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ロシア反体制派指導者、スパイだまし毒盛られた方法聞き出す パンツに毒と判明

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ロシア反体制派指導者アレクセイ・ナバリヌイ氏/YURI KADOBNOV/AFP/Getty Images

ロシア反体制派指導者アレクセイ・ナバリヌイ氏/YURI KADOBNOV/AFP/Getty Images

モスクワ(CNN) ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナバリヌイ氏の尾行任務で送り込まれたロシアのエージェントが、今年8月に同氏に毒を盛った方法について、致死性の神経剤ノビチョクをパンツの中に仕込んだと明らかにした。

この人物はロシア連邦保安局(FSB)の毒物チームに所属するコンスタンティン・クドリャフツェフ氏。長時間に及んだ電話でのやり取りで、この驚がくの事実を明らかにした。

クドリャフツェフ氏は上司に対する報告と信じていた電話で、シベリアの都市トムスクで毒物を盛るのに関与した人物の話や、自身が事後の後片付けで送り込まれたことについても語った。

コンスタンティン・クドリャフツェフ氏。ナバリヌイ氏に毒が盛られた後、後片付けをしにオムスクに向かったと明かした/From Bellingcat
コンスタンティン・クドリャフツェフ氏。ナバリヌイ氏に毒が盛られた後、後片付けをしにオムスクに向かったと明かした/From Bellingcat

だが、クドリャフツェフ氏の話し相手は国家安全保障会議の当局者ではなかった。話していたのは毒を盛られて死にかけたナバリヌイ氏本人だった。

ナバリヌイ氏は高官の汚職を追及したり、与党統一ロシアに反対する運動を行ったりして、プーチン大統領側にとって悩みの種だった。

プーチン氏は先週、FSBのエージェントがナバリヌイ氏を尾行していたことを実質的に認め、本当に殺害したければ「任務を完遂していただろう」とも述べていた。

英調査報道機関ベリングキャットやCNNが実施した調査では、FSBの毒物チーム約6~10人が3年以上ナバリヌイ氏を尾行していたと判明。CNNとベリングキャットはチームの大半の身元を割り出し、各人とその上司にコンタクトを試みた。

そのうちの一人、オレグ・タヤキン氏はCNNに尋ねられるとドアを勢いよく閉じた。他の人物は応答しなかった。

オレグ・タヤキン氏はドアを開いたが、CNNに尋ねられると閉めた/CNN
オレグ・タヤキン氏はドアを開いたが、CNNに尋ねられると閉めた/CNN

同時に、ナバリヌイ氏も電話での接触を試みた。当初は自身が誰であるかを名乗ったが、かけた相手は皆すぐに電話を切った。最後に残ったクドリャフツェフ氏への電話で、ナバリヌイ氏のチームは作戦を変えることにした。おとり調査だ。

ナバリヌイ氏がおとり調査に成功した方法

現在ドイツで療養場所を明らかにせずに滞在しているナバリヌイ氏は、毒殺作戦の分析を担当するロシア国家安全保障会議の高官を装って電話した。同氏のチームによると、電話番号はFSB本部のように見えるように細工をした。電話の録音は後日、CNNとベリングキャットに提供された。

クドリャフツェフ氏が自身の身元を確認した後、ナバリヌイ氏はチームメンバーから簡潔な報告を得る必要があると伝え「何がうまくいかなかったのか。なぜナバリヌイの件でトムスクで完全に失敗したのか」を知りたいと述べた。

その後クドリャフツェフ氏は45分にわたって電話に応じた。これはナバリヌイ氏の毒殺未遂に部隊が関わったことを示す初の直接の証拠となる。

クドリャフツェフ氏は時折、安全措置がほどこされていない電話で話すことに明確な懸念を示した。だが、ナバリヌイ氏が時にぶっきらぼうに、急いだ様子で話し、また「この全てが最高レベルの安全保障会議で議論される」とも言及したことで、高官が報告を受けることを急いでいると信じ込ませた。

ナバリヌイ氏は時折ぶっきらぼうに、急ぐ様子で話し、作戦を検証している当局者だとクドリャフツェフ氏に信じ込ませた/Christian Streib/CNN
ナバリヌイ氏は時折ぶっきらぼうに、急ぐ様子で話し、作戦を検証している当局者だとクドリャフツェフ氏に信じ込ませた/Christian Streib/CNN

