フィリピンはこの件に関して中国政府に抗議を申し入れ、中国船を「群れをなす脅威のプレゼンス」と形容。こうした船団がフィリピンの領域と漁場に侵入していると指摘した。さらに同海域は自国の排他的経済水域(EEZ)内にあるとして、中国船の退去を求めた。
これに対し中国政府は、漁船はブーメラン形のウィットサン礁によって形成される礁湖の内側で荒波を避けていただけだと反論した。中国はウィットサン礁を牛軛礁と呼び、自国領土の一部と主張している。
中国外務省の華春瑩報道官は「一部の漁船は海上の状況を踏まえ、牛軛礁付近で風をよけていた。ごく普通のことだ。関係各国がこの件を合理的に判断することを望む」と述べた。
在マニラ中国大使館はより単刀直入に、「中国海上民兵なるものは存在しない」としている。
フィリピンと中国の当局者による応酬は先々週も続いた。在マニラ中国大使館は、中国船に関するフィリピン国防相の発言を「理不尽」で「不可解」と形容。これに対し、フィリピン外務省は中国大使館の声明に遺憾の意を示すとともに、マニラに駐在する中国外交官はあくまで「ゲスト」だと注意を促して、中国船がフィリピンの海域にとどまる限り、毎日外交上の抗議を行うと言明した。
中国海上民兵はどのように機能するのか
中国政府の否定にもかかわらず、欧米関係者の見方では、米国防総省が人民軍海上民兵(PAFMM)と呼ぶ集団に関して曖昧(あいまい)な点はほとんどない。
米太平洋軍統合情報センターの元作戦責任者、カール・シュスター氏はCNNの取材に、「人民軍海上民兵は漁をしているわけではない」と指摘。「彼らは船に自動兵器を搭載して船体を強化しており、至近距離では非常に危険な存在となる。また最高時速は18~22ノット(時速32~40キロ)に上り、世界の漁船の9割より速い」と説明した。
専門家の中には、船体の青い色とロシアの「小さな緑の男たち」にちなみ、こうした民兵を「小さな青い男たち」と呼ぶ向きもある。「小さな緑の男たち」とは、ロシアが2014年にウクライナからクリミア半島を併合する前、記章を付けない緑の軍服をまとってクリミアに潜入していた兵士のことを指す。
米海軍と海兵隊、沿岸警備隊のトップによる昨年12月の報告書では、「海上民兵は『他国の主権を転覆し、違法な主張を強制』する目的で中国政府によって利用されている」と指摘した。
この問題に関する米国有数の専門家、コナー・ケネディー氏とアンドリュー・エリクソン氏も2017年、海軍戦争学校のために書いた文章で、「こうした民兵は中国軍の重要な一員であり、中国が言うところの『人民軍システム』の一部をなす」と説明した。
そのうえで、海上民兵は「国家によって組織、育成、統制される部隊であり、中国政府の支援を受けた活動を行うため、軍の直接の指揮系統に入っている」とした。