっぱく)しているとしつつも、「もしトランプ大統領が訪問を決めるのであれば、歓迎する意向だ」と述べた。
一方のルー氏は、誰であれ大統領候補の訪問を受ければ「市の資源は極端に逼迫する」とし、自分としては現時点での訪問を見送る判断を下してもらうことが望ましいとの認識を示した。
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本稿はCNNのザカリー・B・ウルフ記者の分析記事です。