FSBは21日、ナバリヌイ氏とクドリャフツェフ氏の会話の動画は外国の情報機関によって作り出された「フェイク」だとの声明を出した。ナバリヌイ氏は自身のユーチューブのチャンネルにこの動画を投稿している。

FSBはナバリヌイ氏の調査を調べ、その結果次第で手続き的な評価を行うとも述べた。

なぜパンツが狙われたのか

クドリャフツェフ氏は、神経剤のノビチョクがナバリヌイ氏のパンツにどのように仕込まれたのかを詳しく解説した。

ナバリヌイ氏が「どんな衣服に着目していたのか。最もリスクの高い衣服は何だ」と尋ねると「パンツ」とクドリャフツェフ氏は回答。ナバリヌイ氏がさらに、正確にはどこに毒を仕込んだのかと問うと、「(パンツの)内側、股だ」と答えた。

CNNが照会した毒物学者は、もし粒状のものを衣類に付着させれば、被害者が汗をかくとノビチョクは皮膚を通じて吸収されるだろうと語る。英国で発生した二重スパイのセルゲイ・スクリパリ氏の襲撃事件では液体かゲル状のものが使われたが、今回は固体が使用されたとの見方を示した。

ベリングキャットとCNNの調査では、毒物チームのメンバーを追跡するために、数千の電話記録のほか、旅客機の乗客乗員名簿などの文書を調べた。ノビチョクが何らかの方法でナバリヌイ氏のホテルの部屋に運ばれた夜、毒物チームの一人、アレクセイ・アレクサンドロフ氏の所有する携帯電話からの発信がホテルからわずか数百メートルの距離からあったことが確認されている。

クドリャフツェフ氏はアレクサンドロフ氏を知っていると認め、その仕事ぶりを称賛した。

予期しなかった結果

CNNは毒物が盛られたときにクドリャフツェフ氏がトムスクにいたかどうかは確認できていない。だが、今回の電話から、クドリャフツェフ氏が実行内容について詳しい知識があること、またナバリヌイ氏が病院を去った後にノビチョクの痕跡が残らないように後片付けの作業に関わっていたことが明らかとなった。

緊急着陸後、ナバリヌイ氏が救急車で搬送される様子/BAZA
緊急着陸後、ナバリヌイ氏が救急車で搬送される様子/BAZA

ナバリヌイ氏はトムスクからモスクワに向かう旅客機の中で突然倒れた。機長はオムスクに向かい、救急救命措置を受けた。

専門家はモスクワまで飛んでいたら、ナバリヌイ氏は恐らく死んでいただろうと指摘。「フライトは約3時間ある」「もし着陸しなければ、その影響は異なり、結果も異なっただろう。だから、飛行機が果たした役割は決定的だったと思う」と語る。

クドリャフツェフ氏は「(我々は)こんな事が起こるとは予想していなかった。全てが悪い方向に向かったと思う」とも述べ、FSBがナバリヌイ氏の殺害を意図していたことを示唆した。

付与された毒物の量が誤っていたのではないかと問われると、クドリャフツェフ氏は「私の理解では、我々は少し余分に盛っていた」と述べた。

後片付けの仕事

クドリャフツェフ氏の経歴は、同氏が化学・生物兵器のスペシャリストであることを示唆している。ロシア化学防衛アカデミーのモスクワ校を卒業した後、生物安全保障研究センターである防衛省第42センターに勤務していた。

ドイツ誌「デア・シュピーゲル」やロシアのオンラインサイト「インサイダー」も関わったベリングキャットとCNNの調査では、クドリャフツェフ氏がナバリヌイ氏の毒殺未遂があった数日後の8月25日にオムスクに飛んでいることが乗客名簿からわかっている。

ロシアのプーチン大統領はCNNの調査報道に関する質問を受け、尾行を否定しなかった/Russian Pool
ロシアのプーチン大統領はCNNの調査報道に関する質問を受け、尾行を否定しなかった/Russian Pool

クドリャフツェフ氏は「我々が到着すると、彼らはそれを我々にくれた。地元のオムスクのやつらが警察に(それを)持ってきた」と発言。クドリャフツェフ氏らは衣服に痕跡がのこらないように溶液をあてがったと言及した。

「ということは、衣服にサプライズはもうないんだね?」と問うと、「そのために何度かそこに行ったんだ」とクドリャフツェフ氏は答えた。

ナバリヌイ氏やそのチームは、衣服を返却するように数回求めたが、ロシア当局はそれを拒絶した。

クドリャフツェフ氏はその後、「私はパンツの内側を入念に作業するように言われていた」と述べた。「誰がそれを言った。マクシャコフか」と問われると「そうだ」と答えた。


CNNなどの調査から、スタニスラフ・マクシャコフ氏は、モスクワ郊外のFSB犯罪科学班に拠点を置く毒物チームの責任者と特定されている。以前は化学兵器の研究機関で大佐の地位にもいた。

調査では、毒物チームの会話や動きを詳細に把握。チームが2017年以降にモスクワ以外でのナバリヌイ氏の30以上の旅程で尾行を実施していたことがわかった。またデータからは毒物チームと国内の神経剤研究の専門機関との間で上位レベルの接触があったことが示されている。

プーチン氏や他のロシアの当局者はベリングキャットとCNNの調査を、西側情報機関が画策するキャンペーンの一部だと切り捨てた。プーチン氏は18日、調査は一種の「情報戦争だ」と述べ、市民を印象操作し政治的指導層に不信感を植え付けることを狙った「ごみ」とも述べた。

大統領府のペスコフ報道官もナバリヌイ氏を偵察していた作戦を認め、外国の特殊機関の「耳」が大きくなっていると言及した。

エージェントとナバリヌイ氏が見ていたもの

ナバリヌイ氏は21日、CNNに対し、今回の発見がロシア国内での捜査に結び付くとは考えていないと述べた。「本件の背後にいるのはプーチン氏個人だということが明白になった」とも語った。

クドリャフツェフ氏と会話できたことに驚がくしているとも話し、「彼が『仕事はうまく行われた』というようなフレーズを何度も口にしたことから、彼自身は自分を暗殺チームの一員ではなく、ただの普通の従事者と捉えている」とも述べた。

2019年にモスクワでのデモに参加するアレクセイ・ナバリヌイ氏。同氏についてクドリャフツェフ氏は「旅行中非常に注意深い」と評した/YURI KADOBNOV/AFP/Getty Images
2019年にモスクワでのデモに参加するアレクセイ・ナバリヌイ氏。同氏についてクドリャフツェフ氏は「旅行中非常に注意深い」と評した/YURI KADOBNOV/AFP/Getty Images

ナバリヌイ氏は電話で、同氏が生き残ったことについてクドリャフツェフ氏に同情の言葉をかけた上で、「あなたは何度もナバリヌイと旅しているが――2017年にはキーロフに――、彼の性格はどのように評価するか」と質問した。

「とても注意深く、すべてにおびえている。一方で、どこにでも行く。時には部屋を変えたりして、とても注意深い」(クドリャフツェフ氏)

ナバリヌイ氏が毒物チームの誰かに気付いている可能性があるかと問われると、クドリャフツェフ氏は「それはないだろう。我々はそれにはとても厳しい。洋服などすべてを変えている」と述べ、尾行時にはチームは異なる便を使っていたとも明かした。

クドリャフツェフ氏はこのチームの安全措置を誇りに思っている様子で、「誰も撮っていない。他の誰も見ていない。常に排除されている」とも述べた。

クドリャフツェフ氏はこの点は正解のようだ。ナバリヌイ氏はCNNがクドリャフツェフ氏や他のチームのメンバーの写真を見せた際、彼らに気付いたことがないと語った。だが、CNN等の調査でFSBの毒物チームはその動きや会話、行為で多くの証拠を残していたことがわかった。

そうした証拠の一つが、クドリャフツェフ氏の電話番号だった。この電話で、同氏は思いがけずベリングキャットやCNNに、ロシア国家によるナバリヌイ氏毒殺未遂の全体像を完成させる機会を与えることとなった。

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